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山中伸弥教授が強調する「米国の怖さ」 iPS細胞研究で出し抜かれ“逆輸入”の恐れも

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2019年12月12日 08:00  AERA dot.

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写真公明党の会議で講演した山中伸弥教授(左から2番目)。山口那津男代表に「どの程度、国から支援すべきかといった議論は、オープンに科学的に決めていただきたい」と直接訴えた(撮影/合田禄
公明党の会議で講演した山中伸弥教授(左から2番目)。山口那津男代表に「どの程度、国から支援すべきかといった議論は、オープンに科学的に決めていただきたい」と直接訴えた(撮影/合田禄
「夢の再生医療」につながると期待されたiPS細胞が作製されてから13年。臨床研究が進む一方で、研究にかかる費用が問題視され始めた。国の予算打ち切りも報じられ、研究は曲がり角を迎えている。AERA 2019年12月16日号では、奔走する京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥さんの姿を追った。

【イラストで見る】iPS細胞を使った臨床研究はここまで進んだ

*  *  *
 11月29日早朝。東京・永田町の衆議院第二議員会館の地下2階の一室で、京都大学iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)の教授・山中伸弥さん(57)が公明党の議員たちを前に声を強めた。

「私は残りの人生、iPS細胞の医療応用に懸けています。どうか私を信じていただきたい」

 この数カ月、山中さんの姿を永田町や霞が関で頻繁に見かけるようになった。自民党本部で講演し、有力議員とも次々と面会。萩生田光一文部科学相(56)、竹本直一科学技術相(79)とも会った。

 米国のグラッドストーン研究所と京都大の研究所を行き来して研究を続けている山中さんが、東京に来て政治家たちに直接訴える機会を増やしたのは、iPS細胞をめぐる事業への逆風が強まっているためだ。

 iPS細胞は体のどんな細胞にも変化させることができる万能細胞。山中さんが2006年に初めて作製し、12年にノーベル医学生理学賞を受けた。患者自身の皮膚や血液からiPS細胞をつくり、網膜や心筋、神経などに変えれば、これまで難しかった病気も治療できるかもしれない。しかも、もともとは自分の細胞なので、他人から臓器提供を受けた際のような拒絶反応が起きにくい。夢の再生医療につながると期待が膨らんだ。

 一方で研究が進むにつれて課題も浮き彫りになってきた。細胞をつくって、人に移植できるレベルまで安全性を高めるには、多数の検査や高度な設備が必要で、1人の治療に数千万円の費用と数カ月の時間がかかる。重篤な患者では間に合わない可能性もある。

 そこで、CiRAが13年から始めたのが、iPS細胞のストック事業だ。普通、他人由来の細胞を人に移植すると拒絶反応が起きるが、ごくまれに存在する特殊な免疫の型の細胞なら、ある一定数の人に拒絶反応が起きにくくなる。そこで、その特殊な免疫の型の持ち主に、献血のようにあらかじめ血液を提供してもらい、複数の型のiPS細胞をそろえておくという構想だ。

 140種類あれば、日本人の9割に拒絶反応が起きにくいiPS細胞がそろうことになると試算された。この構想でストック事業は始まり、国も10年間は支援することになった。昨年度は13億円、これまでに計90億円以上が投じられてきた。

 しかし、構想は大きく変遷している。一番の問題は多くの型の提供者を探すのが難航していることで、すでに日本人の4割をカバーできる4種類まで作製したが、それ以上に増やすことはいったんやめ、140種類そろえる方針を取り下げた。最初に出来上がった4種類と、拒絶反応が起きにくいようゲノム編集した6種類のiPS細胞で日本人のほぼ全員をカバーする方針に転換している。

 また、大学の研究所の一部門という形でストック事業を実施してきたが、京大は公益財団法人という形で独立させることにした。事業を将来にわたり、安定して継続させるねらいがあった。

 公益財団法人化の手続きと前後して、これまで国の全面支援を受けてきた事業の雲行きが怪しくなってきた。

 今年8月上旬、文部科学省で有識者会議「幹細胞・再生医学戦略作業部会」が開かれ、山中さんも参加。iPS細胞を使った再生医療を実現するためのプログラムの評価と、今後の方針が議題だった。

 会議では、iPS細胞ストック事業について「基本的な技術が確立し、臨床応用に不可欠な基盤だ」との意見がまとまった。山中さんが目指す、事業の公益財団法人化の方針も認められ、ストック事業を含むプログラム全体を「継続する」となり、ストック事業に追い風が吹く内容のはずだった。

