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「多剤服用」でうつや認知症の副作用も…それでも減薬が難しいワケ

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2020年01月21日 10:25  AERA dot.

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AERA dot.

写真適正に服用すれば効く薬でも、飲みすぎると危険な場合がある (※写真はイメージ) (c)朝日新聞社
適正に服用すれば効く薬でも、飲みすぎると危険な場合がある (※写真はイメージ) (c)朝日新聞社
 症状を改善するために飲んでいるはずの薬も、量や種類が多すぎると副作用の危険が高まる。代謝機能が衰える高齢者ではなおさらだ。多剤服用が原因で認知症のような症状を示す場合もある。薬を減らして症状が改善したケースを取材した。身に覚えのある方は、医師に相談してみよう。

【高齢者で特に慎重な投与を要する薬物はコチラ】

*  *  *
「もうほとんど寝たきりで記憶もあんまりないような状態でした。一度ならず、死にたいと思ったこともありました」

 と言うのは、東京都世田谷区に住む80歳の女性。10年前くらいからうつ症状があり、心療内科で診察してもらい投薬治療を続けていた。症状が改善しないので病院を渡り歩くうちに、飲む薬が増えていき、抗不安薬、抗うつ剤、睡眠薬、降圧剤など10種類以上の薬を飲むようになっていた。

「飲むだけでも大変な量の薬を飲んでいましたが、飲まないのは不安なので飲み続けていました。でも具合はどんどん悪くなっていく。また別のお医者さんに行って相談しても、もう出す薬がありませんって言われるほどでした」

 立ち上がるとふらつくことが増えてきたのは3年前。ある夜、トイレの前で倒れているところを夫に発見される。「倒れて体をぶつけてあざだらけでした。顔なんてお岩さんみたいになっていた」と夫は当時を振り返る。このあとほぼ寝たきりの状態になってしまう。ついには味覚や嗅覚も失い、何を食べても砂を噛んでいるようだったという。衰弱も進み、家には夫婦しかいないのに「誰かいる」と口にすることもあった。「要介護4」と認定された。

 ある日、誤嚥性肺炎で入院。咳止めや痰を切る薬も加わった。退院時に、地元で訪問診療を行う医師を紹介された。ふくろうクリニック等々力の橋本昌也医師だ。高齢者の医療に詳しい橋本医師の指導で、飲みすぎている薬を減らしてみることにした。

 少しずつ減薬し、最大で11種類飲んでいた薬を4種類にまで減らすと、みるみる症状が改善してきた。女性は「目の前が晴れていくような感じ。味覚も戻り、歩けるようになり、今では要介護度も1になりました。この前は夫と北陸旅行に行ったんですよ。死にたいと思っていたほどだったのに、こんなに元気になるなんて思ってもいませんでした」と笑う。

 最新の研究では、高齢者は服用する薬の種類が増えるほど体に異常が起こりやすくなることがわかっている。特に多くみられる症状は、ふらつき・転倒、物忘れ、うつやせん妄、食欲低下など。6種類以上の薬を服用する「多剤服用」の場合、そのリスクが高まることもわかっている。この女性の症状も多剤服用によるものだと、診察した橋本医師は考えたのだ。

「多剤服用による副作用で認知症のような症状を示す事例は増えています。若い人と比べると、高齢者は薬を代謝する肝臓や排出する腎臓の機能が衰えるため、リスクも高くなる」(橋本医師)

 それにもかかわらず、高齢者ほど薬の数が増えているというデータもある。厚生労働省によると、1人の患者が1カ月に一つの薬局で受け取る薬の数が7種類を超える割合は、40〜64歳で10%、65〜74歳で13%、75歳以上で24%。これが5種類以上だと、それぞれ24%、28%、41%となる。

 橋本医師によると多剤服用の原因のひとつに「いつのまにか診断」があるという。たとえば、うつっぽい症状があっただけのAさんの例。B病院で症状を伝えると「抗うつ剤を試してみましょう」と言われて抗うつ剤を飲み始める。それでも症状がよくならないのでC病院に行く。C病院でAさんは「B病院で抗うつ剤をもらっている」と伝えると、「うつですね。薬を増やしてみましょうか」と薬を追加される。こうして、ただのうつ症状だったAさんはいつのまにか「うつ」と診断され、複数の薬を服用することになる。

