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ゲイの叔父とその恋人、叔父に恋をする私──三角関係の行方は? R-18文学賞で絶賛、さまざまな愛のかたちを描く『なないろ』

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2020年01月18日 11:12  ダ・ヴィンチニュース

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ダ・ヴィンチニュース

写真『なないろ』(夏樹玲奈/新潮社)
『なないろ』(夏樹玲奈/新潮社)

 旅行を趣味にしているので、時間が空けばいろいろな土地に行く。憧れていた夜の砂漠も歩いたし、地雷が埋まる土地にも行った。観光客向けのナイトマーケットのすぐそばで、路上に眠る子どもも見た。そうやって世界が狭く、クリアになっていくにつれて、それまではたしかにわかっていたはずのものが、具体的な形を保てなくなることにも気がついた。『なないろ』(夏樹玲奈/新潮社)を読んで思い出したのは、そんなふうに大人になるにつれて曖昧になる、優しさとか生きること、愛などというものだ。

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 佳子は、40歳になる叔父の英司と暮らしている。バツイチの英司とふたりきりの暮らしは穏やかで、佳子はそんな生活を楽しみながら、隣にいる叔父を横目で見ていた。人を好きになるということは、果たしていけないことだろうか。時間をかけて、英司がこちらに落ちてくればいい──そう考えていた、ある肌寒い嵐の夜。どしゃぶりの雨の中、車で英司を迎えに行った佳子がアクセルを踏むと、なにか大きなものにぶつかった。帰るところがないという19歳の青年、勝也だった。

 勝也がふたりの家に住み着き、英司の恋人になるまでに、たいして時間はかからなかった。佳子はある日、英司の部屋で、彼と勝也が抱き合うところを見てしまう。ゲイの叔父とその恋人、叔父に恋をしている佳子。だが、3人での暮らしはそう長くは続かなかった。勝也が、誰にもなにも言わず、姿を消してしまったからだ。佳子は、すっかり弱ってしまった英司を連れて、勝也の出身地である沖縄へと飛び、道中、折に触れて勝也のことを思い出すのだが…。

「変だと思う?」
「なにが」
「叔父と姪がふたり暮らし」
「変じゃないよ。だってふたりは家族でしょ」
 家族。
 その言葉が、腹の底から意地の悪いものを押し上げる。
「英司くんは前の奥さんとの間に、娘がいるけど」
「うそだ」
 勝也は弱々しい声で、断定するように言った。
「知らなかった?」
「うん。知らないことばかり」
 あの頃、英司くんと勝也は強烈に惹かれあい、お互い何も知らないまま、深いところで結びついてしまっていた。一番深いところを知り尽くしてしまい、簡単なことを今さら相手に聞けなくなっていた。(「空におちる海」)

 本書に登場する人物はみな、みずからの愛の転機に立っている。漂うように生きる佳子、優しさを持てあます英司、ただひとりを探しさまよう勝也、英司の娘であるみどり。ある者は、愛のあるべき場所にたどり着き、ある者は、まだ見ぬ愛を知るために、新たな地平へと漕ぎ出してゆく。そういえば、人生の転機にあることを「岐路に立つ」と言う。生きることとは、路(みち)を行くことなのだ。小説家の辻村深月さんが、本作の構成について「ロードムービーのよう」と帯コメントを寄せているが、愛を求めて生きることは、あちこちを見て、人に出会い、たったひとつの居場所を探す、旅をすることに似てはいないか。

 さまざまな愛のかたちを描き、第17回女による女のためのR-18文学賞 読者賞を受賞した「空におちる海」をはじめとする、全5篇の連作短篇集。画一的な愛では満たされなくなった現代の旅人たちに、ぜひすすめたい1冊だ。

文=三田ゆき

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