スーパーカーは持続可能? ランボルギーニ本社工場で考える

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2020年01月22日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
気候変動問題を背景に電動化が進む自動車業界で、はたしてスーパーカーメーカーは存続できるのか。そんな命題に対するランボルギーニの答えを、同社の本拠地であるイタリアはボローニャ郊外のサンターガタで見てきた。ランボの工場は、環境に配慮したエコなプラントとして、今日も稼働しているのだ。

○ランボは常に環境を意識する

「アヴェンタドールSVJ」「ウラカンEVO」「ウルス」というランボルギーニの最新3モデルでイタリア北部のアルプスを走り回るイベント「クリスマスドライブ」に参加したのが2019年の暮れ。6.5リッターV12、5.2リッターV10、4.0リッターV8ターボという大排気量高性能エンジンを搭載したスーパーカーをとっかえひっかえしながらのドライブが、貴重かつ素晴らしい体験だったことはいうまでもない。しかし、それを素直に喜んでばかりもいられないのは、近年の地球を取り巻く環境問題が気にかかるからだ。

ほかにも要因はいろいろとあるが、自動車の排気ガスに含まれるCO2などの温室効果ガスが増え、世界のあちこちで異常気象が頻発したり、極地の氷が解けたりと、地球温暖化が確実に進んでいる。それは、16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの「怒りのスピーチ」を引用するまでもない。当然、温室効果ガス削減で重要な役割を持つのは自動車産業であり、製品だけでなく、製造工程においても何らかの対策を講じていくのは、各社の必修科目となっている。

イタリアのボローニャ郊外サンターガタにあるランボルギーニの工場見学では、同社がいかに環境問題に注力しているかについて、製造部門責任者のラニエリ・ニッコーリ氏がたっぷりと時間を割いて説明してくれた。同社の現在と今後の方向性が見えてくるような話だった。

「地球(の環境)、人、製品に対して責任と義務を持つランボルギーニは2010年、本社近くに1万5,000平方メートルという広大なバイオパークを設けました。そこに植林した1万本以上の樫の木は、工場で排出するCO2を吸収してくれます。ボローニャ、ボルツァーノ、ミュンヘンの各大学と共同で、地元の生物多様性に関する研究も行っています。大気汚染とミツバチの喪失に関する研究はその一例で、実際にそこではミツバチを飼っており、製造したハチミツは従業員の手に渡ります」

2015年にはバイオガスを利用した第3世代の冷暖房システムを導入し、年間1,800トンのCO2削減を達成するとともに、イタリアで初めて工場全体がカーボンニュートラルとなる認証を獲得。2018年にはウルスの好調な販売状況にあわせて工場を2倍の16万平方メートルに拡張し、新たに500人の従業員を雇い入れたという。2019年には95%水性の塗料を使用するペイント工場を新設。さらに、従業員が利用するカフェテリアは、今年から100%のプラスチックフリーを実現しているそうだ。

ランボルギーニで人事部門の責任者を務めるウンベルト・トッシーニ氏は、「今日の、そして未来の経済と社会に貢献するため、常にエコロジーに目を向けています。そのためには教育が重要で、具体的には、ランボルギーニパークで地元の小学生向けのイベントを開催するとともに、高校や大学で授業を開催しています。そこでは、水の大切さやプラスチックフリーについて教えます。従業員とその子供たち全てに携帯ボトルを配布したのもその一例です」と話していた。

工場拡大に伴い、新たに採用した従業員は、各部門で必ず先輩とペアになって作業を行い、技能を習得していくのだという。こうした様子は、見学した工場内のあちこちで見ることができた。
○未来を象徴する「シアン」と「テルツォ ミッレニオ」

研究開発プロジェクト管理責任者のリカルド・ベッチーニ氏は、ランボが生み出す未来のスーパーカーについて解説してくれた。

「博物館でご覧になったと思いますが、1963年の最初のスポーツクーペ『350GT』から2018年のウルスまで、我々が開発するクルマは常に革新の連続です。一方で、自動車業界は今、大きな変革の時を迎えています。ランボルギーニが送り出すスーパースポーツカーは、2020年を境にハイブリッド化され、2030年代にはフルEVとなる予定です。それには軽量で効率的なエネルギー、単一ではなく複数の機能を持つボディ、機械的でなく信号で伝わるパワートレイン、そして、第3の千年紀を進むべき本当の理由、つまり、エモーションが必要となります。そのためには、学術関係との連携や自動車以外の産業とのコラボレーションが今まで以上に必要となるでしょう」

