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「あまりにもひどい」 聖マリアンナ医科大の入試不正を“受験の現場”はどう見るか

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2020年01月27日 11:28  ねとらぼ

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ねとらぼ

写真「ACE Academy」代表の高梨裕介さんに聖マリ問題について聞きました
「ACE Academy」代表の高梨裕介さんに聖マリ問題について聞きました

 1月17日に聖マリアンナ医科大学(以下、聖マリ)が公表した第三者委員会の調査報告書は、大きな衝撃を与えました。2018年から続々と明らかになった医学部受験における女性差別。聖マリは「差別の認識はない」としていましたが、調査報告書には驚きの実態が書かれていました。



【画像】男女でつけられていた点差



 第三者委員会の調査の結果、志願票・調査書に性別・現浪区分で配点がつけられており、2017年度入試からその差が大きくなっていることが判明。現役男性と現役女性では60〜80点差、現役と1浪では20点差――とほぼ一律で差がつけられていることが明らかになりました。



 聖マリの受験の実態をどのように考えるか。医学部専門予備校「ACE Academy」代表の高梨裕介さんに話を聞きました。



●「あまりにもひどい」



――高梨さんは医師免許を取得し、現在は医学部専門予備校で医学部を目指す生徒たちを教えています。聖マリの報告書をどう読みましたか?



 聖マリの報告書で明らかになったのは、「調査書・志願票」での加点です。これは出願時に受験生が提出するものですが、そもそもこれに配点があるとは明らかにされていませんでした。聖マリの入試の募集要項では、一次試験(英語100点・数学100点・理科200点)と二次試験(面接100点・小論文100点)で合計600点満点と記載されており、受験生から見れば「それ以外の配点はない」と思うのが普通。それが裏では点がつけられており、大きな調整がされていたわけです。それ単体でもあまりにもひどいと感じます。



 そしてこの調査書・志願票での点数調整操作が、2017年度から急激に大きくなっています。女子や一浪・多浪がマイナス調整され、現役男子と現役女子では80点差、現役男子と一浪女子では100点以上の差がついています。聖マリの数学の学科試験が100点満点ですから、調査書と志願票の加点でひっくり返ってしまうくらいの調整点……つまり、学科試験をどれだけ頑張っても挽回できないような点差なわけです。聖マリは報告書で「差別の認識はない」としていますが、明白な差別でしょう。



***



○聖マリの志願票・調査書配点



2015年度:男女差18点 浪人減点



2016年度:男女差18点 浪人減点



2017年度:男女差60点 浪人減点



2018年度:男女差80点 ※多浪の女子にはマイナス点も



***



――もともと、聖マリは女子受験生が入りにくいイメージがあったのでしょうか?



 いえ、そこまで女子が入りにくいイメージはなかったですね。多少はあったかもしれませんが、推薦入学では女子の合格者のほうが多いこともあって、トータルで見ると他大学と比べても女子がいるという印象がありました。それよりも2019年に問題が発覚した昭和大学、順天堂大学、日本大学のほうが「男子が多い」と見られていたと思います。



 ただ聖マリの場合、報告書を見ると、ここ2年で得点調整が急激に拡大しています。2016年度までは18点差。この得点調整ももちろん差別ではありますが、受験生側や予備校側からすると違和感を覚えにくい、気づきにくい数字です。急激に変化した2017年度、2018年度の入試の時に「あれ? ちょっとおかしいな……」と感じたとしても、確証にはいたらない。報告書を見て“嫌な答え合わせ”をした印象です。それにしても、普通そんなことしないと思っていたら、想像していた以上にひどい調整でした。



――高梨さんが教えた生徒の中に、今回の調整の対象になったと思われる人はいますか?



 はい。2018年度入試で聖マリの補欠合格者になり、結果入学できず、ACE Academyに入った生徒がいます。彼女は女性で1浪でしたから、報告書によれば100点の差が付けられている。どう考えても調整点がなければ入学していました。彼女以外にも5人の生徒が不合格になっていて。中には女性や多浪生もいて、調整点の“被害”を受けていると思います。



――聖マリは受験料を返還する(返還方法は後日発表)と告知しています。この対応には誠実さを感じますか?



