笠松将が語る、主演映画『花と雨』における覚悟  「退路を断った。逃げ道がなくなった」

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2020年01月18日 15:31  リアルサウンド

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写真(写真=池村隆司)
(写真=池村隆司)

 ヒップホップ界のレジェンド・SEEDAによる名盤『花と雨』を原案とした同名映画で主演を務める笠松将。彼は数多いる若手俳優の中でも、近年もっとも強烈な輝きを放っている一人に数えられるだろう。笠松が演じるのは、主人公の吉田(=SEEDA)。吉田という人物の持つ内面性と、笠松本人がうちに秘める闘志といった精神性は重なって見える。


 笠松に、『花と雨』で主演を張るという覚悟や撮影秘話、公開を目前に控えた現在の心境などについて話を聞いた。


ーー笠松さんにとって、2020年最初の主演作が『花と雨』になります。


笠松将(以下、笠松):撮影は2018年に行い、1年以上この作品と向き合ってきました。ラップの練習や、オーディションも含めると2年近くになります。僕は以前から「作品の質を上げられる俳優」になれるといいなと思っていたんですが、一方でこの言い方をすることで、ある種どこかで逃げていました。でもこの作品と出会ってからは、やっぱり自分が面白いと思ったものは共感して欲しいし、その為には僕自身が見てもらえる立場だったり、注目される人にならないといけない。そしてその作品を観る人の期待を裏切りたくないと。以前取材していただいたとき(参考:笠松将、初めて明かす“役者”への思い 「1番になるまでは絶対にやめられない」)に「1番になりたい」と言いましたが、そういう発言が出るようになったのも『花と雨』に出会ってからのことです。この作品と出会って、作品の背負い方、これから自分が「俳優」とどう向き合っていくかという覚悟は大きく変わりました。退路を断った。逃げ道がなくなったんです。


ーー「退路を断つ」というのは、本作の吉田にも近しいものを感じます。


笠松:リンクさせようという気はありませんでしたが、確かにそうかもしれないですね。別の作品をやっている間も、カバンの中にずっと入っているのは『花と雨』の台本でした。当時は脳みそが勝手に、僕が吉田を演じる上で必要な情報を探してくれていたんですよ。意識してはいなかったですけど、そういう情報をいっぱい拾って、僕の中に貯金していたのかもしれません。


ーーオーディションで、主人公のラッパー・吉田役を射止めたそうですね。


笠松:はい。ラップは審査基準に一切なかったらしく、純粋に芝居だけを見て役者を選んだと聞きまさした。僕の場合は、台本2ページくらいの二人芝居を1度して終わってしまったんです。そのとき、もちろん自分にも非はあるのですが、相手役の方と呼吸があわなくて、思ってたパフォーマンスができなかった悔しさがありました。これだけしかチャンスが無かったから、受からないなと半ば諦めてたら主役に決まったので驚きました。しかも、もともと僕が受けていたのは主役のオーディションではなかったんです。


ーーそうなんですか?


笠松:僕にはビジュアルの部分など、吉田というキャラクターに必要な要素があまりにも足りなかったんですた。主役のオーディションを受けるには条件がいくつかあって、それに僕は一つも当てはまっていなかったんです。でも、もともと『花と雨』というアルバムもSEEDAさんというラッパーも好きでしたし、こういう音楽や文化から自分はたくさん力をもらったので、“恩返し”というとおこがましいですが、どうしても携わりたかったんです。


 主役以外のメインのキャストも全てオーディションで決めるということだったので、「とにかくいい役を取れるように頑張ろう」と思っていたんです。まさか主役に決まったとは、オーディションの感触からして思いもしませんでした。ちょうどそのとき、伊豆諸島の新島で映画『おいしい家族』の撮影をしていて、その現場で仲良くなった俳優の浜野謙太さんや、柳俊太郎くんに報告すると、「絶対に観るよ」と言われて嬉しかったです。ところが、東京に帰ってきて一人でポツンとなったときに、いざ『花と雨』のアルバムを改めて聴いて観ると、一気に怖くなりました。SEEDAさんは絶対的なレジェンドだし、これまで実在する人を演じることもなかったし、『花と雨』というアルバム自体が本当に好きな人もいるわけです。それを僕がやるというのはリスキーだし、下手したら僕自身が終わりへの道に向かうことになるかもしれないと思ったりもしました。だから完成した作品を観るまではすごく怖かったです。


ーーいざ現場に入ってみて、いかがでしたか?


