いい大人たちが思いっきりバカなことをやる快感 吉田照美&河崎実監督が放つ社会風刺『ロバマン』

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2020年01月16日 23:02  日刊サイゾー

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写真ラジオ界に数々の伝説を残した吉田照美(画像左)と“和製エド・ウッド”河崎実監督。映画「ロバマン』では、現代社会をユーモアたっぷりに風刺している。
ラジオ界に数々の伝説を残した吉田照美(画像左)と“和製エド・ウッド”河崎実監督。映画「ロバマン』では、現代社会をユーモアたっぷりに風刺している。

 これほどまでにラジオ愛に溢れた映画があっただろうか。『吉田照美の夜はこれから てるてるワイド』『吉田照美のやる気MANMAN!』(文化放送)など、伝説のラジオ番組のパーソナリティーを務めてきた吉田照美の初主演映画『ロバマン』が現在公開中だ。「ロバ」の愛称で知られる吉田がスーパーヒーロー「ロバマン」に扮し、社会にはびこる大小さまざまな悪を後ろ足で蹴っ飛ばすような爽快さに満ちた社会風刺コメディとなっている。本作を手掛けたのは『日本以外全部沈没』(06年)や『地球防衛未亡人』(14年)などのヒット作を放ってきた河崎実監督。共に還暦を過ぎ、いい大人である両人が「いい大人がバカをやる楽しさ」について語り合った。

――吉田照美さん、この度は映画初主演おめでとうございます!

吉田 ありがとう。すべては河崎監督のお陰だね。

河崎 吉田さんの「ロバ=68歳になった」というTwitterに、僕が「ロバマンやりましょう」とリツイートしたことから生まれた企画。まさか本当に映画になるとは思わなかった(笑)。

――ラジオの仕事が多い吉田さんですが、1991年に放映された連続ドラマ『次男次女ひとりっ子物語』(TBS系)にレギュラー出演していましたよね。とてもいいドラマだったので覚えています。

吉田 よく覚えているなぁ。脚本は鎌田敏夫さん、プロデューサーは武敬子さん。『男女7人夏物語』『男女7人秋物語』(TBS系)を大ヒットさせたコンビだったんだけど、視聴率は良くなかったんだよね。田原俊彦、柳葉敏郎、菊池桃子とキャストも豪華だった。

河崎 吉田さんはどんな役だったんですか?

吉田 僕は田原俊彦、トシちゃんのお兄さん役だった。でも、引きこもりのオタッキーの役で、台詞はほとんどなし。蓮舫とかも出演していたんだよ。もしかしたら、ラブシーンもあるかなと期待したんだけど、全然なかった(笑)。もともとは僕がフライデーされたことがきっかけだった。文化放送を辞めた退職金でマンションを買って、結婚前に妻だけ先にマンションで暮らし始めて、僕は夜の放送が終わってからマンションに寄って、それから実家に帰ってたの。マンションから出てくる様子を「フライデー」(講談社)に撮られたんだけど、その写真が思いのほかかっこよかった(笑)。その写真を見た武プロデューサーが、僕のことをいい男と勘違いして、『男女7人』にキャスティングしようとしたんだよ。でも、鎌田さんが「吉田照美じゃ、ホンは書けない」と言って、僕の出演は見送られた。それからしばらくして『次男次女ひとりっ子物語』に出ることになったんだけどね。僕以外のキャストは豪華だったけど、数字は伸びなかった。やっぱり、僕は持ってない男だなと思ったよ(苦笑)。

河崎 マイクの前でしゃべり続けるラジオと違って、役者は待つ時間が長いから面倒でしょ?

吉田 大変だね。その後も、2時間ドラマ『愛は仁義』(日本テレビ系)で山口智子さんの旦那役をやったりもしたんだけどね。これも浅野ゆう子、仙道敦子、唐沢寿明、風間トオルと豪華な配役だったけど、自分には向いてないなと思った(笑)。

――そんな吉田さんが、68歳にしてついに映画に初主演。感慨深いものがあります。

吉田 ハハハ、94歳になる母が喜んでいます。

河崎 お母さんは『ロバマン』をご覧になったんですか?

