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サーキット観戦に不可欠のピエール北川さん。アスリート顔負けの体調管理で実況に臨む【サーキットのお仕事紹介】

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2019年12月23日 22:01  AUTOSPORT web

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写真レースアナウンサーのピエール北川さん
レースアナウンサーのピエール北川さん
 ドライバーやメカニック、チーム関係者をはじめ、さまざまな職種の人たちが携わっているモータースポーツの世界。目につきやすい職種以外にもモータースポーツを支えている人たちが大勢いる。そこで、この連載ではレース界の仕事にスポットを当て、その業務内容や、やりがいを紹介していく。

 今回は国内選手権や世界選手権、2輪、4輪に関係なく、サーキットでのレース観戦には欠かせない存在であるレースアナウンサーのピエール北川さんに話を聞いた。

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 日本国内のサーキットでレースを観戦すると、『Are you ready?』と言う掛け声が耳に入る。その声の主こそ、レースアナウンサーを務めるピエール北川さんだ。サーキットでのレース観戦に欠かせないピエールさんに、まずはレースアナウンサーがどのような仕事なのかを尋ねた。

「レースに関してはフリー走行、予選、決勝レースの実況を担当しています。もちろん、レース後は表彰式の司会もやります。朝は放送席からのご挨拶もしますし、それ以外にもパーティーやイベントの司会なども行います」

「オフィスでは、基本的にはその週末に担当するレースの情報を整理する時間を作るようにして、そのレースに出場するドライバーの戦績や基本的なルールのおさらいなどをしていますが、最近はなかなかそういう時間が取れないこともあります」

『レースアナウンサー』という肩書きで知られているピエールさんだが、この肩書きは、鈴鹿サーキットが最初に呼び出したもの。ちなみに海外では『race speaker』と呼ばれることもあるという。

 ピエールさんは国内のカテゴリーだけでなく、F1やMotoGPでも場内実況を行っている。ただこれらの世界選手権に関しては、「時間の関係もあってシリーズ全戦を見るのは難しいので、移動時間を使ってニュースサイトなどを見て、情報を把握するようにしています」とのことだ。

 上述の通り様々なカテゴリーで場内実況を務めているが、担当するレースが増えると、その分出張や“ホテル暮らし”の日数も長くなる。体調管理はもちろん、アナウンサーの仕事に喉のケアは欠かせないが、ピエールさんは「基本的にはできるだけストレスを溜めないようにするのが一番なので、僕の場合は好きに振る舞うようにしています」と語った。

「湿度管理に関しては、これからの時期は移動の時や寝る時に必ずマスクをする、ホテルでは必ず加湿器を使う、もしくはお風呂のお湯を溜めておく、などでしょうか。あとはレース後、定期的にかかりつけの耳鼻咽喉科で吸入をして喉のメンテナンスをしています」

 もちろん多忙なスケジュールのなかではメンテナンスに時間を割けないことも。そういう時には「軽く“アルコール消毒”するくらいですかね、深酒しない程度に(笑)」と、ストレスを溜めないようにするための秘策を明かした。

■アスリート顔負けの体調管理。ポイントは『水分摂取』

 普段は厳密な体調管理をしないというピエールさんだが、レースの週末を迎えると、その方法は一転して厳しいものになる。

 まず、実況を行う部屋ではエアコンを使用しない。喉のケアという点ではイメージしやすい方法だが、「体が冷えると喉にも良くない。免疫力も落ちますからね。体が冷えて喉を潰すことが多かったので、あえて発汗するくらいの方が調子はいい」と体を冷やさないことに気を使っている。

 そして驚かされたのが、実況中の水分のとり方だ。これを工夫することで、長距離のレースでもしっかりと水分を摂取することができるとピエールさんは話した。

「たとえば今年の(スーパーGT第5戦)富士500マイルレースや昔の鈴鹿1000kmなどでは、脱水症状を避けるために朝からできるだけコーヒーを飲まないようにしたり、(実況中は)あまりトイレにも行けないので、食事の量を減らしてゼリーなどを食べていました」

「あとは前日の夜かレース当日の朝からOS1(経口補水液)しか飲まないようにしています。普通の水だと体が吸収するのに時間がかかり、すぐにトイレに行きたくなってしまうので、少しずつOS1を飲みながら水分のコンディショニングをしています」

「そうすると水分もとれて、それほどお腹いっぱいにもならない。富士500マイルの時は、レース中はトイレに行ってないんじゃないかな。それでいて喉も枯れずに喋っていました」

 レースアナウンサーとして25年のキャリアを持つピエールさんとはいえ、常に平常心で予選やレースのスタートを迎えるわけではない。ドライバーやレースを見ているファンと同様に、緊張する瞬間がある。

「確かに緊張しますが、僕は良い意味で忘れやすい性格なので、いいことも失敗したこともすぐに忘れてしまいます。実況はほとんどアドリブで、周りが『あの実況おもしろかったね』と言ってくれるけれど、覚えていないこともよくあります」

「たとえば年に1回の鈴鹿8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)では、みんながそこに向けて頭を下げてスポンサーを獲得しにいったり、ケガをしながらも練習したりしていますよね。そういう話を聞いたうえでスタートのカウントダウンをする時は、ヤバイぐらい緊張します」

