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「ボッチ成人式」よりドラクエのコンサート 12年ひきこもった男性の“人生の節目”とは?

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2020年01月13日 11:30  AERA dot.

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AERA dot.

写真※写真はイメージです (Getty Images)
※写真はイメージです (Getty Images)
「成人式に行きたくない」と考える人が、3割もいるという。いじめられていた同級生に会いたくない、成人を祝うことに意味を感じないなど、理由はそれぞれ。自身も「ボッチ成人式」を欠席した経験を持つ不登校新聞の編集長、石井志昂さんは「大人になる節目の日は、人それぞれ、いろんなタイミングで訪れる」と訴える。

*  *  *
 成人式を迎えるみなさん、おめでとうございます。最近、こんな気になるツイートが流れてきました。

「成人式 行かないと人に成れないしな……」

 どんな方のつぶやきかはわかりませんが、その気持ちはすごくわかります。成人式に行きたくない。しかし、行かねばまっとうな大人になれない。そんな気後れがあるのかもしれません。

 成人式というのは「一生に一度」「両親が喜ぶかもしれない」、あわよくば「失われたアオハル(青春)が経験できるかもしれない」という甘い誘惑が漂う行事です。一方で、もしも学校にいい思い出がなかったり、ひきこもっていたりしたら、成人式に行かないことに罪悪感すら抱くものです。でも私は声を大にして言いたい。成人式を欠席したいのはあなただけではありません。私はよく、こんな声を聞いてきました。

「成人式なんて絶対に行かない」
「いじめられた人にもう一度会うなんて考えらえない」

 成人式は「同窓会」という意味合いが強く、私を含め、私のまわりの不登校をした人は固い決意で成人式を欠席しました。しかし、こんな思いをしているのは不登校の人だけではありません。

 日本財団が調査したところ、17歳〜19歳の男女のうち「成人式に出席したくない」と答えた人が29.4%(「18歳意識調査」日本財団/2019年1月7日)もいました。理由は「同級生に会いたくない」「成人を祝うことに意味を感じない」など。

 実際に、勇気を振り絞って成人式に行ってみたらどうだったのか。こんなことを思った人がいたそうです。

「バカ騒ぎをしている同級生に興ざめした」(20代・女性)

「式場には無造作ヘアの男とかギャルとか、リア充ばっかり。オレの居場所なんて1ミリもなかった」(20代・男性)

 一方、学校によくない思い出を持っていても、成人式を楽しんで帰ってきたという人もいます。

「不登校は中学校まで、高校の同級生とひさしぶりに出会えたのは楽しかった」(30代女性)

「社会科見学だと思って行ってみたけど、わりと楽しめました」(20代男性)

 私が成人式に行かなかった、つまり「ボッチ成人式」を回避できたのは、その約1年前に取材したコピーライター・糸井重里さんのこんな言葉も大きく影響していました。

「日本の成人式って30歳でしょ。27歳だよって言う人もいるけど、俺は30歳だと思うな。だって30歳になるまで周囲の眼も甘いからね。日本の成人式は30歳。30歳になって『やることがわかった』というのでいいんじゃないかな。俺の成人は45歳だったけど」(2001年『不登校新聞』の取材にて)

 糸井さんの真意は、大人になる節目の日は、人それぞれ、いろんなタイミングで訪れるということ。そういう意味で言えば「私だけの成人式の日」が人それぞれのタイミングで訪れるはずです。そんな言葉を信じて成人式に行かなかったわけですが、最近、抜群によかった「私だけの成人式」を迎えた日の話を聞きました。埼玉県で生まれ育ったトシさん(30代後半・男性)の話です。

■いじめで12年間ひきこもった部屋を出た日

 トシさんはいじめを機に中学2年生で不登校。以来、26歳までの12年間はほとんどひきこもっていました。

 トシさんが受けたいじめは執拗なものでした。

 きっかけは、クラスのムードメーカーがトシさんへの悪口を言い始めたこと。それが仲間内に広がり、ヤンキー系の同級生の耳にも入ります。このヤンキーが、みんなの前でトシさんをいじり始め、小突きだし、いじめが本格化。同級生たちは、トシさんにまつわる悪口を堂々と言うようになり、トシさんの家まで追いかけてきて窓から覗き見て笑ったり、テニスのラケットで殴りつけてきたりしたこともあったそうです。

 当然、トシさんは人間不信になりました。もう二度と覗きこまれまいとカーテンを固く閉め、家のなかにひきこもります。

 家族からも理解はされません。戦後の貧しい環境で育った祖父母と、親に楽をさせたくて必死に働いた父。家族は「なんでがんばれないんだ」という眼でトシさんを見ていました。

