『テセウスの船』“家族の愛”は取り戻せるのか? 竹内涼真と鈴木亮平をつなぐメロディ

0

2020年01月20日 06:01  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

『テセウスの船』(c)TBS

 もし家族が殺人事件の加害者だったら? 考えるだけでも恐ろしい問いだが、もしそれが冤罪だったら、私たちは加害者とどのように向き合えばよいのだろうか?  1月19日からスタートした日曜劇場『テセウスの船』(TBS系)は、その疑問に父と子の絆を通して答えてみせる。


参考:竹内涼真、日曜劇場でステップアップ 『テセウスの船』満を持しての主演に寄せる期待


 『テセウスの船』の舞台は現代、そして31年前である。田村心(竹内涼真)の一家は、平成元年に起きた音臼小無差別殺人事件の加害者家族として世間の目を避けるように生きてきた。容疑者である父・佐野文吾(鈴木亮平)は死刑判決を受けて服役中。塀の中から無罪を主張するたび、家族にはバッシングが浴びせられてきた。


 父とのかかわりを絶ってきた心は、自身も父親となり、亡き妻・由紀(上野樹里)の「真実から逃げないで」という言葉に背中を押されて、過去と向き合うことを決意。真実を求めて事件が起きた音臼村へ向かう。事件現場の小学校跡地で31年前にタイムスリップした心の前に若き日の佐野が現れる。


 ものごころついた頃には「父はいない」と言われて育ってきた心は、若き父親の姿を初めて目にして、胸に去来するものがあったに違いない。家族を苦しみのどん底に落とした張本人を前に、愛憎が入り混じった複雑な感情が表情に表れていた。由紀の残したノートによると、音臼小の事件の前に、村では不可解な事件が連続して起きていた。ちょうどその日が、三島医院の次女・千夏が農薬のパラコートを誤飲して死亡した日であることに気づいた心は、事件を未然に防ぐために動きだす。


 「テセウスの船」というタイトルの語源はギリシャのパラドックス(逆説)である。英雄テセウスが乗った船を後世に残すため、古くなった部品を取り換えるうちに、もともとあった部品がなくなってしまう。では、今ある船は以前と同じものだろうか、という問いだ。本作では、過去に戻って事件を解決するタイムリープものの定番設定が用いられており、過去を変えることで現在を変えるという発想は、テセウスの船のパラドックスにも通じる。だが、それだけで終わらず、一歩踏み込んだ家族の物語が丹念に描かれているのが特徴だ。


 心は千夏が死亡した日の不審な行動を見て、佐野をパラコート誤飲事件の容疑者ではないかと疑う。一方、佐野も身元不明の心を事件に関係のある人物として警戒。相互に不信感を抱き、疑うことしかできない父と子の姿は、31年という時間の長さと事件が家族に残した傷の大きさを感じさせた。佐野が音臼小事件の犯人ではないかという疑念は、佐野の足どりを追って心を森の中に向かわせることになる。


 最終的に佐野と心の中にあったわだかまりは解けるが、その過程で心は父の真実を知ることになる。自らの命を顧みず、「子どもを守るのが大人の使命」と言う佐野の言葉を耳にした心は、亡き妻に向かって「俺の理想の父親はどんなときでも家族と向き合える男。佐野文吾が俺の父さんでよかった」とつぶやく。心が奏でるハーモニカのメロディは、佐野が大好きな「上を向いて歩こう」だった。母の胎内で、知らないうちに父と子は出会っていたのだ。


 31年の時を超えて明かされるタイムスリップ・ミステリーで、過去が書き換えられたとき、もう一つの未来で心と佐野はどうなってしまうのか? すべての謎が解き明かされたとき、心が出会うのは前と同じ家族なのだろうか? 令和から平成へという時代の裂け目に飲み込まれた主人公が、ひとつしかない父との絆を確かめる『テセウスの船』の行方を見守りたい。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。


    ニュース設定