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出待ちは号令「座りま〜す」 知られざる「宝塚ファン」の世界

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2020年01月23日 11:30  AERA dot.

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写真東京宝塚劇場=東京都千代田区 (撮影/首藤由之)
東京宝塚劇場=東京都千代田区 (撮影/首藤由之)
 年間300万人を超す観客を集める宝塚歌劇。100年超の伝統から、劇団員らには数多くの決まり事があるが、隆盛を支えるファンクラブも実は歌劇団に負けず劣らずの独自のルールがあるという。「掟(おきて)」とも言える、知られざるその中身の一端をご紹介しよう。

【宝塚ブロガーがつくった「タカラジェンヌ的人生ゲーム」はこちら】

*  *  *
 東京・日比谷の東京宝塚劇場。夜公演がある日の午後10時になると、劇場の外周に沿うように、一群の女性たちが整列を始める。タカラジェンヌたちが帰るのを見送る、いわゆる「出待ち」だ。

 演劇の世界で出待ちは珍しくないが、タカラヅカファンのそれは独特である。いくつもの集団が形成されていて、それぞれが規律正しいのだ。

 よく出待ちをする女性ファンが言う。

「スターたちにそれぞれファンクラブ(ファン会)があって、会ごとに並んでいるんです。並び順も決まっています」

 花・月・雪・星・宙の組ごとに微妙に違うというが、スターの序列を表す「番手」と、年功である「学年」の組み合わせが基本だ。

 見送り方も決まっている。スターが通る時は一斉に座り、通り終わったら一斉に立ち上がる。

「トップスターの会の仕切り役の方が号令をかけるんです。『座りま〜す』『立ちま〜す』に合わせて動きます」(女性ファン)

 決まったお作法があるからこそ規律正しくなる。出待ちをするファンの数は連日100〜数百人にのぼり、彼女たちが一斉に座ったり立ったりする光景は壮観ですらある。

「ファンクラブに限らず、タカラヅカは『決まり』が多い世界です」

 こう話すのは、このほど『タカラヅカの謎 300万人を魅了する歌劇団の真実』(朝日新書)を上梓した阪南大学流通学部の森下信雄准教授だ。

 森下准教授は、宝塚歌劇の主催者である阪急電鉄の元社員で、1998年から2011年まで、星組プロデューサーや宝塚総支配人を歴任するなど歌劇ビジネスに携わってきた。『タカラヅカの謎』はその経験をもとに、歌劇団の人気の秘密を解き明かすものだ。

 確かに、同書によると、歌劇団自体がまず「決まり事」のオンパレードだ。

 生徒(劇団員を宝塚歌劇団ではこう言う)が全員女性である宝塚歌劇の華は「男役トップスター」。そこまで上り詰めるには、10年以上かけて「出世双六」を進む必要があるが、若手だけで行う新人公演の主演→宝塚大劇場隣のバウホール公演での座長→単独でのディナーショー開催など、いくつもの関門をくぐる必要がある。

 森下准教授によると、歌劇団がとりわけ大切にしているのは「長幼の序」。芸事にいくらすぐれていても、タカラヅカ的所作は数年では身につかず、一足飛びの出世は考えにくい。

「ベースには音楽学校での教育があります。2年間、外部との接触もなく、朝から晩までタカラジェンヌはこうあるべきだということを、たたき込まれる。先輩の存在は絶対で、トップスターになっても先輩には頭が上がらないものです」

 いい意味で秩序を保つために、決まり事が必要になるというのだ。

 一方、ファンクラブは、空前のヒットとなった74年の「ベルサイユのばら」以後に誕生したとされ、現在は全部で50近くあるとされる。元々は急増したファンからスターたちを守るための組織で、当時の名残からか、冒頭の出待ちで触れた号令をかける仕切り役は今でも「ガード長」と呼ばれている。

「歌劇団が長幼の序を大切にしていることなどに影響されているのでしょう。ファンクラブも決まり事だらけです」(森下准教授)

 確かに、複数のファンクラブ関係者に聞くと、掟とでもいうべき決まり事が挙がってくる。

 まずファンクラブには一つしか入れない。複数所属がばれると、除名され二度とどこにも入れなくなる。

「全身全霊を捧げてスターを応援しなくちゃいけないからでしょうね」(ディープファン)

 ファンクラブに入ると、「入り待ち・出待ち」に参加する権利を得られ、その際に手紙と差し入れを渡すことができるようになる。

「入り待ち・出待ちには『会服』と呼ばれる制服の着用が義務付けられています。着るのは劇場前でスタンバイしてから。狭いスペースで待つため、雨が降っても傘はささずカッパを着るのが暗黙の決まりです」(ファンクラブの幹部)

 自分や友人のために入手したチケットで空席を出さないことも絶対条件だ。都合が悪くなって行けなくなると、ファンたちの携帯ネットワークがフル稼働して代わりの人を探す。タカラヅカの公演がいつも満員なのは、こうしたことも関係しているのかもしれない。

 劇場前で配布物などを受け取る際は、長幼の序が厳しいまでに守られる。

「ほかの会も配布している場合、下級生会の会員は上級生の会の前を横切ってはいけません。自分の所属会までまっすぐ進んで、そのまままっすぐに後ろに下がるイメージです」(同)

 そして、ファンクラブの個々の会員にも貢献度に応じて序列がある。

「はっきり言ってお金を使った順番ですね。入り待ち・出待ちに参加した回数、観劇回数、お茶会に友達を何人連れてきたか、グッズをどれだけ購入したか……。それらをポイント制にしています」(同)

 そんな掟だらけの世界をファンたちはどのように楽しんでいるのか。

「婚活」の名付け親で知られる社会学者、中央大学の山田昌弘教授は、25年来の宝塚ファン。ミュージカル好きが高じてとのことだが、ディープファンを指してこう言う。

「常連にしかわからないことがいっぱいあり、それを知るまでに長い道のりを経なければならないのが宝塚ファンの世界です。それがわかるようになるとディープな楽しみ方ができます。そして、常連になると抜けられなくなってしまう」

 先の森下准教授も、

「『タカラヅカの謎』でも書きましたが、女性だけの宝塚歌劇団は世界で一つだけの存在です。カッコいい男役の虚構をファンは楽しみ、唯一無二の世界を知る喜びにひたります。そして、その喜びをほかにも広めようと、友人たちを誘うようになるのです」

 だからこそ宝塚ファンは、いつの時代も増え続けるのだろう。

 ところで、宝塚ブロガーのボン乃セリ美さんは、さまざまな決まり事をもとに昨年、「タカラジェンヌ的人生ゲーム」を作成。自身のイベントで披露しディープファンを楽しませた。

「『阪急電車の初詣ポスターに選ばれる』や『卓上カレンダーのメンバーに入る』とか、ディープファンしか知らないイベントを詰め込んでいます。タカラジェンヌ人生への影響度もコマごとにマイナス15点からプラス20点まで点数化しましたが、長年見ていないとわからない点数づけなので大うけでした。毎年やってほしいという要望がきています」

 確かに記者にはチンプンカンプンで、ボン乃さんの解説を聞いても「?」。ディープファンだけが楽しめるゲーム。まさに「選ばれし者」を自負するタカラヅカファンの世界だ。(本誌・首藤由之)

※週刊朝日  2020年1月31日号

このニュースに関するつぶやき

  • 地元であるが…知らなかった世界…にしても、高度にシステム化されたヲタクという感じが…
    • イイネ!2
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  • ジ◯ニーズ辺りのやらかしファンに、宝塚ファンの爪の垢を、煎じて飲ませてやりたいものです。
    • イイネ!52
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