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篠田節子、乳がん手術と母の認知症に追われながら綴った闘病生活と介護の“リアル”

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2020年01月20日 08:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

写真篠田節子さん 撮影/矢島泰輔
篠田節子さん 撮影/矢島泰輔

 一昨年4月、ステージ1〜2の乳がんで右乳房の全摘出手術をし、同年11月に無事その乳房再建を果たした、小説家の篠田節子さんその最中にも認知症のお母様の介護、小説家としての本業を同時進行させていたのは驚きです。

 でも、もっと驚きなのは、その一部始終を綴ったこの本にまるで悲壮感がないこと。むしろテンポよくユーモア漂う文章で全体が構成されています。それは努めた部分なのでしょうか?

巷にあふれているがんの話と違う

「いえいえ、特にそんなことはありません。いたってまじめに書いたんですけど、ステージ1〜2ですし、“私死ぬの?”ってことはなかったので自然にこうなりました」

 でも、そもそもフィクションの小説家である篠田さんが、なぜ自身の病気や介護のエッセイを書こうと思われたのでしょうか?

「一昨年発売した小説『鏡の背面』と関係があります。ちょうど検査だ入院だとなっているころに見本ができてきたんです。単行本を出すとたいてい出版社が特集を組んでくれるんですね。それでなんとなく調子に乗って“がんから生還しました系”の短いエッセイを書いちゃおうかな、と言ってしまったんです

 私としてはせいぜい5〜6ページでおしまいの宣伝広報活動ぐらいの気持ちだったんですけど、編集が“ウェブ連載にして一冊にしましょう”と言いだして……。“ちょっと待ってよ、それで一冊できるわけがないじゃない”となったんだけれど、言いだしっぺだし“しょうがない、一冊分書くか”と腹を括ったのです

 小説家なら誰もが考えるという新刊の宣伝の話題作り。しかし“一冊分書くか”となったのには、それなりに理由があったようです。その本当の動機は何ですか?

乳がんが発見された段階から、巷にあふれているがんの話と違うな、と思ったんです。しこりもなかったし、乳頭出血といっても灰色のシミが少しブラジャーについたくらいだし。

 こういうケースもあるんだと思ったと同時に、初期の乳がんは今やありふれた病気でもあるのだから、その診断から標準治療の経緯をきちんと正確に書いたら、人の役に立つんじゃないかと思ったんです

正確な情報をお知らせしなくちゃ

 確かに乳房温存全摘出、乳房再建といった言葉は聞くものの実際どういうものなのか、詳しいことはあまり知られていません。

「がんサバイバーなんて言葉が大げさなくらい初期の乳がん患者たちの大半は標準治療をして寛解して社会復帰しています。でも、そういう人たちの声はほとんど聞こえてこないでしょう。だから、がんという言葉だけで怖がって、疑いがあっても次の検査に行かないとか、手術をすすめられても嫌がる人が後を絶たない。

 はたまた、どうしても乳房の全摘出には抵抗があって、温存を希望する人が多いんだけれど、無理に残してもひどく変形してしまうこともあって、変形したバスト用のパッドがあったりするんです。そこらへんご存じなくて温存を選んでしまう人もいるんじゃないかしら。

 私も実際、乳がんになってみたらいろいろわかったので、みなさんも無駄に怖がったり、人生を悲観したりしてほしくないと思って、最新情報として正確なものをお知らせしなくちゃと思ったんです

 認知症のお母様のこともずいぶんと赤裸々に描かれていますが、お母様の病状を書くことに迷いはありませんでしたか?

「赤裸々にするつもりはなかったんですけれど、2年前に介護についての取材を受けたときがあって、気づいたら私“介護の人”になっていたんですね(笑)。

 介護って、映像的には車椅子を押したり、スプーンでご飯を食べさせたり、オシメ替えたり……ってイメージができあがってて、ライターさんも物語を作り上げているから、私が経験している介護とちょっと違うと思って、自分で書くことにしたんです(笑)

施設や支援をどんどん利用するべき

 突飛な行動に振り回され理不尽な言動をなだめすかす認知症介護の忍耐とストレスは、スプーンでご飯……などとはまったく質の異なる介護。乳がんは、そのストレスにも原因があったと思われますか?

「それは確実にあると思います。医師が診断時に予想した“がん発生時期”は、まさにこの20年の介護でいちばんきつかった時期。その後、いっそう母に手がかかるようになったので施設に入れてホッとしたら発覚ですから。

 介護で言いたいことは認知症の本人が身体的に元気であればあるほど介護者のストレスは長引き、しっかり者の人ほど自分を犠牲にして命を縮めてしまうので、抱え込まずに、施設や支援をどんどん利用するべきだということです

 今、お母様は病院の認知症病棟に入院され、篠田さんは2、3日に1度通われているとのこと。まだまだ介護は続きそうですが、篠田さんに悲壮感があまり漂わないのはなぜでしょう?

「これは小説家の言うことではないんですけれど、生きてりゃ困ったことは向こうからやってくるんです。それをひとつひとつクリアするしかありません。問題を探して見つけて解決していく、の繰り返し。無駄なことを考えないっていうのかしら。内省的になることなく、情緒的にもならないで、行動あるのみ、がいいのかも」

 目下の問題は汚物まみれの衣類の洗濯。「マンション住まいでの正解は? 女性誌で特集してほしいです」

ライターは見た!著者の素顔

 その華奢な身体のどこにそんなパワーがあるのかと思うほど、介護に闘病に執筆にと精力的な篠田さん。お話を伺いながらその源を探すと「作家根性」というワードが浮上しました。

「この仕事じゃなかったら聖路加国際病院に入院しようなんてぜいたくは考えなかったです。聖路加の都市伝説はいろいろあるので興味津々でした。最低1泊3万円はホント。でも全室個室なだけで個室の差額ベット代はほかの病院もほぼ一緒なの。最上階に高級レストランはなかったわ(笑)」

(取材・文/松永詠美子)

●PROFILE●


しのだせつこ

 1955年、東京都生まれ。'90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。'97年には『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞など、受賞作品多数。母親の介護と自身の乳がん治療の最中、2019年『鏡の背面』で吉川英治賞を受賞。

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