吉田 予告編だけは見せた。どんな内容かは分かってないと思うけどね。

――『ロバマン』は、いい大人が誰にも忖度せずに思いっきりバカなことをやる面白さを感じさせます。

吉田 そうだね。僕はラジオでずっとバカなことばかりやってきた人間。そんな僕にぴったりな作品を、バカ映画という体裁で河崎監督がうまく作ってくれたなと思います。

河崎 出鱈目です、この映画は。

吉田 映画でここまで出鱈目なことをやれるのは、大変な才能だよ。僕もラジオで出鱈目なことをやってきたわけで、「出鱈目」という言葉に僕のラジオ人生は集約されるわけだしさ。そんな映画に主演できたことは幸せだよ。

――大人ってもっと分別があるものだと思っていましたが、おふたりを見ていると年齢を重ねてもバカをやることの素晴らしさを感じさせます。

吉田 それはあるかもしれない。僕も若い頃は分別のある大人になろうとして、すごく真面目な学生時代を送ったんです。受験勉強も一生懸命して。それで社会人になって、遅れてきた青春というか、ラジオでバカなことをやるようになったんです。東大の合格発表に受験生のふりをして紛れ込み、胴上げされたりしてね。そのときの様子はNHKニュースなどに流れたんです(笑)。バカばっかりやってきた人生の締めとしては、こんなにいい映画はないですよ。

河崎 人生の締めが『ロバマン』ですか(笑)。

――『ロバマン』は終活映画?

吉田 そうです、終活ですよ。僕のラジオをずっと聴いてくれた人たちは、この映画を観てすごく納得してくれると思う。2011年の東日本大震災以降、僕は政治批判もするようになっていたんだけど、やっぱりこういう笑えるバカなことをやれるのは楽しい。河崎監督はちゃんと社会風刺も盛り込んで、権力を笑い飛ばしているしね。

河崎 最初は舐めてたそうじゃないですか。

吉田 うん、ちょっと舐めてた。バカ映画だから、メッセージ性とかないんだろうなと思ってた。でも、ドキュメンタリーっぽい作りで、今の世情をちゃんと反映している。昨年ヒットした社会派映画『新聞記者』(19)を超えたと僕は思っています。『新聞記者』ができないことを、『ロバマン』はやっている。

河崎 みんな、頭がいいと思われたくて『新聞記者』を観に行くんです。頭がよく思われたい人は『ロバマン』を観に行こうとは思わないでしょう(笑)。

吉田 昔、オシャレなカップルが『エマニエル夫人』(74年)を観に行ったようなものだよね。僕は『エマニエル夫人』には行かず、日活ロマンポルノを観に行ったから。『ロバマン』は日活ロマンポルノみたいなもの。

河崎 ロバマンは谷ナオミですね。

吉田 そうです、こっちのほうがよりハード。なんたって、ロバマンは安倍政権のNo.1とNo.2を殴り倒していますからね。

――萌えカルチャーを先取りした『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業デビューした河崎監督も、還暦を迎えました。

河崎 61歳ですよ。

吉田 河崎監督の撮る映画は、まったくブレていない。それって、すごいよ。

河崎 最新作『メグ・ライオン』は1月21日(火)に完成披露、その後には『三大怪獣グルメ』の劇場公開も控えています。どうかしてるヒーローものばかり撮り続けているんです。『ロバマン』の外見は『8マン』なんだけど、『8マン』の原作者・桑田二郎さんはヒーローものを描き続けていくうちに、暴力で相手を倒すことは本当のヒーローじゃないのではないかと悩むようになって、「般若心経」のほうへ行っちゃった。今回は日本初のスーパーヒーロー・月光仮面にもゲスト出演してもらっているんですが、原作者の川内康範の「憎むな、殺すな、赦しましょう」という教えが『月光仮面』には込められている。ヒーローものって、奥が深いんですよ。でも、僕が撮っているヒーローものは、どれもズンドコなんですけどね。お金を掛ければ『アベンジャーズ』みたいな映画がつくれるけど、僕は500万円でつくってますから。

吉田 そこには河崎監督の美学があると思うなぁ。河崎監督みたいなスタイルの監督は、日本には他にいないでしょ。日本のロジャー・コーマンだ。

河崎 ロジャー・コーマンは基本、プロデューサーなんですけどね。お金のないロジャー・コーマン、才能のあるエド・ウッドだと自称しています(笑)。

――河崎監督、吉田さんを主演に起用したのはラジオリスナーたちの動員を見込んでのこと?

