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司法試験に合格した「医師」たちのカルチャーショック 「データより判例通説が重視されるなんて」

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2019年12月13日 10:32  弁護士ドットコム

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新司法試験制度が導入されて以来、法律を学んだことのない社会人がロースクールや予備校に通い、新司法試験を受けるということも珍しくない状況になっています。


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今回は、医療の世界から法律の世界に飛び込んだ、医師免許を持つ3人の司法修習生に話を聞きました。 (取材は11月7日に実施)



【回答者】 ・小嶋高志さん(40代) 名古屋大学医学部医学科 卒業 日本麻酔科学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医。 麻酔・集中治療部において麻酔科医として勤務した後、東京大学法科大学院へ進学



・竹口文博さん(40代) 東京医科大学医学部医学科 卒業 博士(医学)、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医。東京都内の大学病院で臨床、研究と教育を継続しながら早稲田大学法科大学院へ進学



・竹口英伸さん(30代) 群馬大学医学部医学科 卒業 消化器内科医として勤務し、1年半ほど厚生労働省で勤務した後、一橋大学法科大学院へ進学



●「医療トラブルをなくしたい」「週4弁護士、週3医師で働く」

―なぜ、司法試験を受けようと思ったのですか?また、どのような法曹を目指していますか?



小嶋:僕は、もともと麻酔科医と集中治療をやっていたのですが、人が亡くなることの多い環境ということで、医療側がちゃんと対応をしていても患者さんやご家族に十分伝わらず、トラブルになるということが多かったんです。なので、弁護士になってそういう状況を改善したいと思ったのがきっかけですね。医療トラブルをなくしていきたいと思っているので、就職先も医療側中心の企業法務です。



竹口文博:僕は、司法試験を受けるつもりはなかったんですよ。



―そうなんですか?



竹口文博:臨床での専門が腎臓内科の透析なんですけど、透析治療って体に太い針を刺す大変な治療なんです。でも透析の患者さんは高齢者も多く、中には、嫌だって暴れる認知症の人もいます。そういう人には、体を拘束して透析をすることがあるんですよ、年間100回以上も…。これはおかしいんじゃないかと思って「透析を止めるべき」だと上司に言ったら、「透析を止めると殺人罪になるらしい」と言われて、衝撃を受けて。どうしてこれが犯罪になるのか?ということを研究したくて、ロースクールに行ったんです。



―研究科ではなくロースクールに?



竹口文博:法学部卒でない医師の僕が、働きながら研究ができる場所がロースクールだけだったので、仕方なくローに(笑)。ロー在学中の3年生の前期に透析と刑法の論文を書きあげて医学会誌に投稿したのですが、医療と法律の境界の論文を書くにしても、法曹資格はあった方がいいと教授に言われ、そこから司法試験を目指しました。今後は、学んだ法律の知識を生かして、医療者が安心して仕事をできる環境整備に取り組みたいと思っています。



竹口英伸:僕は、医療訴訟で、医者の考えていることと法律家の考えていることがズレてるなって思ったのがスタートですね。その後、産業医の仕事をしたり厚労省で働いたりしたことがあって、組織で働く人の大変さを見る機会が多かったんです。なので、働く人たちがどうしたら元気に働けるかということの追及をしていきたいなと思っています。産業医の仕事は、医学的な判断と法律的な判断がミックスしている部分が大きいので、そういうところで働きたいですね。



―医師としても働かれるのですか?



小嶋:僕は、辞めてもいいと思っています。医療のプレイヤーとして動くより、マネジメントをする方が、結果として大きなものが得られると思っているので。



竹口文博:僕は辞めません。所属大学病院の顧問事務所に入所し、医師と並行して弁護士の仕事をします。週4弁護士、週3医師、です。



竹口英伸:僕は、弁護士の仕事と医師の仕事をうまく融合させられたらいいなと思っています。産業保健の分野は法律との親和性も高いので、弁護士や医師という枠にとらわれない働き方ができたらなと考えています。



―弁護士の就活は大変でしたか?



竹口英伸:それなりに年齢がいっていると、法律事務所が欲しい人材とマッチしないということがけっこうあって。そう考えると、弁護士の方が供給過多なんですかね?



竹口文博:僕は、修習先の事務所しかわかりませんが、弁護士の先生方がものすごく忙しそうに働いていましたので、弁護士が余っているという印象はないですね。



●ローの未修へ、仕事をしながら通える社会人向けのコースも

―ロースクールに通って勉強されたんですか?



小嶋:そうですね。退職をしてローの未修に入り、勉強に専念しました。



竹口英伸:僕も、退職をして未修で入りました。予備を考えて予備校の通信授業を受けたこともあったのですが、独学では自分は無理だなと思ってローに行くことにしました。



竹口文博:僕は、仕事をしながら、週に3日だけ通学しました。紆余曲折がありましたが、早稲田のローには、2年かけて通常の1年分の単位を取る社会人向けのコースがあり、職場からも近かったので、ここで研究をしました。



小嶋:うちのローにもありましたよ、長期履修コース。



竹口文博:使ってる人いました?



小嶋:いや、知る限りはいなかったです(笑)



竹口文博:やっぱりそうなんですね(笑)。早稲田でも知る限り私以外誰もいませんでした。たしかに働きながら勉強するのは大変ですが、職場の状況が許せば、もっとたくさんの人に使ってほしいなと思います!週に3日、違うスペシャリティの勉強をすると、視野が本当に広がります。



●法学で重視されるのは「判例・通説」、医学で大事なのは「データ」

―医療から司法の世界に来て、カルチャーショックやギャップはありましたか?