 にもかかわらず、会議後に取材に応じた山中さんの表情は暗かった。「私たちの説明が不十分。iPS細胞研究に予算が偏重しているのではないかというお叱りもある」と言葉少なだった。公益財団法人化の手続きと前後して、政府内で予算削減の議論が出始めたことが背景にあったとみられる。

 複数の関係者によると、会議の直後、医療政策を担う内閣官房の幹部らが京大を訪れ、来年度からiPS細胞ストック事業に対する国の支援を打ち切る可能性を山中さんに伝えたという。

 一方で、文部科学省は8月末、来年度予算の概算要求で、iPS細胞ストック事業の関連予算を今年度と同額盛り込んだ。文科省の担当者も「予算を確保していく方針は変わらない」と繰り返したが、「来年度からiPS細胞ストック事業の予算がゼロになるかもしれない」という話は関係者の間を駆け巡った。

 調整に乗り出したのは自民党だった。自民党科学技術・イノベーション戦略調査会に新たに設けられた「医療分野の研究に関する小委員会」は10月、財団が段階的に自己資金で運営できるように支援するという内容の決議をまとめた。委員長の古川俊治・参院議員(56)は「すぐに予算を打ち切るという声も出ていたが、数年間かけて事業が自立するようにしてもらいたい」と話す。

 11月11日、山中さんは東京都千代田区の日本記者クラブで会見し、公の場で初めて予算打ち切りの可能性について発言した。「一部の官僚の方の考えで国のお金を出さないという意見が入ってきた。いきなりゼロになるというのが本当だとしたら、相当理不尽だなという思いがあった」と赤裸々に語ったのだ。「国の官僚の方に十分説明が届いていないように思います。説明できるところは説明する」

 その言葉通り、山中さんは冒頭の公明党議員の会合や、大臣たちとの面会の日々に追われた。

 山中さんが強調するのは「アメリカの怖さ」だ。

 iPS細胞を使った臨床研究では、日本が世界をリードしてきた。世界で初めてiPS細胞を使った臨床研究が実施されたのは14年。当時、理化学研究所にいた高橋政代さん(58)らのチームが目の難病「加齢黄斑変性」の患者からiPS細胞をつくって、網膜の細胞に変化させて移植した。

 その後も同じく高橋さんらによる加齢黄斑変性、CiRAの高橋淳教授(58)らによるパーキンソン病、大阪大学の西田幸二教授(57)らによる角膜の病気を対象に、それぞれ移植が実施されている。

 山中さんも「iPS細胞を使った再生医療は日本が先行していた」としながら、「一番脅威に感じている」と挙げるのが、米バイオベンチャー企業ブルーロック・セラピューティクスだ。

 同社は、iPS細胞から作った神経細胞をパーキンソン病患者に移植する臨床試験を、早ければ年内にも始める。iPS細胞から作った心筋細胞で心不全、腸の神経細胞で重い腸の病気といった治療の研究開発も進める。

 山中さんは「私たちがやってることと完全に競合する。超大国アメリカがiPSにどんどん乗りだし、本気になってきた」と話す。同社は16年に設立した時点で約250億円を調達。独製薬大手バイエルは今年8月、完全子会社化を発表。CiRAがこれまで国から受け取ってきた研究資金の総額を優に超えた。

 ほかにも、米バイオ医薬品企業フェイト・セラピューティクスは、がんを攻撃する免疫細胞をiPS細胞から作り、患者に移植。今年4月には、最初に投与を受けた患者では、28日間の観察期間で大きな副作用がなかったことを発表している。

 山中さんは危機感を募らせる。

「米国は日本の様子を見ていたんだと思う。(基礎研究や初期の臨床研究など)大変なところは日本がやってきた。米国はいけそうだと分かると、いっきに取りにかかってくる。米国で開発が進み、逆輸入する状況になりかねない」

 そのためにも、CiRAがiPS細胞をつくって大量に増やし、神経や心臓といった細胞に分化させたり、品質検査したりすることで再生医療の実現に取り組む企業を支え、競争力を上げる必要性を強調した。

「将来的に雇用や税収という形で国にも返ってくる。患者さんにもより早く新しい医療が届く。先々の投資という意味で、国の支援をいただきたい」(山中さん)

 iPS細胞のバンクも米国で複数立ち上がり、すでに細胞の提供が始まった。韓国やオーストラリアでも近年、設置された。「ここが今、本当に踏ん張りどころだ」と山中さんは語る。(朝日新聞社・合田禄)

※AERA 2019年12月16日号より抜粋

このニュースに関するつぶやき

  • 「メリットがなくても動く国民性」がないといけない。
    • イイネ!6
    • コメント 4件
  • 日本は #基礎研究 に金を出さないからな。
    • イイネ!14
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