吉田 僕が動員できる人数なんて、たかが知れていますよ。

河崎 初日舞台あいさつは平日の昼間なのに、けっこう集まってくれていますよ。

吉田 Twitterのフォロワー数は5万5000人だから、みんな劇場まで観にきてくれるといいよね。

――深夜ラジオ『セイ!ヤング』(文化放送)でリスナーに呼びかけた「乾杯おじさん」の企画では、山手線のホームがパニック寸前になるくらいリスナーが集まったんですよね。

吉田 JRに無許可でやったんだよね。事故にならなくてよかった。ずっと炎上商法まがいなことをラジオでやってたんです。今はもう分別ある大人だから炎上商法をやることはできないけど、炎上商法っぽく盛り上がれる企画をやれるといいよね。『ロバマン』を通して、いい大人たちが鬱憤を晴らせるようなイベントができないかな。『ロバマンのうた』のミュージックビデオではキャストのみんなでダンスを披露しているんだけど、渋谷のスクランブル交差点をみんなで「ロバマンダンス」しながら渡るとかね。

河崎 フラッシュモブと呼ばれるゲリラパフォーマンスですね。さすがに渋谷のスクランブル交差点でやると始末書ものでしょう(笑)。

吉田 渋谷じゃ無理だろうけど、もう少し小さな交差点とかね。『ロバマン』はパワーのある映画だから、生イベントができると面白いだろうね。でも、今はいろんなことができない世の中になってしまった。むしろ、権力サイドが無茶苦茶やっているから悔しい。

河崎 みんな、権力の横暴によく我慢していると思いますよ。

吉田 逆転しちゃっている。僕がラジオでバカをやっていた頃は政治がまだ安定していたから、僕は思いっきりバカをやることができた。今は政治家たちがバカなことをやっているから、僕らはマジメにならざるを得ない。変な世の中ですよ。

河崎 まったく、その通りです。

――吉田さんは『ロバマン』が初主演ですが、『バネ式』(02年)で映画監督デビューは果たしていたんですよね。

吉田 つげ義春さんの漫画が大好きで、つげさんとコンタクを取りたくて撮った映画なんです。『ねじ式』のパロディー映画だったので、つげさんの自宅に電話したんです。

河崎 えっ、つげさん本人に許可をもらって撮った映画だったんですか?

吉田 つげさんの自宅に電話したら、ご本人が出て、一度断られたんです。奥さんの体調もよくなかったみたいで。それで2週間ぐらいして、自分の想いを手紙にして送りました。頃合をみて電話したところ、「原案ならいいよ」と言ってもらえたんです。ちゃんと映画にも「原案:つげ義春」とクレジットしています。筋は通しています。そうじゃないと、横尾忠則さんに怒られた山田洋次監督みたいになっちゃうから。

河崎 『男はつらいよ お帰り寅さん』の原案問題ですね(笑)。

吉田 『てるてるワイド』10周年を記念して企画した映画だったんだけど、つげさんとコンタクトが取れたことで満足しちゃった。伊東四朗さんにも出てもらい、井上陽水さんにエンディング曲まで作ってもらったんだけどね。映画監督は大変なことが分かったから、もういいやと(苦笑)。

――『ロバマン』には『やる気MANMAN!』の“お助けマン”だったなべやかん、『ソコダイジナコト』(文化放送)のアシスタントだった唐橋ユミ、さらにはクライマックスには『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)で一世を風靡した笑福亭鶴光、『伊藤四朗 吉田照美 親父・熱愛』(文化放送)で共演中の伊東四朗も登場し、ラジオリスナーには堪らない顔合わせとなっています。

吉田 確かにラジオ好きな人の胸には響く映画になっていますよね。

河崎 メインキャストは、みんなラジオの人たちですから。

吉田 鶴光さんとの共演は、映画はもちろんだけど、多分ラジオでもなかった。本当の初共演。僕は文化放送が中心だったし、鶴光さんはニッポン放送がメイン。以前のラジオ業界は局ごとにタレントを抱えていて、他局とは絡まないという暗黙のルールがあったんです。

河崎 映画界にかつてあった五社協定みたいなものですね。

吉田 そう。今だから共演できた。深夜ラジオって、やっぱり下ネタなんですよ。鶴光さんが開発したすご技を間近で見ることができて、嬉しかった。

河崎 『ロバマン2』はどうしましょうか。

――『ロバマン2』にはぜひ久米宏さんを!