小嶋:法律を学んだ後に医療の世界を見て、コンプライアンスに対する関心が乏しいことに気付かされました。予防法務の概念が全くないし、ガバナンスを担当している人も、単に事務員などとして長く勤めただけの、法律に精通していない人だったりして…。



その根本的な原因は、医療がガバナンスにコストをかけようとしないことにあるのかなと思いました。医師の驕りがあって、患者さんと対等じゃない立場をある意味「悪用」して法的問題を乗り切っているのかな、と。一方、弁護士は、個人個人と正面から向き合って権利を実現しようとしていて…それはカルチャーショックでしたね。



竹口文博:ほんとですか!?僕の職場では、医師が上だって感覚はゼロですよ。逆に、こちらが必要十分適切な医療を一生懸命提供しようとしているのに、法律は、僕らが現実にできる以上のものを要求してくるなぁと感じました。



―法律の要求が大きすぎると?



竹口文博:たとえば、説明責任を果たしたことを証明するためだけに、たくさんの書類を作って患者さんに署名をしてもらって、という作業が増えていて…法律が入ることによって形式的で無駄なことが増えてしまっているというか…。



小嶋:それって法の要求の問題なのかな?法律は単に説明責任を要求しているだけで、それに対して医療側が「書面」って方法で解決しようとした結果のような気がする。もっと効率的なシステムを作ってしまえば、作業は簡略化できると思います。



―法律の問題なのではなく、運用の問題だということですね。



竹口文博:でも、書面以外の方法が現時点であるかな…。年々、書類作成に追い立てられていますよ…。



小嶋:その気持ちはよくわかりますが(笑)



竹口英伸:修習で裁判傍聴をしてみて、訴訟では書証がすごく重視されるんだなと実感しました。



―訴訟で重視されるポイントも、医療の現場の感覚とは違うんでしょうか?



竹口英伸:訴訟では「医師がすべきだったことは何か」が問題とされて、実際にその医師がどんな働き方をしていたか…たとえば、他に入院していた重症患者が何人いたとか、その医師は当直上がりで1時間しか寝てなかったとか…そういう雑多な諸事情はあまりフォーカスされないみたいなんですよね。見る視点が違うなと思いました。



―勉強の部分ではどうでしたか?



小嶋:医学教育って、基礎的な部分は固まってて解釈の余地はないんですよ。なのに法律は、土台の部分すら色んな学説があって、ぐらぐらじゃないですか(笑)。それくらいは、そっちでもっと固めといてくれよって思いました(笑)



―論証の仕方や、論文の書き方も違うんですか?



小嶋:全然違います(笑)



竹口文博:法律の世界だと判例・通説が重視されますけど、医学の世界ではデータが何よりも大事で。



小嶋:医学論文では、実証がメインで考察はおつまみなんです。どんな実験が行われてどんな数字が出てきたかっていう結果が大事で、人の意見ってあんまり重要じゃないんですよね。



竹口文博:医学の世界だと、どれだけ権威のある人が言っていることでも、何千例、何万例というデータ、数字には勝てないという共通理解があります。一方で、法律の世界だと、判例通説が1番上のレベルに位置づけられていて…自然現象を研究対象とする自然科学と、社会における人間活動を研究対象とする社会科学での、本質的なアプローチの違いを痛感しました。



●「やって後悔」するよりも「やらずに後悔」する可能性の方が2倍高い

―最後に、これから法曹を目指そうとしている社会人、現在法曹を目指している社会人に対して、メッセージをお願いします。



小嶋:法律を学んでみて思ったのは、法的視点というものを自分が今まで生きてきた領域に落としてみると、見られる景色が変わって面白いということです。必ずしも絶対弁護士になるんだという考えだけでなく、欲しい法的知識を自分の領域に活かすという感覚でロースクールを利用するという考えもあっていいのかなと。もちろん、法曹としてやりたい何かがあったり、見つけられたりしたんだったら、ぜひ、法曹になり、経験を活かして新たな法律領域のパイオニアになってほしいです。



竹口文博:世の中には、リスクを取らなければできないことがあります。働いている社会人がロースクールに行ける機会は多くないと思うので、だからこそ、チャンスがあったら積極的に挑戦してもいいと思います。ロースクールに在学中、数えきれないほど大変だと思った日があったことはたしかですが、退屈だと思った日は一日もありません。法律は社会に関わる学問なので、視野が広がって、それから人生で忘れかけていた久しぶりの学生気分を味わえます(笑)



現に勉強している人には、最後までやり切って欲しいです。若い人に囲まれて勉強するのは大変ですが、最後までやり遂げれば、別の社会領域を見ているという意味で、法学一筋で来た法曹にはない視点が必ず得られているはずなので、その経験が必要とされるところは必ずあると思います。



竹口英伸:僕らは法律の上で社会生活をしているので、法律が関係しない職業ってなくて、なのでどんな仕事をしていたとしても、その経験ってきっと役に立つと思います。法律にはそういう度量があるなと思います。経験を踏まえて法律を勉強するというのはすごく楽しいことなので、ぜひ挑戦してください。



―ありがとうございました。



竹口文博:最後に、科学者らしいことをひとつ言っていいですか!?



―お願いします(笑)



竹口文博:何かある物事をやって後悔する可能性と、やらずに後悔する可能性を比べると、やらずに後悔をする可能性の方が2倍高いという論文があるんです。なので、自然科学者としては、やるかやらないか迷ったらやってみることをおすすめします。「2倍」という数字は、統計学的根拠があるevidenceですから(笑)


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  • 頭はいいんでしょうが、医師不足が懸念されているのに何年間も医療現場を離れて法科大学院に行ったり、司法修習生として勤務するのは、果たして健全な社会
    • イイネ!6
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