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ミッツ・マングローブ「沢尻エリカが好き。でも愛せない理由。」

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2019年12月11日 16:00  AERA dot.

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写真ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場〜語り亭〜」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場〜語り亭〜」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「沢尻エリカ」を取り上げる。

【写真】東京湾岸署に移送される沢尻エリカ容疑者

*  *  *
「クスリをやっていそうな人がクスリで捕まる」とか「胡散臭そうな人が詐欺で捕まる」とか、これってもはやサービス精神の賜物なんじゃないかと思う今日この頃。沢尻エリカさんに対する「やっぱりね」は、ある意味「待ってました!」と同じ文脈に位置します。そして世間は思いのほか、この手の「ベタ」が好きです。敷居の高い芸術性なんかより、記号的な王道を何度も「なぞり書き」してくれる方が、断然お茶の間的には分かり易いから。

 いつの時代も「ガス抜き要素」は不可欠ではありますが、最近の「正義」「常識」「健全」「道徳」の無理強いとも言える妙な風潮に対するストレスを正当化する役割としても、エリカ様逮捕は、「待ってました!」感が強かった。それにしても彼女のベタさは分かり易い。まさに教科書通りです。真新しさや奥行きの欠片もないので、観ている人の想像力に訴えかけない。まるで現在のJ‐POPのように、答えや注釈がすべて表面に書いてあるような退屈さに満ちています。同じ系譜の「ベタ」でも、横山やすしさんや羽賀研二さんなどには、しみじみ噛み締めたくなるような味わいと不親切さがありました。だからこそ世間は彼らを愛した。沢尻さんのことは「好き」だけど、まだ愛せてはいない。そこが大きな違いです。

 ならば沢尻エリカが「愛される」には何が必要なのか。まず彼女に絶対的に不足しているのがオリジナリティです。歴代の「不良」を片っ端から寄せ集めている律儀さとマメさは、今のご時世において大したものだと思います。自分の中にある「女優像」や「悪女像」といった理想や幻想に対して、彼女はとてもよく努力している。「女優とは奔放で破天荒で激情的であるべし」。そんな理想像を実に的確かつキャッチーに体現しているのは、「別に」騒動の頃から認めるところではあります。しかし、いかんせんその様式美が薄っぺらい。大概、女装は「その手の女」に独特な食いつきを見せるものなのですが、エリカ様に対してはみんな面白がり期待し続けてはいるものの、それ以上の食指が動かないでいるのも事実です。既視感というか、沸き立つものを感じないというか、ドラマや映画を観過ぎたせいでこんな風になってしまった女装をもってしても「この子、ドラマの観過ぎなんじゃない?」と言いたくなるような甘さと浅さが拭えない。

 あと、世間の多くは彼女を「上手い女優」と捉えているようですが、私はそうは感じません。沢尻エリカ然とした独自の存在感と、圧倒的な造作の美しさは確かにあります。特に女優には、芝居の上手さで訴える「名女優タイプ」と、演技以上の存在感(いかに場面の中で浮き、画面からはみ出せるか)で勝負する「大女優タイプ」がいて、エリカ様はどこからどう見ても「大女優系」に分類される人材です。しかしご本人的には「芝居の上手さ」を押し出したい感が満載のようで、それもまたエリカ様がエリカ様になりきれない忸怩(じくじ)たる部分でもあるのです。

 そして今更ながら「MDMA」という、これまた何の奥ゆかしさも感じさせない代物で……。すべてが普通過ぎる。どんなにベタな様式美でも、世間の想像力など到底及ばないぐらいの非日常や非常識を提供してこそプロフェッショナルなはず。いつかエリカ様を「愛せる」日が来ることを願って止みません。

※週刊朝日  2019年12月13日号

【週刊朝日編集部からのお知らせ】
いつも『アイドルを性(さが)せ!』をご愛読くださり、ありがとうございます。この連載は2016年5月から週刊朝日で始まりましたが、このたび書籍化して、単行本『熱視線』(本体価格1400円)として発売されました。連載の内容を大幅に加筆修正し、ミッツさんご自身が描いているアイドルの似顔絵(AERA dotでは未掲載)も収載しています。装丁にもこだわりました。毒と愛を込めて作った一冊です。ぜひ、紙の本でじっくり味わってお楽しみください!

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