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なでしこジャパンは自信を取り戻した。E−1優勝で東京五輪へ弾み

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2019年12月18日 17:22  webスポルティーバ

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 籾木結花(日テレ・ベレーザ)は静かに目を閉じ、時間をかけて大きく二度深呼吸をした。蹴り出されたペナルティキックは韓国GKにコースを読まれていた。しかし、芯を捕らえたシュートは、軌道が狂うことなくゴールネットに突き刺さった。苦しみ抜いた末に生まれた終了間際の決勝弾だった。

「”ここで決めたらチームが勝てる”とかではなく、自分がボールを蹴ってゴールを決めるという動作だけに集中しました」(籾木)

 4大会ぶりの優勝を決める大一番を前に、トップスコアラーだったキャプテンの岩渕真奈(INAC神戸レオネッサ)、攻撃の柱とも言える長谷川唯(日テレ・ベレーザ)が離脱。この苦境にあって、23歳で”10番”を背負う籾木が奮い立った。

 しかし、決勝ゴールが生まれるまでの88分間は、地元の声援を受ける韓国のハイプレスの前に日本の攻撃は何度も分断された。今大会のなでしこジャパンの課題はまさにここにあった。

 巧みなパスサッカーを封じるには「ハイプレス」。フィジカルに劣る日本への対処法の筆頭に上がる項目だ。相手がアジア勢であれ、欧米勢であれ、日本はまずこのハイプレスに立ち向かわなくてはならない。たとえそれが立ち上がりのわずかな時間でも、相手の勢いに飲まれれば主導権を失うだけにとどまらず、失点も喫してしまいかねないことは、この夏のワールドカップで痛感している。

 ポイントは”剥がし”だ。相手をどれだけ引きつけて、フェイントなのか、意表を突くパスコースなのか、一枚でもマークを剥がすことができれば相手のプレスのリズムは崩れ、そこが突破口となる。

 今大会の第2戦、中国戦でもこの部分はかなり手こずった。ただ、克服の予感はあった。ボールの収まる池尻茉由(水原WFC)、岩渕、長谷川、籾木らの配置を変えながら4−3−3システムで攻撃の活性化と、相手の中盤にギャップを生み出すことにも挑戦した。

 いつもならば、海外チームに揺さぶられる日本が、揺さぶりをかけたのだ。守備には多少の混乱も見られたが、攻撃ではトップに入る選手の特性や相手DFとの兼ね合いによってプレーを柔軟に選択できる新たな形が見えた。

 これまでも、状況に応じて4−4−2から4−2−3−1など、選手の判断で戦い方が変わることは珍しくない。選手たちが対応していくのにそれほど時間は要さないはずだ。

 最終戦の韓国戦では、岩渕、長谷川の抜けた穴は大きく、決定的な流れに持ち込めたのは42分に籾木が相手を剥がして、さらに一枚かわし、田中美南(日テレ・ベレーザ)へ、そこから最後に中島依美(INAC神戸レオネッサ)がフィニッシュした場面くらいだ。

 PKを獲得する籾木のシュートにつながった持ち込んだ中島のパスと、籾木のシュートのタイミングは完全に相手の足を止めることに成功していた。ひとつの”剥がし”から連動できたのは、おそらくこの2プレー程度ではなかったか。

 いいリズムでパスを回して剥がせる場合と、それに相手が慣れて変化がつかない場合がある。そこで欲しいのが「運びながら剥がせる選手」だと高倉麻子監督は言う。その変化を求めた結果、後半に小林里歌子(日テレ・ベレーザ)を投入。粘るマークに苦戦し、指揮官の狙いどおりの形にはなりにくかったが、意図をくみ取ることはできた。

「”テンポあるつなぎ”と”運び”のバランスが大事」(高倉監督)となれば、個々の判断スピード、技術面の向上に加えて、選手の特性を活かしたペアリングがカギになりそうだ。

 攻撃面の課題は山積だが、守備では大きな成長も見えた。もっとも顕著だったのはオフサイドの成功率アップ。圧倒的なポゼッション率だった初戦のチャイニーズ・タイペイ戦ですら4本成功させているが、的が絞りやすかった中国には13本、スピードある韓国にも6本のオフサイドトラップを成功させ、ピンチを脱している。なでしこジャパンのラインコントロールはおそらく世界で最も繊細だろう。

 今回は、いつもであれば守備を統率する熊谷紗希(オリンピック・リヨン)や鮫島彩(INAC神戸レオネッサ)が不在のなか、GK山下杏也加(日テレ・ベレーザ)がポジションについて最終ラインに細かくリクエストを出し、全3試合でセンターバックを務めた南萌華(浦和レッズレディース)はそれを懸命にコントロールした。ミスも多々あった南だが、試合ごとに変わるメンバーと最終ラインを作り上げた結果、日本は無失点で大会を終えた。

 大会MVPを獲得して「自分が値するかわからないけど、周りに支えられていただけた賞です」と語った南の言葉に偽りはない。日本の守備陣を代表して南に与えられたものと捉えてもいいのではないだろうか。今回はほとんどなかったが、今後はワールドカップでも散々やられた2列目から飛び出してくる選手をいかに止めるか。ここがクリアできれば本物だ。

 今回の4大会ぶりの優勝を監督、選手は素直に喜んでいた。そこにはワールドカップベスト16敗退という苦い経験がこの半年の間、なでしこジャパンに暗い影を落としていたからだ。

 ワールドカップ敗退につながった課題が克服された訳ではないうえに、招集メンバーがベストとは言い難く、単純な比較で成長の度合いを測ることは難しい。けれど決定的な違いがある。”悪くない状況で勝ち切れなかった”ワールドカップと、”よくない状況下で優勝をもぎ取った”E−1選手権――。招集が叶わなかった熊谷をはじめ、途中離脱の岩渕、長谷川という主軸不在での優勝だ。

「同じことをやっていては東京オリンピックで優勝はできない」と籾木は語った。一度はどん底に突き落とされたからこそ、これまで積み上げてきたものを一つひとつを拾い上げては磨き直してきた。オリンピック前の最後の公式大会は追加招集をせず20名で戦い抜く激戦であったが、そこでつかみ取った優勝は自信を取り戻す第一歩に、そして東京オリンピックへ向けて、これ以上ない後押しになったのではないだろうか。

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