 本当に不誠実です。聖マリの入試は一次と二次で2日あるので、日程的に他の医学部を受験できなくなることがある。受験料も6万円と高額です。聖マリを受けなければ他の医学部を受けるチャンスがありました。交通費や宿泊費を含めれば、金銭的被害だけで見ても大きなものになります。



 しかも聖マリは、大学側から該当者に連絡するのではなく、申し出た受験生に返金すると言っています。今回明らかにした報告書も、文科省に再三調査を求められて、ようやく立てた第三者委員会。会見する気もないようですし、まだ差別を認めてはいません。あまりにもひどくてあきれています。



――今回の発表は、受験生にどのような影響があるでしょうか。



 報告書を公開したのは1月17日、センター試験の前日でした。報道を見て不安に思ったり、衝撃を受けたりした受験生はいるでしょうが、まずは目の前の試験に集中しよう、と気持ちを切り替えていると思います。ACE Academyの生徒にはそのように伝えています。



 不誠実さは報告書の公開日にも感じますね。1月22日が願書の締め切り日ですが、公開された1月17日は大部分の受験生の出願が終わっているタイミングです。また、聖マリ以外を受けようと思っても、出願を締め切っている医大もあります。2019年内に公開すれば、受験生は「他の大学にしよう」といった判断ができたはずです。



 実際、2018年に問題が明らかになった東京医大では、2019年度の出願が激減しました。ただ「膿を出したのでは」と考えられたのか、今年の受験生の数は復活しています。でも聖マリはどうでしょうね……認めていないわけですから、今年は世間の目を気にして得点調整をしなくても、ほとぼりが冷めたらまたやりかねないように思います。



――ネット上の声についても聞かせてください。SNSでは女性が一律減点(男性が一律加点)ということから、「聖マリの男性医師にかかりたくない」といった声も上がっていました。



 僕も見ましたが、それは明確な誤解です。聖マリについて言うと、一次試験後の加点ですから、みな学科試験は突破しています。また、ACE Academyでも2年前に聖マリに入学した男子生徒がいますが、ほかの医学部に複数合格した上で聖マリに入学しています。



 確かに結果を見れば“ゲタを履かされている”わけですが、男性受験者もフェアに受験に挑んでいたはずなのに、知らないうちにゲタを履かされているわけで、聖マリの男性医師や聖マリの男子生徒を非難するのはやめてあげてほしいと感じます。非があるのは調整した大学であって、調整された生徒ではない。批判するべき相手は集中させてほしいです。



●「女性差別はしょうがないこと」?



――2018年から、医大受験での女性差別・年齢(浪人)差別が立て続けに明らかになっています。受験の現場では、こうした実態は“公然の秘密”だったのでしょうか?



 浪人や性別に関して調整が行われているであろうことは、うわさベースではありますが「あるだろう」とは言われていました。でも、その調整というのは、例えば最終段階で当落線上に同点の受験者が2人並んだとき、きっと現役の子を優先するだろう……というイメージでした。しかし現実は、一律で、しかも大きく点数に傾斜をつけていた。東京医大の問題が明らかになったとき、「そんなこと本当にするんだ」という衝撃を受けたのが正直な印象です。予想外でしたが、同時に「他もやっているんだろうな」と感じました。



 というのも、東京医大はそこまで女性に対してひどい印象がなく、先ほど挙げたようにむしろ昭和、順天堂、日大のほうがひどい印象があったんです。だから「東京医大でこうなのだから、他大も間違いなくひどいことをしているな」と思い、事実次々と明らかになっていきました。もうそれ以降はこちら側も身構えていて、聖マリに関しても入試で調整があったこと自体には衝撃はありませんでした。ただ、差別の程度があまりにもひどすぎたのには衝撃でしたが……。



――ネット上では「現場の実態を考えると、女性差別はしょうがないこと」という声もありました。



 僕も医師免許を持っているので、現役で医者をやっている同世代や医学生がSNSで「(男女で得点を調整するのは)やむをえないのではないか」「現場が忙しく、男性医師を求めているのは事実」という意見は目にしました。でも、それとこれとは別ではないか? と思います。



 僕ははっきりと、差別自体がダメだと思っています。聖マリに限って言っても、この調整は学科試験でどれだけ点数をとってもまず取り返せない。それを公開せず、同じ受験料で行うのは、言ってしまえば詐欺ではないでしょうか。一般企業でそんなことをやったら「それは当然ダメでしょ」となるはず。シンプルな話だと思います。理屈があるから差別をしていい、というわけではない。また、批判をする際も「一部だけを切り取っている」と感じることがあります。



――一部だけを。どういうことでしょうか。



 例えば、ネットでよく見られるのは、「外科を目指す女医が少ない」というもの。実際、外科は男性医師が多いです。しかし人手不足が深刻な問題になっているとしてよく挙げられるのは産婦人科、小児科、麻酔科。この科を目指す女医さんは多いです。もちろん医療業界全体に人が足りていないので、外科だけを見れば「人が足りていないのに女性が目指さない」といえるかもしれませんが、逆に「なぜ外科だけを見るのか?」と感じます。