「認知症の場合もそうです。物忘れが多くなり、相談に行った病院で『認知症予防薬を飲んでみましょうか』と言われて薬を飲み始める。これもいつのまにか診断。多剤服用の入り口になりやすい」(同)

■減薬に踏み切る判断は難しい

 埼玉県の70代男性の場合も、物忘れがひどくなり、かかりつけの医師に相談に行き、そこで専門の認知症外来のある病院を紹介されたのが始まりだった。専門病院で検査をした後、アルツハイマー病の疑いがあるとされ、予防薬を飲み始めた。もともと高血圧と高脂血症の薬を飲んでいたところに、アルツハイマー予防薬と睡眠導入剤、精神安定剤、胃薬などが追加されたことになる。認知症の症状は一進一退だったが、数年後、心筋梗塞を起こし入院。抗血栓薬、睡眠薬、便秘薬など10種類近い薬を飲むようになると、せん妄、不眠、よだれなどの症状が出た。家族が入院先の心臓外科医に服用薬の相談をするとアルツハイマー予防薬、精神安定剤の服用を中止。すぐにせん妄、よだれの症状が改善され、まもなく退院した。家族が医師に服用薬の相談をしなかったら、心臓外科医は認知症の薬をやめる判断はしなかったと話したという。

 なぜこの心臓外科医は相談されるまで薬の中止を決断しなかったのか。千葉大学医学部附属病院薬剤部の新井さやか医薬品情報室長は、「多剤服用には“これが原因”というはっきりしたものはありませんが、医師の側、患者の側ともに減薬に踏み切れない理由がある」として、こう話す。

「医療者の側からすると、ほかの病院のほかの専門分野の医師が決めた投薬に口を出しづらいということがある。また、大きな病院だとどうしても一人ひとりの患者さんごとの細かい病歴や服用薬まで把握しきれないこともある。また、患者の側からすると、どこか具合が悪いとすぐに病院に行き薬をもらいたがるという面がある」

 たとえば、高齢者で睡眠困難を訴える患者から「どうしてもしっかり眠りたい」と訴えられると、医師は薬の種類が多いのを知りつつも眠れる薬を処方してしまいがちなのだ。特に複数の病院を受診している場合、それぞれの病院で投薬されるため多剤服用に陥りやすくなる状況が生まれていた。

 行政も手をこまねいていたわけではない。厚労省は2017年に、多剤服用の害に加え、膨れ上がる医療費の約6割を占める高齢者医療費対策のためにも、処方薬の適正使用に向けたワーキンググループを立ち上げ、18年5月には高齢者医薬品適正使用のためのガイドラインを策定した。同ガイドラインは、医療機関に向けて、不要な薬の処方を減らす必要性や、薬物療法の適正化のための具体的なプロセスを説いたもので、安易な薬剤の使用に警鐘を鳴らしたもの。19年6月には、「外来患者」や「入院患者」、「医師が常勤する介護施設の入所者」など療養環境別のガイドラインも公表し、それぞれの環境で薬剤治療を見直す手段を、より具体的に記載した。

 ガイドラインを受けて、18年10月に減薬プロジェクトをスタートさせたのが有料老人ホーム等を運営する「らいふ」だ。同社は1都3県で48の有料老人ホームを運営し、入居者約2400人の約7割が認知症である。入居者の平均年齢は87.5歳、毎食前食後の平均服用薬数は7.2錠だった。

 医師・薬剤師・介護職員などからなる専門チームを立ち上げ、半年かけて薬の量が適正かどうかを検討した結果、7割の入居者で薬の量や種類に改善の余地があることがわかった。医師の指導のもと減薬を開始したら、さっそく効果が表れ始めた。

 18年暮れに入居した88歳の男性は、認知症による“歩き回り”があり、施設にいることを理解できない見当識の低下があった。病院ではやむなく体幹ベルトなどの身体拘束をされていたが、らいふでは身体拘束ができない。車椅子から立ち上がり勝手に歩き回るため、介護職員の見回りで危険回避に努めていた。また、見当識障害のため、入居者に対して「君は誰だ!」「俺のものだ!」と大声で怒鳴り、興奮状態になることが毎日のように繰り返されていた。抗不安薬を変更し、2種服用していた認知症薬の1種を中止、さらに検査と経過を見ながら胃薬や高脂血症の薬の内服も中止。5種類飲んでいた内服薬を2種類に減らしたところ、約1カ月で症状が改善し始めた。まず、対人トラブルがなくなり、笑顔で入居者と会話ができるようになり、興奮状態もなくなった。見当識や物忘れの改善はできないが、認知症に伴う不安・不穏の症状は改善された。