笠松:あんなにいろんな人のことを覚えている現場はなかなかないです。監督もそうですし、技術部の方や制作部の方、もちろん、俳優部の共演者もそうです。毎日みんなと顔を合わせる撮影ではなかったのですが、みんなが少しずつ僕に力をくれて、カメラの前に立つことができました。だからここからは僕が、この作品自体もそうだし、俳優部、スタッフの方も守りたい。それだけのことをみんながしてきたし、この作品にはそういう思いが詰まっているんです。これまでに自分がこの作品に与えられたことは本当になくて、もらってばかりでした。


「10年後、20年後にも観られる作品にしたかった」
ーー常にカメラの中心に“吉田=笠松さん”が居続けるのが印象的でしたが、それも周りがあってこそだと。


笠松:本当にそうです。僕しかカメラに映っていない場面でも、相手役の方が全力で演じてくれていますから。それでこちらも温度がキープされるわけです。それに美術などもすごく細かく作り込んであって、室内のシーンでも映せない場所がないんです。僕にはちょっと分からなかったのですが、当時のカセットテープやCDプレーヤーも本当に探して仕入れてきてあって。そういうこだわりもすごいなと。


ーーSEEDA・吉田という役になりきれる環境があったんですね。笠松さん自身は演じるにあたって事前に準備をしていきましたか?


笠松:セリフを覚えただけです。芝居に関しては、リハーサルを何度もやらせてもらいました。ラップや英会話の部分が本当に下手だったんですけど、ラッパーの仙人掌さんが、深夜だろうか何時でも電話をすると出てくれたんですよ。「この人いつ寝てるんだろう……」って思いながらも(笑)、ちょっと弱気になったときも支えてくださいました。例えば、一つのやり方で行き詰まったとしたら、全然違うやり方を提案してくださるんです。ラップに関しては仙人掌さんがつきっきりで教えて、ケアしてくださったので、これも結局、僕がもらったものです。僕自身は本当に何もしていないですね。


ーーSEEDAさん、仙人掌さんといった、ラッパーの方からのアドバイスや、与えられたインスピレーションなど具体的にありますか?


笠松:本当に細かいところなんですけど、例えば吉田が稼いでいるときには新品のスニーカーを履いているんです。でもお金がないときはボロボロのスニーカーで。それに、ちょっとスニーカーが汚れたりしたら、土を掃うみたいな仕草も入れています。これは監督の演出でもあります。仙人掌さんは別にスニーカーマニアではないですけど、自宅にはレアなスニーカーが綺麗に飾ってあったり、ご本人が好きなレコードやCDがいっぱいあったりして。そういう部分が、直接的にではないですが、空気感としてインスピレーションを得られたなと。SEEDAさんからは9月2日の深夜に、「笠松さんと二人で話したい」と言われて。何を言われるのかな……と、ちょっとドキドキしながら行ってみたら、二人でドライブをして、いろんな人に会いに連れて行ってくださいました。みなさん優しい方々なんですけど、初対面でお会いするには印象深い方たちばかりで(笑)。SEEDAさんがその方たちに、「笠松さんが僕を演じてくれる」と紹紹介してくださり握手しました。そして、「この場所でこんなことがあったよ」とか、「この場所でこの時間に歌詞を書いたな」とか、いろんな話を聞かせてくれました。僕自身の人生にとってもいい思い出です。アルバム『花と雨』ができたタイミングで何をしていたか説明してもらいながら旅をしているようで……なんて贅沢なバスツアーなんだろうと。だからこそ、セリフさえあれば自然と役に入っていけました。


ーーすごい体験ですね。さっきの話にも出ましたが、実在する方をどう演じようと?


