■彼の両親に気に入られて
カヨコさん(35歳)は、仕事で知り合った5歳年上の男性と、この2年ほどつきあっている。彼には家庭があり、10歳と8歳の子もいる。彼の両親も同じ敷地内に家があるという。
「私は訪問看護の仕事をしているんです。1年前、たまたま、彼のおとうさんを看護することになって……。彼に言ったら、縁があるんだねとニコニコしながら言われましたが(笑)」
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彼の親だと思うと緊張したが、そこは仕事。熱心に看護を続け、彼のおとうさんは寝たきりになるかもしれないと言われていたが、数ヶ月で歩けるようになるまで回復した。
「おとうさんに生きる気力があったということだと思います。でもご両親も彼もすごく感謝してくれてうれしかったですね。それを機に、仕事以外でもご両親のところに遊びにうかがうようになって」
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そこにはカヨコさんの私的な欲求もあった。彼の親と仲良くなることで、彼の歓心をひきたかったのだ。だが、思わぬ家庭事情を知ることにもなった。
「彼の奥さんとご両親、かなり折り合いが悪いんです。ご両親はとてもいい方たちなのに、まあ、嫁という立場だと違うんでしょうね。そのうち私が行くと、彼も両親の家にいるようになり、4人で一緒にごはんを食べたり話したりして時間を過ごすことが多くなりました」
彼の両親はしみじみと、「カヨコさんが息子の連れ合いだったらよかったのに」と言ったこともある。
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「ご両親に気に入られるのはうれしかったけど、同じ敷地のすぐそこの家には妻と子どもたちがいるわけですよね。私がここにいるのはやはり間違っていると感じて、彼に『私は来ないほうがいいよね』と言ったんです。すると彼は来てほしい、と。そしてあるとき、彼が両親にカヨコとつきあっていると言ってしまって」
両親の倫理観からいったら、非難されて当然なのだが、70代の両親は「なんとなく察していたよ」と笑顔を見せた。カヨコさんのほうがびっくりしたという。
■このままでいいのかな…
そのうち、彼の両親はさらに驚くような提案をしてきた。
「私に近くに住んでほしいと言い出したんです。私が近くにいれば看護してもらえるということではなく、私的な関係を強めたいから、と。つまり息子の愛人を近くに住まわせようとしたわけです。家賃も出してくれるという話だったんですが、さすがにそれはお断りしました。両親公認の息子の愛人なんて、なんだかいやだったから」
彼の両親は、カヨコさんを丸め込んで息子夫婦を離婚させようとしているのではないか。彼女はそうも疑ったが、両親にはそんなつもりはなかったようだ。
「息子が幸せならそれでいいという気持ち、自分たちが私を気に入ったということ。その2点に尽きるようです。それにしても不思議な感覚ですよね」
カヨコさんのほうが引いてしまったのだが、それでも彼との仲は続いている。ときおり両親の元へ遊びにいく関係もそのままだ。
「一般常識からいったらおかしいし、彼の奥さんには申し訳ないと思っているけど、彼と別れたくはないし、彼のご両親のことも好きだし。なんだかわけがわからないけど、両親と彼と私にとっては何の問題もないんです。あとは奥さんにバレないことだけが願いです」
彼の妻は、両親の元へはまったく姿を見せない。何かを感じているのかとも思ったが、もともと彼の両親とは没交渉らしい。子どもたちが祖父母のところへ来ることもないのだという。
「目と鼻の先に住んでいながら、そういう関係もあるのかと意外な感じがしました。自分が義父母と会いたくなくても、子どもたちは遊びに来てもいいのに。孫ですもんね。ご両親は寂しいと思いますよ」
この微妙なバランスがいつまで保たれるのか、カヨコさんにもわからない。ただ、こんな不可思議な関係も成立するのが今の時代。
「私もひとり暮らしが長いんですが、疑似家族ができたような気持ちに陥ることがあります。そのたびに、いやいや、これは不倫なんだ、世間に認められる関係ではないんだと自分に言い聞かせています」
相手の親が公認の不倫。どう解釈したらいいかわからないが、現実にそういうことがあり、今のところ平穏を保っているとしかいえない。誰かがバランスを失うことがあったら、そのときすべてが壊れていくのかもしれない。