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「困った人々の心に明るさをともす」 中村医師が亡くなった同僚に誓った生き方

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2019年12月11日 08:00  AERA dot.

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写真2018年6月16日、福岡市早良区の西南学院大学でアフガンでの活動を報告する中村哲医師 (c)朝日新聞社
2018年6月16日、福岡市早良区の西南学院大学でアフガンでの活動を報告する中村哲医師 (c)朝日新聞社
 中村哲医師がアフガニスタンで銃撃され死亡した。活動は医療に限らず、井戸掘りでの水の確保、農業用水路の設計にまで及んだ。中村医師を突き動かしたものとは何だったのか。AERA 2019年12月16日号から。

※【「不平等に対する復讐」 中村哲医師が人生をアフガニスタンに捧げた理由】よりつづく

*  *  *
 2000年、アフガニスタンは大旱魃(かんばつ)に見舞われた。1200万人が被害を受け、400万人が飢餓状態となった。当時、ペシャワール会はアフガンとパキスタンに5カ所の診療所を持ち、160人の職員(うち日本人は5人)がいた。年間18万人を診療していたとはいえ、国際医療NGOとしては中小規模、予算は1億円で、ギリギリだった。それでも中村医師は、医療よりも先に飲料水を確保するため、「井戸を掘る」という新たな活動方針を決めた。

【写真】通水工事から約3年後、2009年4月のスランプール平野

 同時期に、アルカイダを匿うタリバン政権に対して国連制裁が発動され、援助団体は次々と撤退した。01年9月にはアメリカ同時多発テロが起こり、アフガン空爆が行われた。

 人々が最も助けを必要としているときに、アフガンには救いの手は差し伸べられず、代わりにミサイルが降ってきた。

「誰も行かないなら、我々が行く。誰もやらないなら、我々がやる」が、ペシャワール会の精神だ。中村医師は逆に援助の規模を広げた。井戸では足りないからと水路を作り始めた。資金援助を呼びかけるために日本に帰国すると、空爆を支持する政府に異を唱え、「今のアフガンの問題は政治や軍事ではなく、旱魃と飢餓だ」と訴えた。

 灌漑(かんがい)施設を築く「緑の大地計画」は難航した。アフガンにもペシャワール会にも、最新の土木技術と豊富な資金はない。

 帰国した際、1790年に完成して現在も稼働中の故郷の山田堰を研究した。江戸時代の伝統的な工法で作られ、大がかりな機材がなくても水を引くことができる。現地の人々とともに、地道に汗を流して少しずつ水路を延ばした。

 自らも設計に携わったと聞き、「水路の設計なんて、どこで勉強したんですか」と聞くと、「計算も必要だし、高校数学から教科書で勉強し直しました」と照れくさそうに話した。

 緑の大地計画は03年に始まり、現在までに1万6500ヘクタールの農地を回復させた。労働力の多くは現地の人々だ。海外の援助団体が豊富な資金を投じて作って終わりではなく、ともに作る。伝統的な工法にこだわったのは、アフガンの人々が将来にわたって自分たちで水路を築き、守り続けることを望んだからでもある。

 活動のさなかには悲劇もあった。08年、日本人職員の一人だった伊藤和也さん(当時31歳)が拉致され、殺害された。遺体は中村医師に付き添われ、日本に帰った。弔辞で中村医師はこう語った。

「和也くんは、決して言葉ではなく、その平和な生き方によって、その一生をもって、困った人々の心に明るさをともしてきました。成し遂げた業績も数々ありますが、何よりも、彼のこの生き方こそが、私たちへの最大の贈りものであります。

 平和とは戦争以上の力であります。戦争以上の忍耐と努力が要ります。和也くんは、それを愚直なまでに守りました。

 彼は私に代わって、そして、全ての平和を愛する人々に代わって、死んだのであります。昨今、世界を覆う暴力主義──それが個人的なものであれ、正義という名の政治的、国家的なものであれ──和也くんを倒した暴力主義こそが私たちの敵であります。そして、その敵は、私たちの心中に潜んでいます。今、必要なのは憎しみの共有ではありません。憤りと悲しみを友好と平和への意志に変え、今後も力を尽くすことを誓い、天にある和也くんの霊が安からんことを心から祈ります」

 この言葉は、中村医師自身の信念と生き方を示している。

 アフガンでの銃撃事件を受けて、4日午後5時半、ペシャワール会は日本で会見を開いた。福元満治広報担当理事(71)は、「あと20年はやると言っていたのに」と話した。

 私は11年前、当時事務局長だった福元氏が伊藤さんの事件を受けて開いた会見を思い出した。記者から「命の危険があるのになぜ活動を続けたのか」と問われ、福元氏は静かに答えた。

「あなたには命をかけても成し遂げたいことはありませんか?」

 中村医師も同じような質問を受けると、「溺れかけた子を救いに親が海に飛び込んで死んだとして、誰が親を批判するだろうか」と答えていた。

 中村医師は、困っている人たちがいる限り、そこにとどまる道を選んだ。伊藤さんの弔辞で誓ったとおりに。(ジャーナリスト・古田大輔)

※AERA 2019年12月16日号より抜粋

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