笠松:SEEDAさんのことはもともと知っていましたから、最初は「モノマネ」でした。SEEDAさんの笑い方が特徴的だったから、その笑い方を真似していたんですが、途中から「いや、そういうことじゃないな」と思って。笑い方を真似して、それが似ていたとして、それでこの作品に“痛み”が伴わないならば意味がない。笑い方なんて似ていなくても、ちゃんと吉田が、何に悩んでいて、何が楽しくて、一体何を求めているのか……それを追求していった方が作品として面白いですし、僕は10年後、20年後にも観られる作品にしたかった。アルバム『花と雨』もそうですが、時が経ってもまるで最新の曲みたいに聞ける。そういうものを作りたいと思ったときに、モノマネはやめようと決めました。それを監督も望んでくれたので、もっと人間の物語になるように話し合いました。


「日常生活のウソをなくさないといけない」
ーー以前のインタビュー時に、「どんどんフラットになってきている」と言っていましたが、ここ最近の心境はどうですか?


笠松:さらにフラットになってきています。だからムカついたら本当にムカつきますし、楽しかったら本当に楽しいですし、眠かったら寝てますし……。少なからず、演技って“ウソ”をついているわけじゃないですか。作品を作っていく上で本当に必要なウソのために、日常生活のウソをなくさないといけないなと。例えば普段から姿勢が悪い人がいたとして、いきなり「はい、ちゃんとした姿勢をとってください」と言われても、ちゃんとした姿勢はとれない。でも、普段からちゃんとした姿勢でいれば、すぐにそれができる。同じように、普段からウソをつかないで正直でいれば、カメラの前だって正直にいられるだろうと思っててます。


ーー本作で主役をやり終えて、自身で何か変化は感じますか?


笠松:どの役でも楽しみ方を見つけられるようになりました。ネガティブな意味ではなく、現場をかき回してもいいわけですから(笑)。もちろん、セリフが入っていなくて現場を止めてしまうとか、そういう低いレベルではなく、もっと高いレベルで、そういうポジションならではのいろんなやり方で現場を面白くできると気づきました。主役は主役で、主役だからこそのやりやすさもありますが、同時にその難しさも感じました。一人でも多くの方に僕のことを知ってもらったら映画を観に来てくれると思ったから今回は(プロモーションも)頑張りました(笑)。例えば宣伝部の方が喜ぶくらいに僕が人気があって、みんなが僕の次の作品を早く観たいという状況にしたかったんですけど、やっぱりそこは全然できなくて。この作品を撮り終えて、「1年間で頑張ります」と約束したのですが、不甲斐ないです。だから、どうやったらこの映画に人が入ってくれるんだろうなってずっと考えています。僕がSNSのフォロワー60億人! みたいな感じになれたら良かったんですけど……。でも僕はSNSをやっていないから分からないだけで、もしかしたらフォロワーが60億人いるかもしれない(笑)。


ーーそれこそ東京国際映画祭での上映は、お客さんとの交流の場でもあったと思います。


笠松:東京国際映画祭では、お客さん一人ひとりの顔を見ていたんです。「下を見てる人いないかな」「不満に思っている人いないかな」と思って見ていたんですけど(笑)、みんな満足気な顔をしてくださっていて。質問してくださる方もいてすごく優しかったです。でもネットを見ると、否定の意見も勿論あります。だから本当に難しいなと。直接言ってくれたら、僕も説明できるじゃないですか? かといって映画の上映前に舞台挨拶で、「あそこはこうだから、こういう風に見てくださいね」なんて言うのも違うし。でも正直、評価はどうでもいいです。この作品に本当に自信があるから。もちろん話しかけてくれる方とは話したいです(笑)。 (取材・文=折田侑駿)


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