年末企画:成馬零一の「2019年 年間ベストドラマTOP10」 演技と演出における新しい方法論

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2019年12月29日 09:51  リアルサウンド

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写真『本気のしるし』(c)星里もちる・小学館/メ〜テレ
『本気のしるし』(c)星里もちる・小学館/メ〜テレ

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2019年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第15回の選者は、ドラマ評論家・成馬零一。(編集部)


1.『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』(NHK総合)、『本気のしるし』(メ〜テレ)※同率
3.『全裸監督』(Netflix)
4.『きのう何食べた?』(テレビ東京系)
5.『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK総合)
6.『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)
7.『スカム』(MBS/TBS系)
8.『スカーレット』(NHK総合)
9.『ひとりキャンプで食って寝る』(テレビ東京系)
10.『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)


 1位の『いだてん』は2019年のみならず、物語の規模、映像のクオリティ、同時代性、宮藤官九郎の作家性の円熟においてテレビドラマ史におけるひとつの到達点と言える仕上がり。2010年代は『あまちゃん』(NHK総合)と『いだてん』の年だったと、改めて思った。


【動画】『全裸監督』特報映像


 ただ、あまりに豪華絢爛すぎて皿の上の料理を全部味わって食べられたのかというと自信がない。その意味で受け手のキャパを大きく超えた作品だと言えよう。本放送で咀嚼できなかった部分は、これから繰り返し見て、この物語が何を描いていたのか、来年のオリンピックといっしょに考えてみたい。とりあえず勉強がてら、落語を聴こうと思う。


 『本気のしるし』は、最初は2位にしようと考えていたが、最終話の締め方が素晴らしかったので『いだてん』と並ぶ一位とした。映画『淵に立つ』、『よこがお』等で知られる深田晃司が全話の監督を努めたサスペンステイストの恋愛ドラマだが、とにかく画面が不穏で目が離せない。『いだてん』が、これまでのテレビドラマの総決算だとしたら、『本気のしるし』は今までのドラマにはなかった、演技と演出における新しい方法論を提示した作品だったと言えよう。


 3位の『全裸監督』は海外ドラマ市場を意識した日本制作のNetflixドラマとして、やっと最初の一歩を踏み出すことができた記念碑的作品。複数の脚本家で一話一話を仕上げる脚本執筆を筆頭に、時間と予算をかけた制作体制とそこから紡ぎ出された物語は、今の国内地上波ドラマでは作れないものだろう。アダルトビデオ業界の描写や、実話モノゆえに黒木香の許諾をめぐる部分で曖昧な点が多いことなど、批判すべき点や課題は多いが、その賛否を含めて話題をさらったことは間違いない黒船的作品だ。おそらく視聴者よりも、俳優や監督といった作り手に、これから大きな影響を与えるのではないかと思う。


 4、5位は、性的マイノリティを題材にしたドラマを選出。『きのう何食べた?』はよしながふみの同名漫画をドラマ化した作品だが、まず何よりこの作品を2007年から月イチで描いていたよしながの先見性に驚かされる。そんな素材の良さをしっかりと活かした無駄のない作りが成功の要因だろう。


 脚本の安達奈緒子は、本作の他にも『サギデカ』(NHK総合)、『G線上のあなたと私』(TBS系)の三本の連ドラを執筆。どれもクオリティが高く、今年は彼女の年だったと言って過言ではない。


 5位は、性的マイノリティを題材にした優れた作品であると同時に、今年盛り上がりを見せたNHKの深夜ドラマ枠「よるドラ」から一本を選出。完成度で観るなら、地下アイドルとそのオタクの内幕を描いた森下佳子脚本の『だから私は推しました』に軍配が上がるが、若さゆえの痛々しい手触りが鮮烈に焼き付いているのは『腐女子〜』の方。物語の締め方や男性同士の恋愛を消費する腐女子の描写等、いくつか過不足はあるが、その不全感も含めて愛おしい作品だった。


 6位は、「定時で帰る」と言えない職場環境を入り口に、日本人の会社観、労働観に切り込んだ会社モノの傑作。


 7位は、反社、半グレという言葉が踊った2019年を象徴する特殊詐欺モノ。若者の中に内在するが表向きには無いことにされている高齢者に対する憎しみを可視化した問題作。新書を原案とするアプローチは今後増えるのではないかと思う。


 8位は、平成の終わりを象徴する『なつぞら』と令和のはじまりを象徴する『スカーレット』という朝ドラ史の変遷として観ると興味深い作品。朝ドラヒロインに対して物語が優しくないのが成功要因。


 9位は、テレ東の『孤独のグルメ』が切り開いた“ぼっちドラマ”の最先端。アニメの『ゆるキャン△』、芸人のヒロシがキャンプする様子をYouTubeで配信している「ヒロシちゃんねる」と比較しながら観ると面白い。キャンプやサウナといった、本来なら物語に成りえない題材をあっさりとドラマ化してしまうテレ東ドラマの手腕には脱帽する。


 10位はSNS批判に焦点を当てた異色の学園ドラマ。旧来のドラマファンには受けが良くない日曜ドラマ枠だが、本作の他にも『あなたの番です』、『ニッポンノワールー刑事Yの反乱ー』といった話題作を次々と送り出している功績は無視できない。独立した作品というよりは、瞬間々々の面白さを追求したライブイベントという感じだが、マニア向けに閉じないためにも、こういった作品は国内ドラマに必要だと思う。


 総論としては、この10本が同じ国内ドラマという枠で語れてしまうカオスな状況は、とても豊かだったと思う。


(成馬零一)


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