吉田 久米さんは無理だろうなぁ。久米さんは『ガリレオ』(フジテレビ系)には出てたでしょ。芝居もけっこううまかった。

河崎 毒蝮三太夫さんなら出てくれると思います。

吉田 毒蝮さんはハードルが低い人だから(笑)。『ロバマン』がヒットしたら『ロバマン2』やりましょう。

河崎 いや、ヒットしなくてもやりましょう。クラウドファンディングで製作費は集まります。

――吉田さんに一度、聞いてみたかったことがあります。ラジオでは奔放にしゃべっていますが、テレビに出ているときは意外と常識人として振る舞っているように映ります。メディアによって、キャラを変えているんでしょうか?

吉田 あー、それは僕のウィークポイントなんです。ラジオとテレビを同じキャラで通せない人っているんです。多分、大沢悠里さんも僕と同じで、ラジオと同じままではテレビには出ていないんじゃないかな。ラジオでの毒舌は許されるけど、テレビでは「真面目そうに見えるのに、きついことを言うなぁ」と僕の場合は引かれてしまうんです。同じキャラで通せる人もいますし、ビートたけしさんや若い頃の桂三枝(桂文枝)さんは、ラジオだとより過激だった。たけしさんがやった『オールナイトニッポン』はラジオ界の革命だったと思います。

河崎 たけしさんは村田英雄さんみたいな大御所をラジオでいじるのが抜群にうまかった。

吉田 たけしさんも内心はドキドキしていたと思いますよ。それでスタッフがこっそり村田さんをスタジオに呼んだりして、たけしさんは本人が現れてかなり焦ったんじゃないですか。たけしさんの『オールナイトニッポン』は抜群に面白かった。僕も影響受けていると思います。

――吉田さんの名前を有名にした「東大ニセ合格胴上げ事件」ですが、テレビに比べて自由度のあるラジオでも、今の時代では無理でしょうか?

吉田 難しいでしょうね。今は大炎上して、「お前をもうマイクの前に立たせないぞ」みたいな強烈な同調圧力が働くんじゃないかな。以前はバカなことをやっても、ラジオのリスナーたちが応援してくれている土壌があったんです。今はバカなことをやると抹殺しようという空気になってしまう。それはどうにかしたい。ラジオはみんなが遊べる空間なんだと思えるような雰囲気になればいいなと思うんです。河崎監督は『ロバマン』でこれだけ遊んでみせたわけですからね。それこそ、たけしさんの『オールナイトニッポン』みたいな革命が起きれば、また変わってくるんじゃないかな。

(取材・文=長野辰次)

『ロバマン』
監督/河崎実 主題歌作詞/湯川れい子
出演/吉田照美、小池美波(欅坂46)、唐橋ユミ、月光仮面、熊谷真実、笑福亭鶴光、伊東四朗
配給/TOCANA 渋谷ヒューマントラストシネマほか全国順次公開中、2月1日(土)より池袋シネマ・ロサにて上映スタート
(c)グッドフィールドコーポレーション・リバートップ2019

●吉田照美(よしだ・てるみ)
1951年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、文化放送にアナウンサーとして入社。ラジオ番組『セイ!ヤング』『吉田照美の夜はこれから てるてるワイド』『吉田照美のやる気MANMAN!』『ソコダイジナトコ』『飛べ!サルバドール』(文化放送)などのパーソナリティーを務める。現在は伊藤四朗と共演の『伊藤四朗 吉田照美 親父・熱愛』(文化放送)、『TERUMI de SUNDAY』(bayfm)などのラジオ番組に出演中。著書に『ラジオマン 1974~2013 僕のラジオデイズ』(ぴあ)、『「コミュ障」だった僕が学んだ話し方』(集英社新書)などがある。

●河崎実(かわさき・みのる)
1956年東京都生まれ。明治大学在学中より、自主映画『フウト』などで話題を集める。『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業監督デビュー。以降、『電エース』シリーズ(89年〜)『いかレスラー』(04年)、『日本以外全部沈没』『ヅラ刑事』(06年)、『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』(07年)、『地球防衛未亡人』(14年)、『干支天使チアラット』(17年)、『乳首ドリルの逆襲』(18年)など多くの監督作を手掛けている。

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  • ニコニコ動画で、1959年製作の『吸血怪獣ヒルゴンの猛襲』を見たよ。字幕が切り替わるのが速くて、読み取りづらくて難儀したよ⇒ https://nico.ms/sm4525476?cp_webto=share_others_androidapp
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  • 以前はリスナー達が応援してくれている土壌があったんです。今はバカなことをやると抹殺しようという空気になってしまう と吉田https://twitter.com/ootsukisan126/status/1215204646265868288
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