 学校と家のなかから刺すような視線に耐えかね、現実を忘れようとトシさんはゲームなどに没頭。そのとき救いになったのが「ドラゴンクエスト」(以下・ドラクエ)でした。

 初めて買ったドラクエは「ドラゴンクエスト3」、小学5年生のころです。RPGという世界に興奮しつつも、遅々として進まないストーリー。どうすればクリアできるのか、ボスはどう倒せばいいのか、友だちと意見交換をし、いっしょに遊びました。ある友だちは、毎日のようにわが家を訪れて、笑いあってドラクエを進めていたそうです。あらゆるゲームの中で、ドラクエだけが「傷ついてない思い出」だったのです。

 ひきこもりながらも、ドラクエをしていると「いつかまた、あんなふうに楽しく誰かと話したい」、そう思えたんだそうです。

 毎日のように訪れていた友だちは、その後、トシさんをラケットで殴った子です。なんで変わってしまったのか、ゲームを終えるとトシさんの胸には悔しさが蘇ります。同時に「それでも学校へ行かなきゃ」という罪悪感も募ります。とっくに学校を卒業した年齢になってからも、「行かなければ」という焦りに何度も夢のなかで襲われたそうです。

 成人式も欠席。不登校から6年が経っていた当時でも、同級生の存在は恐怖でしかありませんでした。しかし、それよりも「こんな自分を見せられない」という思いのほうが強かったそうです。こんな自分とは、ひきこもって何もできない自分です。

 そんなトシさんに「本物の成人式」が訪れたのは22歳。ドラクエのゲームミュージックを担当している作曲家すぎやまこういちさんのコンサートを見に行った日でした。

「本物を聴きたい」

 コンサートの存在を知ったトシさんはそう思い立ち、8年ぶりの単独外出を試みます。最寄り駅までは同級生に出会うかもしれず、親に頼んで車で移動。駅に着くと、地図の見方も切符の買い方もよくわかりません。8年ぶりの外出という緊張感。その駅で同級生たちに笑われた記憶も蘇り、余計に頭が混乱します。パニックになりながらも必死で切符を購入し、電車に乗りました。目的の駅に着き、会場へ急げども今度は迷子に。やっと会場へたどり着いたとき、コンサートは半分以上、終わっていました。

 でも、そこでは画面の向こうでしか出会えなかったすぎやまこういちさんが指揮棒を振るっていました。演奏していた曲は、ドラクエ4で勇者が初めてステージに降り立ったときの曲。その瞬間、震えるような感動を味わいました。

 コンサート終了後、すぎやまさんと握手もすることができました。握手の際、すぎやまさんから「ありがとう」と言われ、トシさんはこう思ったそうです。

「私の命を支えてくれたゲームの世界と現実の世界が繋がった」

 それからのトシさんは徐々に外に出る時間を増やし、現在は週4日の会社勤め。残りの日は、同じひきこもり経験者のコミュニティーで活動しています。すぎやまさんと出会ってから10数年、人に裏切られたときも、仕事が見つからなかったときも、ずっとすぎやまさんのコンサートだけは毎年、欠かさず通っているそうです。

■「人生でもっと大事な日は訪れる」

 トシさんにとっての「成人式」は、すぎやまさんのコンサートに飛び出していった日だったと私は思います。トシさんは、ひきこもっているあいだ何度も死を考えていました。それでも自殺に至らなかったのは、ゲームや漫画を通して、かすかな充実感を得ていたからです。それは言葉にすれば「手ごたえ」みたいなものでしょうか。その手ごたえを確かめに、トシさんは意を決してコンサートに行きました。もっと言えば、この世は生きる価値のある世界だと確かめたということです。

 私やトシさんや多くの不登校の人たちが、成人式にも同窓会にも行きたくないのは、今の自分が見られたくないからです。でも、どんな自分でもいい。ドラクエにちなんで言えば、装備なんて裸でいいから、会いたい人がいる。そうやって無我夢中で飛び出した日が、大人への第一歩、人生の節目となるのです。

 こんな話をしても、ひきこもった人は人生が終わっているとか、成人式にも行けないでかわいそうだとか言う人はいるでしょう。外野には言わせておけばいいんです。

 ちょっと不器用で生きづらくても、私たちには、人生のなかでもっと大事な日が訪れます。それを楽しみに待ってみませんか。今日も今日とて、意味があるかないかわからないゲーム上のレベル上げもしてやりましょう。ゲーム実況を飽きもせず朝まで見てやりましょう。だって、それに感動して、笑って支えられてきたから。いま楽しいと思えることの先に、「本物の成人式」がきっと来るはずです。(文/石井志昂)

【おすすめ記事】男子13歳、女子12歳 ユダヤ人の成人式が早い理由とは?


このニュースに関するつぶやき

  • 高校卒業の数か月後に隣の市へ引っ越したので、成人式は引っ越し前の市に参加。勿論招待状なんか来んけどどうにかなったわ。
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  • 免疫を下げる治療のため成人式に出席しなかった私。5年後成人した妹に「成人式には姉ちゃんの代わりに写真を連れていっておあげ」と祖母。待って!私まだ死んでない!
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