《40代からの認知症対策》エンディングノートが“介護地獄”を救う、これだけの理由

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2020年01月06日 12:00  週刊女性PRIME

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 もしも親やパートナー、あるいは自分自身が、認知症と診断されたらどうするべきか。おそらく40代、50代の人の多くが考えることを先延ばしにしていることだろう。しかし、近い将来、「5人に1人が認知症」になる時代がやってこようとしている。身近な存在がいつ認知症を発症しても、おかしくない状況になりつつあるのだ。

 にもかかわらず、人々の危機感はいまだに薄い。実際には、診断されてからでは手遅れとなってしまう手続きもあるというのに。

ボケてからではもう遅い

『なぜか笑顔になれる認知症介護』(講談社ビーシー刊)の著者である奥野修司氏は、これまで多くの当事者や家族を取材し、認知症のリアルな実情や問題点を見つめ続けてきた。なかには、十分な知識がないために、不幸になる当事者たちもいたという。

 だからこそ、親の介護が視野に入ってくる40代から認知症に向き合い、準備をしておくことが大事なのだ。今回は本書をもとに、後悔しないためのエンディングノートの作り方を紹介する。

◆    ◆    ◆

「40代からエンディングノートだって? 冗談じゃない。俺はまだそんなものを書く年齢じゃないよ!」

 たいていの方はそう言われる。だが、ちょっと待ってほしい。エンディングノートに向き合うのは、自分自身のためというよりも、今後、介護を要する可能性がある親のことを知るため、と理解するべきだろう。

 本来、親が自分で作ってくれればいちばんありがたいが、現実にはほとんど書かない。臓器提供カードに○印をつけられないのと同じで、未来を決めてしまうことへ恐怖があるからだろう。エンディングノートは、遺言書ではないから法的な拘束力はない。親が語ったことを子どもが書いてもいいし、子どもが自分のエンディングノートを作成してみせ、さりげなく「親父も書いてみないか」と誘うのもひとつの手だ。

 エンディングノートというと、葬式や墓、延命措置がどうのこうの、といったことを記すものと思われがちだが、特定非営利活動法人『エンディングノート普及協会』(広島県福山市)の赤川直美理事長によると、本当のエンディングノートは「最期まで自分らしく過ごすためのもの」だという。

 書かなければ家族が困り、書いておけば、たとえ認知症になっても、本人が楽になって家族の介護も軽減する──。また、実際にエンディングノートを綴(つづ)ってみると気づくことがいっぱいあり、なかでも、定期預金と生命保険に関する内容は重要だという。

「今の高齢者は、たいてい生命保険をかけているし、お金を定期預金にしています。認知症の症状が進んで判断能力がなくなり、自分で名前が書けないと、定期預金は満期になっても更新も、解約もできません。法定後見人がつかない限り、持ち主が亡くなるまで誰も手をつけられなくなります。定期は概(おおむ)ね70歳を過ぎたら解約し、保管方法については、エンディングノートに記しておくことです」(赤川理事長・以下同)

 生命保険で困っている人もたくさんいる。

「高齢者の多くは、生命保険の受け取り先を夫婦にしています。ところが、保険をかけたことを、片側が相手に伝えていない場合も多いのです。今は寿命が延び、終身保険をかけ終えても保険金が出るのはずっと後です。

 そのあいだに認知症になったら、かけていることを忘れてしまいます。相手に保険のことを知らせていなければ、受取人は請求できません。保険は請求しないともらえませんが、かけたことを忘れて請求されない保険金が多く、問題になっているのです。でも、親がかけた保険を子どもが覚えていたら、本人の代わりに請求できます

 デジタル社会になって証書のようなものが消えたために、暗証番号がなければ誰もデータにアクセスできなくなったことも悩ましいという。

「パソコン上だけで株の売買などをやっている方がけっこう多くいます。これも、パスワードが分からなくなったら株を動かせません。今、流行の仮想通貨もそうです。

 ですから元気なうちに、エンディングノートには株や通帳と一緒にパスワードも書いておくことです。このとき、印鑑の照合もしておいてください。通帳やカードをたくさん持っている人もいますが、2つぐらいにまとめて、内容を書いておきましょう

