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BTS、新アルバム『MAP OF THE SOUL:7』で葛藤と逡巡から抜け出せるか 先行公開された2曲を分析

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2020年01月20日 10:21  リアルサウンド

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写真BTS『MAP OF THE SOUL:PERSONA』
BTS『MAP OF THE SOUL:PERSONA』

 2月21日にフルアルバム『MAP OF THE SOUL:7』(以下『MOS:7』)をリリース予定のBTS。BigHitがリリースしたカムバック予定表によると、1カ月以上という長期間に渡り事前プロモーションを仕掛けるようだ。


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 まず、1月10日には2013年の楽曲「Intro: O!RUL8,2? 」をサンプリングした、SUGAのソロトラック「Interlude:Shadow」がMVとして発表された。Shadow=シャドウとは『MAP OF THE SOUL』シリーズのリファレンス元であるユングが提唱した定義で、「自分の中に抑圧されたもう1人の人格」を指す。韓国のアイドルシーンで当時のトレンドに乗り、ギャングスタラップを標榜してデビューしたBTSは、幾多の音楽的紆余曲折を経て世界的に人気の“ボーイバンド”となったが、この“ポップスター”としての大きな成功ゆえにSUGA個人がデビュー前に渇望していたであろう“ラップスター”として評価される機会は失われつつあるという現実がある。


 2017年前後にサウスサイドのラッパーを中心に自らを“ロックスター”だと名乗るムーブメントが起こったが、ここでの“ロックスター”はむしろ2003年のJAY-Z「Rock Star(Freestyle)」や、かつてのカニエ・ウエストの発言「We, the culture rap is the new rock and roll. We the rock stars.(俺たちのカルチャーであるラップが新しいロックンロールだ。俺たちがロックスターなんだ)」が意味していた、富や名声の象徴としての“ロックスター”の方が近いのだろう。ボーダレスな時代に音楽のジャンル的なラベリングを嫌い、あえて“ロックスター”を標榜したサウスサイドのラッパー達ーーマリリン・マンソンをリスペクトするLil Uzi Vert、ロックカルチャーで培った感性をラップとしてアウトプットしているポスト・マローンや、ギターリフなどロック的なエッセンスを楽曲に取り入れることを好むトラヴィス・スコットなどーーとは異なり、BTSの音楽的・カルチャー的なベースにはロックがあるわけではない。“アイドル”は最も楽曲のジャンルからは自由な存在であり、こういう曲をやるべきという制約が当てはまらない存在と言える。その点が、制作あるいはパフォーマンスする楽曲のジャンルでカテゴリー分けされる“アーティスト”とは根本的に異なる部分でもあり、同時に強みでもある。しかし、だからこそ冒頭のリリックの“ラップスターになりたい ロックスターになりたい”というつぶやきは、「楽曲でカテゴリーづけされるような存在になりたかった」という切実さを含んでいるようにも感じられる。また、“逃げたところで俺についてくる/あの光と比例する俺の影”という歌詞は、成功につきまとう影の部分をそのまま“シャドウ”と重ねているようだ。


 前作『MAP OF THE SOUL :PERSONA』収録のRMによるソロトラック「Intro:Persona」での〈Do Yoy Wanna Fly?〉〈I just wanna fly〉というリリックに対し、今回は“高く跳ぶのが怖い”と言っている。“自分の跳躍が墜落になりうることはわかっている”というフレーズは、SUGAが参加したホールジーの楽曲「SUGA‘s Interlude」にも登場しており、過去のSUGAのソロ楽曲の中にもよく出てくる“自己嫌悪と慢心が自分の心の中に生きている”という表現のように、成功による自尊と同時に襲われる自己嫌悪や現状への恐怖といった相反する感情がシーソーのように現れる心の内を吐露した歌詞は、SUGAの楽曲らしさとも言える。MVでの無数のフラッシュに囲まれる表現はBLACKPINK「DDU−DU DDU−DU」でも見られたが、あちらが高いヒールで転ぶことで女性芸能人特有の問題を表現していた一方、こちらは熱狂的なファンドムと野次馬的マスコミや大衆によって、一挙一動の全てがあらゆる場所で注目されかねない彼らの現在を、よりストレートに表現しているようだ。


 一方、1月17日に先行リリースされた「Black Swan」は、アメリカの伝説のモダンダンサー、マーサ・グラハムの「ダンサーは二度死ぬ。一度目の死は踊ることをやめる時、そしてその死はより痛ましい」という発言からインスパイアされた、トラップベースのトラックだ。今作は22組のアーティストとコラボレーションをする企画「CONNECT:BTS」の一環として、スロベニアの舞踏団・MNダンスカンパニーがパフォーマンスするというスタイルでお披露目された。タイトルの「Black Swan」は「想像できないことが現実に起こった場合、大きな衝撃を与えること」を意味する「ブラックスワン理論」を含んでいると思われる。「Interlude:Shadow」にサンプリングされている「Intro: O!RUL8,2? 」には“他人の人生ではなく自分の人生を生きろ”というメッセージが含まれていたが、ここでは“Do your thang(筆者注:thangは概ねthingと同じだが、主にアフリカ系が使うスラング)with me(=自分のやりたいことをやろう、一緒に)”と語りかける・あるいは語りかけられるものの、同時に「自分のやりたいことがわからない」「教えてくれ」とも言っている。一方、『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』収録の「Sea」では“砂漠が血汗涙で満たされた海になった”と成功の象徴だった「海」が、本楽曲では“全ての光が沈黙する海”というネガティブとも取れる表現がされている。“音楽を聴いても何も感じない”“これが俺の初めての死か”という過去の歌詞とは反転するかのような状況が起こったことそのものが「ブラックスワン」であり、同時にその背景にある予想もしていないあったレベルの成功自体も「ブラックスワン」とも言えるだろう。


 BTSの近年の楽曲には“暗闇の中の星”“自分の求めるものは暗闇の中でこそ最も輝くことを忘れるな”というような表現が、ネガポジ両方の意味で出てくることが多い。韓国の男性アイドルの歌詞のバリエーションに関しては昨年に筆者が参加した対談でも出たトピックだったが、BTSも成り上がりや自由への渇望を超えた成功の後には、成功ゆえの孤独やバーンアウトなど、内面的な逡巡を描くしかなくなるのかもしれない、という指摘の通りの道を歩んでいるように見える。しかし、「Shadow」の最後には“そう俺はお前/お前は俺/もう分かるだろう俺たちは一体であることも/時にはぶつかるだろう/お前は絶対俺を引き離せない”“お前が何をしたのか/認めた方がもっと楽だろう”“逃げられないどこへ行っても/俺はお前でお前は俺”という、“その先”を示唆するような表現が出てくる。自我の中で白鳥と黒鳥が衝突するかのようなバレリーナの壮絶な精神的葛藤を描写した映画『ブラック・スワン』は、白鳥と黒鳥の統合による精神的な昇華と成長を示唆しているかのようなラストでもあったが、今作でのBTSも葛藤と逡巡から抜け出し、新たな次元へ向かうのだろうか。フルアルバムの公開が待たれるところである。(DJ泡沫)


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