その具体例としてベッチーニ氏が言及した2台は、2019年のフランクフルトモーターショーで披露したマイルドハイブリッドコンセプト「シアンFKP37」と2017年に発表したEVコンセプト「テルツォ ミッレニオ」だ。

シアンのパワートレインは、アヴェンタドール用をさらにパワーアップしたV12エンジンに、最大出力34psを発揮する電気モーターを組み合わせる。画期的なのは、従来のリチウムイオン電池に比べて3倍力強く、3倍軽く、充電と放電を同じ効率で行うのでオーバーヒートしないという性質を持つスーパーキャパシタを、エネルギー蓄電用として採用した点だ。ちなみに、車名の「シアン」はランボルギーニ本社のあるイタリア・ボローニャ地方の「稲光」をあらわす方言。「FKP」は、ランボルギーニを傘下に収めるフォルクスワーゲンの元会長、故フェルディナンド・カール・ピエヒ氏を称える頭文字である。

「テルツォ ミッレニオ」は「第3の千年紀」を車名に冠するフルEVのスーパースポーツコンセプトだ。ランボルギーニは同社が大部分の資金提供を行っているマサチューセッツ工科大学の2つの研究所と提携し、開発をスタートさせた。その特徴は、蓄電システムにスーパーキャパシタを使用するとともに、ボディシェルを構成するカーボンファイバー自体を蓄電可能な素材とすることで、ボディ全体に蓄電機能を持たせようとしているところ。さらに、損傷を検出して“自己修復”する機能を持つボディや、インホイールモーターによる四輪駆動システムなどを採用するという。
○アッセンブリーと仕上げの行程を見学

工場を紹介してくれた人材雇用および組織化担当のアルベルト・フェラロット氏によると、「ランボルギーニ社の人材構成は、ホワイトカラーが35%、ブルーカラーが65%で、女性はそのうち20%を占めています。工場で働く1,800人のほとんどは近隣地域に住んでいますが、技術者などの中には、トリノから単身赴任しているスタッフもいます。カーボンコンポジット部門の担当者は、最初の2年間はF1でお馴染みのダラーラ社でみっちりと勉強し、専門家になってから会社に戻ってきます。そして、工場の各部門には教官がいて、若い工員を教育しながらクルマを作っています」とのことだった。

ウルスの好調な販売状況に応じて、2018年に面積を2倍の16万平方メートルに拡大した工場内で働く従業員さんにも話を聞いてみた。巨大なカーボンブレーキの組み付けを担当する31歳のフランチェスカさんは「ランボで働き始めてまだ1年。ここに採用されたことをとても誇りに思っています。おかげで生活が変わったし、仕事もとても楽しいです」という。工場に誇りを持つ彼のような若い工員さんは数多くいて、教官とペアで仕事をする様子が、エンジンの組み付けやパーツの隙間のチェックといった工程のあちこちで見られた。また、シートの作成部門には女性が数多く採用されており、ミシンを使ったり、手作業で表皮を組み付けたりする丁寧な作業状況を確認することができた。

筆者に面白い質問をしてくれたのは、ポリッシュでボディを磨き上げる最終工程の担当者で、「日本では紫や白が人気のようだけど、なぜなんだい?」というもの。「日本では千数百年前の地位を表す制度で“冠位十二階”というものがあって、そのトップが着ける冠の色が紫だった。つまり、最も高貴な色だったということで、今でも人気がある。また、白は神様に使える人の衣装の色であったり、花嫁衣装に使われたりする色で、神聖や純潔を表す日本人が最も好きな色なんだ」と説明しておいた。

工場見学を終えて外に出ると、広い駐車スペースには白いカバーを取り付けて出荷を待つアヴェンタドール、ウラカン、ウルスがずらり。まだまだランボ人気が続いていることを示していた。

○著者情報:原アキラ(ハラ・アキラ)
1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。(原アキラ)

このニュースに関するつぶやき

  • 時代にそぐわなくなってきているのは現実としてあるね。では中身をエコカーに変えたら、それはもうスーパーカーではない張りぼてでしかない。そんなにパワーや排気量のある車が日本には不要なのだが、海外ではどう思う。
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