 最近は銀行もWEB通帳をしきりに勧めるが、暗証番号や口座番号を家族に教えていないと厄介だ。

エンディングノートは介護のヒントにもなる

 親が認知症になったときのことを考えると、親自身の気持ちや思いを書き残しておくことがもっとも重要だという。

「ほとんどのエンディングノートには、好きな場所や好きな物を書く枠があります。そんなことは人に教えるもんじゃない、と思われる人が多いのですが、実は、それが認知症になったときの手がかりなるのです。特に、すごく怖かったことや嫌だったことなどは、書いておいたほうがいいですね。

 エレベーターに乗ると不穏になる認知症の方がいました。昔、納屋に閉じ込められたことがトラウマになっていたようで、それが認知症になってあらわれることがあるんですね。エレベーターが怖いとわかれば、エレベーターに乗らなくてもいい施設を探せばいいのです。普段なら苦手なことはうまく隠せても、認知症になると誰かに頼ることになり、知らずに嫌なことをされることもあるのです。

 
認知症の親に毎日手こずらされている、という家族は、よかれと思って、実際には本人がすごく嫌がることをしているのかもしれません。“(認知症患者が)困ったことをする”、と家族がこぼす場合、知らないうちに本人につらい思いをさせていることが多いのです。施設に入所するときも、何が嫌かを伝えないと、施設の人は知らずにやってしまいます」

「楽しい」や「恥ずかしい」といった感情は、認知症の症状が進んでも元気なころと同じだ。よく施設でお風呂に入るのを嫌がる方がいるが、誰だって他人がいる前で裸になるのには恥じらいがある。認知症になっても嫌なものは嫌なのだ。そういう人でも、大好きな孫と一緒に家族風呂なら入る。気分がいいからである。

 エンディングノートのカギは、「どれだけ自分のことを伝えられるかだ」と、赤川さんは言う。

自分の生い立ちや、すごく好きなこと、苦い思い出などを暇な折に書くか、家族が聞いて綴っておけば、親が認知症になったときに、“こういうのが好みだったんだ”とか、環境を整える判断基準になります。すると、症状が進んでも笑顔でいられるのです。

 “家族ならおもんぱかれ”とは言っても、今はスマホが普及した影響などで、親の背中を見て育つ時代ではないから、家族でも把握していないことのほうが多いのです。知らなければ、認知症になったときに家族の基準で決められていきます」

“記憶が10分ともたない女性”に起きた奇跡

 認知症の症状が進んだある高齢の女性がいた。もの忘れが激しく記憶が10分ともたない。でも、いろいろ話を聞いていると、子ども時代に過ごした実家の話がたびたび出てくる。田舎の地主の家だから、人力車に乗せられて女学校に通ったことなど、はっきりと覚えているのだ。

 そこで、なんとか自分が生まれ育った実家に行けないだろうかと施設側と相談し、介護職など数人が同行して行くことになった。よほどうれしかったのだろう。実家で過ごした数時間は終始、笑顔だった。施設に戻って翌日の朝起きてくると、「昨日は楽しかったわね」と言ったので、同行した介護職の人たちは、「えっ!?」と腰を抜かすほど驚いた。10分どころか、24時間前のことを覚えていたのだ。

 このように、思い出の場所や好きなものを知っていれば、認知症になったときに介護を楽にする手がかりとなる。

 また、親の嫌いなことを分かっておけば、それを避けることで“問題行動”を起こさない可能性も高い。それが逆だと、認知症の人は忍耐を強いられ、やがて閾値を超えれば暴行にもつながる。


 エンディングノートで、何が快適か、何が不快かを伝えるだけで、たとえ認知症になっても本人は楽に過ごせるし、家族の介護負担も軽くなる。本人のことを知らないから、介護が地獄になるのである。

【PROFILE】
奥野修司 ◎ノンフィクション作家。'78年から南米で日系移民を調査し、帰国後はフリージャーナリストとして活躍。'98年、「28年前の『酒鬼薔薇』は今」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で'05年に講談社ノンフイクション賞を、'06年には大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『ねじれた絆』『心にナイフをしのばせて』『ゆかいな認知症』など著作多数。

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