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本に揺さぶられ他者の痛みを知る 少年院で物語と向き合う取り組み

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2019年12月15日 07:00  AERA dot.

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写真茨城農芸学院で少年に絵本の読み聞かせをする町田りんさん(撮影/ジャーナリスト・大塚敦子)
茨城農芸学院で少年に絵本の読み聞かせをする町田りんさん(撮影/ジャーナリスト・大塚敦子)
 少年院で専門家の力を借りて、物語と向き合う試みが始まっている。ブックトーク。非行に走った少年たちは、読み聞かせやお話会で本と出会い、何を感じるのか。AERA 2019年12月16日号では、その現場を取材した。

*  *  *
「ハリネズミは ぬくぬくと ゆめをみる……」

 柔らかな声に、絵本のページをめくるかすかな音が混じる。少年はじっと言葉に耳を澄ませ、絵に見入っている。きちんと両手を膝の上に置き、少し身を乗り出すようにして。

 11月19日、茨城県牛久市にある少年院「茨城農芸学院」の面接室。盛岡大学の非常勤講師で学校図書館司書の町田りんさん(63)が昨年度から始めた読み聞かせの光景だ。現在は篤志面接委員として、月1回約40分ずつ、一対一で少年に向き合っている。

 町田さんが選ぶのは、主にロングセラーの絵本と昔話で、若干の新刊書も加える。毎回10冊以上の本を持参して机に並べ、少年自身に選んでもらう。

 冒頭の少年に子どもの頃、読み聞かせをしてもらったことがあるか尋ねると、言葉に詰まった。母親、5人の姉妹、そして「いつのまにかいたお父さん」と暮らしていたが、中学2年より前のことは思い出せないという。実の父親はまったく記憶にない。彼は15歳のとき、末の妹に自分で絵本を買って読み聞かせをしてあげたことがあるそうだ。でも、読んでもらうほうが好きだという。

「人に読んでもらうと、気持ちが楽になる」「読んでもらうと、いろいろ想像できる」「相手が工夫して読んでくれてる気持ちが伝わる」

 訥々(とつとつ)と話し、「ここを出たらまた妹に読み聞かせをしてあげたい」と笑顔を見せた。

 茨城農芸学院の在院生は約80人。窃盗や傷害など非行に走った10代後半の少年たちで、多くは11カ月間ここで過ごす。発達上の問題を抱えている上、虐待や育児放棄といった厳しい家庭環境で育ち、情緒の発達が未熟な子が多いという。

 こうした背景を持つ子どもが皆、道を踏み外すわけではないが、他者を再び傷つけないためにも本人のケアが欠かせない。現在、3人の少年を対象にした絵本の読み聞かせは、読書教育ではなく、情操教育という位置づけだ。

「心を豊かに育て、いつか自分の子どもにも読み聞かせができるようになってほしい」と法務教官の小林正史さんは言う。

 同学院では、今年7月、東京子ども図書館の協力で「お話会」も開催。ベテランの語り手3人が三つの寮に出向き、日本や外国の昔話、詩などを語って聞かせた。少年たちにとって、耳から物語を聴くというのは初めての経験だ。最初はやや硬い表情だったのがだんだん肩の力が抜け、そのうち何人かは前のめりになっていった。

 物語を聴くことは、たとえそれが他者の物語であったとしても、自分自身の人生を新たな視点から捉え直すきっかけにつながる、と町田さんは話す。

「これまでの成育歴の中のつらかったことも振り返れるようになってほしい。子どもたちにはその力があると信じています」

 どの少年院にも蔵書はあるものの、茨城農芸学院のように、外部の専門家の力を借りて、本と触れあう機会を設けている施設はまだ少ない。

 先駆的なのは、公共図書館として、少年院や児童自立支援施設の子どもたちを支援する試みを2010年度から続けている広島県立図書館だ。家でも学校でも読書の楽しさを知る機会がなかった子が施設にいる間に届けたいと、吟味した本を貸し出したり、施設職員に絵本の読み聞かせの指導をしたり、図書館職員が施設に出向いてブックトークや読書会も実施してきた。

 活動の根底にあるのは、「本は人を創る」との信念だ。本は未知の世界への窓を開き、心の土壌を豊かにし、それまで知らなかった自分自身の可能性に気づくきっかけを与えてくれる。(ジャーナリスト・大塚敦子)

※AERA 2019年12月16日号より抜粋

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