 それから以前、テレビである医師が「医大の女性差別は当たり前」「重たい人を背負える男手が必要」といった発言をしたことが話題になりました。これは女性医師は重いものを持てないという主旨の発言だったと思いますが、ツッコミどころがいっぱいありますよね。僕の妻は看護師ですが、女性看護師さんたちは自分より重い患者さんの体を移動させたり、持ち上げたり……と日常的にやっています。「女性だからできない」というのは違うはずですし、そもそも「男性にはできる」というのも違います。女性は忙しいから無理と言いますが、男性にも無理。そもそもみんな無理なんです。



――そもそもみんな無理……。



 僕の兄も医師免許を取っていて、現役で医師として働いています。兄は中高大で皆勤賞を取ったような人ですが、30代半ばを迎えて「本当にきつい」と音を上げ始めています。



 医師の働き方は、例えば36時間連続勤務でしかも当直なのでほとんど寝られなかったり、1週間に5時間しか寝られなかったり……と、過労死がいつ出てもおかしくない労働環境が常態化しているところが存在しています。同期で集まると、辞めたい話がよく出ます。



――壮絶ですね。



 また2018年から知られるようになった「無給医」問題もあります。大学院生などで、診察行為を行っているのに給料をもらっていない医師がいる。研修中は「(いつ呼び出しがあってもいいように)病院の近くに住みなさい」と言われることが多いですから、都内の場合だとその経済状況では生活できないですよね。一方で、医療業界では単発のアルバイトの時給はむしろ割がいいことが多いので、休みの日にバイトを入れる。そうなると本当に休みなしで働き続けることになります。



 医師は高給というイメージがあるかもしれませんが、大学病院などの若い医師を見れば、給料も安く、過酷な労働環境で働いています。そこを乗り越えられる一部の医師たちによって、医療の現場は成立している……いえ、ギリギリもっていない。



 そういう余裕がない状態で「女性医師が来られたら困る」というのは、自分で自分の首を絞めているようなものです。女性が継続して働ける環境は、体力のない男性や、高齢になってきた男性も活躍できる環境です。僕もそうですが、医師免許を持ってはいるけれど、現状の医師の働き方からドロップして、戻れない、戻らない選択を取っている人がいます。一度抜けると、「もうあの働き方には戻れない」と思ってしまいますが、働きやすくなったり、スポットで働ける環境ができたりすれば戻る人はいるはずです。



 女性を差別し続けて“スーパーマン”だけをとるスタイルと、環境を整えて働ける人を増やすスタイル、どちらが総合的に見ればマンパワーが増えるかといえば、後者ではないでしょうか。スーパーマンは絶滅しかかっています。



――「女性が働きやすい環境は、男性にとっても働きやすい環境」という話は、働き方の議論でよく聞きます。



 ちなみに外科ですが、実際男性医師も少ない“不人気”の科です。男性も「プライベートを大事にしたい」という人が増えていますから、どんどん選ばれなくなっていく。そういう科はもう悪循環で、人が集まらないからいる医師の負担が大きくなり、そうなるとさらに人が集まらずにブラックになっていく。女性には無理な環境だったとして、人間として無理ですから、男性の無理レベルと誤差でしかない。無理の差を比べてもしょうがないと思います。



――女性が多い看護師の現場では、シフト制が一般的ですよね。医師たちがシフト制で働けないのはなぜでしょうか?



 一部の科や病院ではシフト制をとっているところもあります。今できていないところは、医師の数が足りないのでシフト制にできないんです。これも悪循環で、「シフト制がある病院」と「ない病院」では、シフト制になっている病院のほうが選ばれます。そうなるともっと回らなくなるわけです。



 現場の医師の努力で環境を改善するのは現実的ではない。厚労省などが主導してやっていく必要があります。入試での女性差別問題について感じるのは、「この受験生たちは8年後のマンパワーになる」ということ(医学生6年、初期研修2年)。ここで女性を差別していたら、8年後の現場では地獄のような未来が待っています。そうではなく、「8年後に女性医師が現場に増える」ということを考えて、8年かけて体制を整えるチャンスなのではないでしょうか。ITの活用などにも可能性があります。そうしてできあがった環境は、男性医師にとっての希望にもなると思います。



(ねとらぼGirlSide/青柳美帆子)


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