■適正な減薬で認知症状が改善

 17年11月に入居した際に9種類の内服をしていた91歳の女性は、入居当日から大声を上げ、夜間は眠らずに廊下を這(は)いずり回り、ほかの入居者の部屋に侵入し奇声を発した。物をたたき、入居者へ暴言を吐くなどの症状により、退去を勧告しなければならない状態だった。家族と相談して精神科に入院してもらい、症状が落ち着いた2カ月後に再入居。そのとき薬は12種類に増えていた。だが、暴言・暴力こそなくなったが、夜間の這い出し、奇声は変わらない。内服薬の適正化を試みたのは18年4月。抗不安薬を変更し、長年飲み続けていた胃薬や痛み止めを中止し、まず7種類まで減薬し、症状を見ながらさらに睡眠薬と数種類服用していた下剤も1種類だけに減らした。すると、夜間の這い出しや奇声がなくなり始め、2週間たつと日中も車椅子で落ち着いて過ごせるようになり、1カ月後には入居者や介護職員との会話に笑ったり、つじつまは合わないとはいえ会話も可能になった。また、車椅子を自力で動かせるようになる。2カ月後には他者を気遣う言葉も出るようになり、今では車椅子で自由に移動して過ごせるようになった。そんな女性を見て家族は「病院も精神科もダメで、薬の増量もできない状態で、このまま一緒に死のうかとまで考えたことがあったが、減薬してもらって本当によかった」と話している。

 このほか、減薬を試みた認知症入居者の約3割で何らかの改善が見られたという。

 同社の「認知症高齢者減薬取り組みプロジェクトチーム」を率いる小林司取締役は、この取り組みは同社だけでなく業界全体にメリットがあると言う。

「薬の適正使用については、本来であれば適正に投与されれば効くはずの薬が、飲み合わせが悪い、重複投与、過量投与などで、果たすべき役割を発揮できない。服用薬の数が増えれば、ご本人は飲むのが大変だし、ご家族は薬代の負担となります。しかし、薬剤数を減らして費用を減らせばよいというわけではありません。われわれは介護施設運営者ですから、入居者の生活の質(QOL)、日常生活動作(ADL)の改善が何より大切だと考えるからです。減薬によって入居者の認知症の進行が改善すれば、現場の負荷も軽減するというメリットもある。ご入居者、ご家族、現場がハッピーになります。今後もこのプロジェクトを続けるとともに、介護業界全体の発展につながればいいと思い、減薬のデータや報告内容を開示していくつもりです」

 このプロジェクトを監修した医師は、「医療法人至高会たかせクリニック」の高瀬義昌理事長。認知症治療の権威でもあり、厚労省のガイドラインが公表される何年も前から多剤服用の有害反応について研究を続けていた。

「多剤服用の副作用により認知機能が低下する患者は多くいます。患者のQOLを向上させるためにも医薬品の適正使用は重要です。しかし、これは薬を使わなくていいということではありません。薬は、正しく使えば病気の予防やQOLの向上に役立ちます。ただ、同じ年齢、同じ体重の患者さんに同じ向精神薬を同じ量処方しても効き方は同じではありません。かかりつけ医やかかりつけ薬剤師に、薬の量と数について相談してみてください。自己判断で中止しないことが何より大切です」

 高齢者で特に慎重な投与を要する薬物を上に示した。あてはまる薬を数多く飲んでいる場合は、かかりつけの薬剤師に相談したり、かかりつけの医師に「お薬手帳」のチェックをしてもらったりしたらどうか。(本誌・鈴木裕也)

【高齢者で特に慎重な投与を要する薬物】
抗精神病薬、睡眠薬、抗うつ剤、抗パーキンソン病薬、ステロイド、抗血栓薬、強心薬、高血圧治療薬、制吐薬、緩下薬、経口糖尿病治療薬、過活動膀胱治療薬、抗炎症薬、消化性潰瘍治療薬
*服用中の薬は、必要があって処方されているものなので、決して自己判断で中止しないこと。必ず医師・薬剤師と相談してください。
参考資料:日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」

※週刊朝日  2020年1月24日号

このニュースに関するつぶやき

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  • 高齢者は薬の飲みすぎになりやすいでしょうね。どんどん薬が増やされて。
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