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最初は「タルトタタン」 仏在住のシェフから広まった“被災地農家支援レシピ”

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2020年01月25日 11:30  AERA dot.

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写真果汁たっぷりチーズケーキ風 リンゴのクラフティ(写真:本人提供)
果汁たっぷりチーズケーキ風 リンゴのクラフティ(写真:本人提供)
 料理のレシピの力で被災した農家を支援したい。昨年秋、フランス在住のシェフのつぶやきから始まった取り組みが、広がっている。キーワードは「#CookForJapan」。作って食べて味わうことも、応援だ。AERA 2020年1月27日号では、被災農家を応援する料理人やパティシエの活動を取材した。

【写真特集】美味しく食べて被災農家を支援「#CookForJapan」特選レシピ20はこちら

*  *  *
 南仏カーニュでフランス料理店を経営する愛知県出身のシェフ、神谷隆幸さん(41)は昨年10月、ツイッターに台風19号のニュースが次々と流れるのを見て、息をのんだ。記録的な大雨により、あちこちの河川で堤防が決壊。多くの家が壊れたり、浸水したりしていた。田畑も水につかり、リンゴをはじめ多くの農作物も大変な被害に遭っていた。

「ただ『被災農家から買って』と頼むのではなく、おいしい食べ方を紹介すれば買ってもらえるのでは」

 妻でパティシエールのクレールマリさん(29)からリンゴを使った焼き菓子「タルトタタン」のレシピを教わり、被災した農家からリンゴを買った人に無料でレシピを提供すると決めた。伝票などの写真をダイレクトメッセージで送ってもらうことが条件だ。

 同月23日、ツイッターで「被害に遭われた農園のりんごをまだ買えるならそこで買ってタルトタタン作ってくれたらちょっと嬉しいです」とつぶやいた。タルトタタンを選んだのは、クレールさんがオンライン菓子教室で教えたばかりだったことに加え、ツイートに添えた写真の直径20センチ(8人分)のタルトでも、小ぶりのリンゴを12〜14個も使うからだ。

 神谷さんが支援を言い出したのには訳がある。2016年7月、南仏ニースで経営していたレストランから数百メートルの場所で、90人近くが犠牲になったテロが起き、客足が途絶えた。2日後にはスタッフと「来年末で閉店しよう」と話し合った。

「街から人が消えて移転を決めざるを得なかったので、台風で農家のみなさんが抗(あらが)えないものに生活を奪われた気持ちは分かる。日本に住んでいないので、災害のニュースを見る度に何もできない負い目を感じていた。今回も直接買うことは難しいけれど、人と人とをつなげられるかなと思った」

 料理人が被災地に行って炊き出しを行う支援は昔からあった。神谷さんが新しいのは、価値ある「ソフトウェア」であるレシピを提供することで、現地に行かずとも支援できる方法を提案したこと。情報もツイッターを使ってスピーディーに拡散した。

 翌24日も「他の料理人やパティシエの皆さまも『これ買ったらこれを使ったレシピ1個』とかやってくれたら面白い広がり方するのではないでしょうか」とツイートし、プロの協力を仰いだ。

 金沢市の焼き菓子専門店「BAKE SHOP bien Bake」のオーナーシェフ坂下寛志さん(40)は、すぐに反応した。「神谷さんに共感しレシピ公開しました。少しでも被災地への支援に協力できたらいいなと思います」と、リンゴを使った焼き菓子「タルト ポム クランブル」のレシピを無料で見られるようにした。坂下さんは言う。

「借金をして店を立ち上げたこともあり、生活の糧を失う怖さは理解しているつもりです。自然災害という人間の力ではどうしようもできないものによって、生活の糧である農園が壊滅的被害を受けたことに心を痛めました。神谷さんの提案は、自分にもできる支援だと思いました」

 兵庫県尼崎市の洋菓子店リビエールのオーナーパティシエ西剛紀さん(36)も、すぐに「おうちで作ったらおいしいと思うお菓子紹介させてもらいます!」と「リンゴのクラフティ」のレシピを公開した。

「農家の被害は神谷さんの発信で知りました。僕が続くことで賛同する人の輪が広がり、リンゴを買う人が少しでも増えればいいと思いました」(西さん)

 全国のシェフやパティシエらを巻き込んで日に日に動きは発展し、途中から「#被災地農家応援レシピ」というハッシュタグも付いた。リンゴだけでなく、千葉県特産の落花生、カブなどの根菜、ナシなどのレシピも加わった。神谷さんも「千葉の被災された農家から野菜を買って」と、落花生を使ったサラダや「ポトフ」などのレシピを公開した。

 神谷さんは11月、志を同じくするシェフら15人で「#Cook ForJapan」を結成した。関連する投稿のハッシュタグも「#被災地農家応援レシピ」から「#CookForJapan」になった。

「僕たちが美味しい料理を作れるのは、農家のみなさんあってこそ。ただでさえしんどい職業で、心が折れたら続けられないと思うので、レシピを作ったり、多くの人が楽しめるイベントを企画したりして、被災した農家を後押ししたい」(神谷さん)

(朝日新聞鹿島支局長・村山恵二)

※後編「被災地のリンゴ1.5トンが猛スピードで完売 背景にシェフたちの『素敵な動き』」へ続く

※AERA 2020年1月27日号より抜粋

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