年末企画:藤津亮太の「2019年 年間ベストアニメTOP10」 アニメが「歴史」の対象になり始めた

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2019年12月28日 08:01  リアルサウンド

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写真『ぼくらの7日間戦争』(c)2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会
『ぼくらの7日間戦争』(c)2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。アニメの場合は2019年に日本で劇場公開された映画、放送・配信されたアニメの作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第13回の選者は、アニメ評論家の藤津亮太。(編集部)


●もうひとりの自分
・『えいがのおそ松さん』
・『HELLO WORLD』
・『空の青さを知る人よ』


●原作の再構築
・『どろろ』
・『海獣の子供』
・『ぼくらの7日間戦争』


●オリジナルの挑戦
・『きみと、波にのれたら』
・『さらざんまい』
・『星合の空』


●海外
・『失くした体』


●番外
・NHK連続テレビ小説『なつぞら』
・BS1スペシャル『ガンダム誕生秘話 完全保存版』


 ほかの年間回顧等で取り上げられなかった作品を3つのテーマ別にできるだけフォローした。


 まず、本年のアニメ映画に多く見られた「もうひとりの自分」を主題とする作品から3作品。『えいがのおそ松さん』(藤田陽一監督)は、おそ松以下六つ子たちが18歳の自分たちと出会うという内容。本作の過去の自分は、今の自分を見つけるまでの“一里塚”として描かれた。一方『空の青さを知る人よ』(長井龍雪監督)で出現する高校生の“しんの”は「未来へ向かおうとするエネルギー=若さの象徴」だ。彼はその存在でもって、高校生のあおい、そして31歳のあかねと慎之介(しんのの成長した現在の姿)に、今のままでいいのかと問いかける。


 『HELLO WORLD』(伊藤智彦監督)は、電子的に記録された存在である「2027年の高校生・堅書直実」と2037年の現実から来たという「大人のカタガキナオミ」の物語。こちらは2人の直実/ナオミが己の人生をつかもうとあがいて、結果2人の人生が分岐するという展開がSFらしい。2人の関係性の変化が見どころだ。


 次は原作と正面から格闘した3作品。近年はメディアミックスもあり方も洗練されて、原作をなるべくそのままアニメ化しようとするケースが多い。その中にあって以下の3作は、原作からテーマを抽出し、そのテーマに従って原作自体を再構成するという形のアニメ化に成功している。


 『どろろ』(古橋一浩監督)は手塚治虫の同名原作の再アニメ化。原作のエピソードを丁寧に拾いつつ戦と命というテーマを正面から描いた。主人公・百鬼丸の体が不完全な理由が、国を豊かにするために捧げられたためという設定になっており、はからずも『天気の子』(新海誠監督)の主題とも通じる部分が生まれていて興味深い。


 『海獣の子供』(渡辺歩監督)は、人類の理解を超えた宇宙的な生命のスペクタクルを、手描きと3DCGを駆使した圧倒的な“絵力”で描いた。映画は、そのスペクタクルに立ち会うことになった主人公・琉花の「行きて帰りし物語」として原作を巧みに再構成していた。『ぼくらの7日間戦争』(村野佑太監督)は、1988年に実写映画も公開されたロングセラーのアニメ化。子供たちが大人と籠城戦を行うというアイデアだけを踏襲しつつ、現代日本の諸相を巧みに取り込んだエンターテインメントになっている。


 3つ目は、オリジナル企画らしい挑戦を感じる3作品。『きみと、波にのれたら』は『夜明け告げるルーのうた』の湯浅政明監督の最新作。彼氏を事故で失った大学生が喪の仕事を通じて自己確立していくという縦糸に、彼氏が幽霊となって現れるというゴースト・ストーリーが絡む。この幽霊の見せ方などに湯浅監督らしさが見えて、実写ではなくアニメである必然性が生まれていた。


 『さらざんまい』は、河童と出会ってしまった少年たちが自分の隠された欲望を見つめ直し、次の一歩を踏み出す物語。幾原邦彦監督の様式的な画面づくりが逆に心の柔らかい部分を突いてくる。『星合の空』はSF作品の印象も強い赤根和樹監督が、ソフトテニス部の中学生たちとそれを取り巻く人間関係を丹念に描いている。『さらざんまい』と『星合の空』はオリジナル企画らしいエッジの鋭さで、思春期の心に切り込むところが“アニメらしい”。


 2019年は、注目すべき海外アニメ映画が多数公開された1年だった。その中から『失くした体』(ジェレミー・クラパン監督)を。同作は孤独な青年ナウフェルを主人公に、彼の淡い恋と、左手が覚えている記憶とが交錯する。主題そのものは日本のアニメとも親和性が高いのだが、それがまた違う切り口、テイストで描かれていることが刺激的だ。


 最後に番外を2つ。ひとつは朝の連続テレビ小説『なつぞら』(NHK総合)。アニメ業界の黎明期を題にとった本作の登場は(歴史ものとしてみると切り込みが浅くも感じるが)、もはやアニメが「歴史」の対象になりつつあるということだ。アニメはどうしても「今」のものとして消費されがちで、歴史といっても個人的な体験の枠を超えて語る場は少ない(アニメ系WEBもアニメ誌も基本的にそこに軸足を置いた媒体ではない)。そんな中で『機動戦士ガンダム』を生み出した状況を当事者たちの発言で立体的に構成した『ガンダム誕生秘話 完全保存版』は、「歴史」を語るひとつの実践であったといえる。


■藤津亮太
1968年生まれ。アニメ評論家。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)、『声優語』(一迅社)など。アニメ!アニメ!にて アニメ時評「アニメの門V」を連載中。最新書『ぼくらがアニメを見る理由ーー2010年代アニメ時評』(フィルムアート社)が発売中。


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