「でも緊張がピークになるのは、やっぱり決勝レースのスタートです。あとは終盤のチェッカー間際に逆転劇がありそうな時や、後方からすごい追い上げが来た時もそうですね」

 そんなピエールさんが『レースアナウンサー冥利に尽きる!』と感じる瞬間はというと、「自分で取材をしてエンジニアやドライバーさんに聞いたことと、自分の経験上『このサーキットはこういう展開になるかな』というのが全部組み合わさって、自分の予想通りのレース展開になった時はやっぱり楽しいですね」と語った。

 ピエールさんは国内レースに加えて世界選手権でも実況を担当しているが、年に1度しか日本で開催されないレースのなかで最も緊張するのはF1だという。

「観客動員数は一番多いし、日本人ドライバーが出ている時はこちらも思い入れがありますから。海外レースに日本人選手や日本メーカーが出ていると、特別な思いが出てくる方も多いですよね」

「2012年に小林可夢偉選手(当時ザウバー)が3位に入賞した時は、お客さんが一点を見て動いていました。僕がみんなを煽って数万人が同じタイミングで盛り上がったこともありましたが、これは一度経験するとやみつきになります」

 観客を煽るといえば、冒頭にも書いた『Are you ready?』のかけ声だ。そもそもこのかけ声はいつから始まったものなのか。またそのルーツはなんだったのだろうか。

「いつ始めたのかを忘れてしまうくらい昔の話なのですが、僕が駆け出しの頃から、先輩アナウンサーの方が、『1コーナーのみなさん?』とやっていました。それを先輩から受け継がなきゃと思って、僕もグラスルーツのレースの時からコース全域に声をかけていました」

「その時にふと出てきたのが『Are you ready?』という言葉だったんですよね。何かを真似たのだと思います。鈴鹿にはベテランのアナウンサーがいらっしゃったので、先輩のいいところをいただいて、それが自分の個性になりました」

「でも今では、お客さんに『今回は(声かけを)やってくれなかった』と言われちゃうんです。すべての観客席に向かってやりたい気持ちはあるのですが、分刻みでスケジュールが決まっているので時間が取れなくなってしまって……。最初はとにかくお客さんが盛り上がってくれたらいいなという気持ちで始めたのが、最近では義務感に駆られています(笑)」

■「選手としての経験が正確な実況に活きてくる」

 ピエールさんがレースやラリーに出場していることをご存知の方も多いだろう。自分で走った経験があれば、もちろんそれが実況に活きてくるはずだ。

 ところがピエールさんの場合は、“実況に活きるから”という理由でレース活動を始めたわけではなかった。

「原点からお話しすると、僕はもともと自分でレースをやりたかった。三重県出身で小さい頃からサーキットもよく知っていたので、レーシングドライバーに憧れていたんです」

「その夢は叶いませんでしたが、大人になって働き始めてからレーシングカートを始めました。5年くらい真剣にやりましたが、オフィシャルをやっている時に派生した仕事がアナウンサーでした。レースを主催していたクラブチームの人から、『君はよく喋るから、ちょっとマイクでアナウンスしてくれ』と言われたのがそもそもの始まりです」

 普段は実況する側の立場にあるピエールさんが実況される側の立場のこともわかっていれば、それだけ解説の幅が広がり、見ているファンの人にとってもよりわかりやすい実況に繋がるということだ。

「どうして僕が最初からうまくアナウンスができたかというと、自分で走っていた経験があるから。それが僕のベースになっているはずなので、忘れたくないんです」

「自分である程度経験していれば、(起きた出来事に対して)選ぶ言葉も変わりますし、かなり正確な実況に活きてくるはずです。何でもかんでも『やってもうた!』じゃないですからね」

 さて気になるレースアナウンサーのお給料事情はというと、「家族が食べることができて、家を建てることもできて、車にも乗れて、一般のサラリーマンと同じくらいの生活はできているなという感じです」とのこと。ただしリーマンショックの時のようにモータースポーツ界全体が大きな影響を受けると、それに伴ってピエールさんの仕事自体も減ってしまうため、額面の保証はないという。

「ただ、最近はできるだけちゃんとした金額を頂くようにしています。というのも、僕に続いてくれる人がいなくなるからです。僕がそれなりの生活をできて、きちんとした社会的ポジションを得ていないと、レースアナウンサーになりたいと思ってくれる人がいなくなりますからね」

 レースアナウンサーというのは、『この進路に進めばレースアナウンサーになれる』という道筋のない職業だ。ピエールさん自身は、レースをやりたいという想いがあったからこそ選手もオフィシャルも経験している。つまり、このレース業界にいることが大切なのだという。

「その業界に身を置いて、様々な人とネットワークが繋がって、自分のやりたいことが明確になってきたらその方向に進んでいくと、その人のネットワークがさらに奥深くにまで繋がっていきます」

「レースに関わりたいという思いがあれば、レース業界に身を置ける環境を作ることがまずは重要です」

 サーキットでのレース観戦にはもはやお馴染みのピエールさん。『Are you ready?』の掛け声が聞こえないと、どこか物足りなさを感じてしまうファンの方も多いだろう。しかしながら、アスリートさながらの体調管理をして実況に望んでいることや実況前の緊張感、これまでのキャリアを知っている人は、おそらく少なかったのではないだろうか。

 実況する側とされる側、両方の立場を知り尽くしたピエールさんだからこそできる実況を聞きに、2020年シーズンもぜひサーキットへ足を運んでいただきたい。

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