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次期型東海道新幹線N700”渾身の作品”と噂されるが、技術の進歩はどんだけ?

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2020年01月27日 17:00  AERA dot.

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写真N700Sは、形式名こそN700系の発展型だが、見えない部分の改良が非常に大きい (C)朝日新聞社
N700Sは、形式名こそN700系の発展型だが、見えない部分の改良が非常に大きい (C)朝日新聞社
 東京五輪開幕の7月に営業運転の開始が予定される次期型東海道・山陽新幹線のN700S。外観は現役の最新車両であるN700Aとあまり変化はないようだが、改良点はどうなっているのか?「ワンランク上の乗り心地」を目指した最新車両の技術的な進化を前回の記事「 運転開始が待ち遠しい!次期型東海道新幹線N700S”空気抵抗”との闘いに大きな進化が」に引き続き解説する。

【非常時の自走が可能となったヒミツはこちら】

*  *  *
■ブレーキの制御を改良して制動距離を短縮

 見えないところで進化しているN700Sは、走り装置に関しても進化し、車両性能に関してはN700Aと同等以上の性能を有している。高速で走行する新幹線車両では、ブレーキは非常に重要だ。現在の電車では通常、発電(電力回生)ブレーキを用いるが、緊急時の非常ブレーキでは発電ブレーキを使用できない恐れがあるので、機械式のディスクブレーキのみで停車させる必要がある。ディスクブレーキは走行エネルギーを摩擦による熱エネルギーに変換することで減速するが、300km/hからの非常ブレーキでは、ブレーキディスクが赤熱するほどの熱を帯びる。これほどの熱を帯びるとブレーキディスクが変形し、効きが悪くなってしまう。

 そこでN700A(2013年)では、ブレーキディスクの締結方式を中央締結式に変更して、熱変形の影響を少なくしている。N700Sではさらに滑走制御をきめ細かく行うことで、N700Aより約5%の制動距離の短縮を実現した。これは地震発生時などの緊急時に非常に有効である。

 制御方法こそ300系(1992年)以来の三相かご形誘導電動機を採用しているが、N700Aまでは電動機の固定子が4極だったものを6極に変更している。6極とすることで主電動機の小型化が実現できるが、従来のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を使用した主転換器(制御装置)では損失が大きく、6極の主電動機を制御するのは困難だった。

 そこでN700Sでは心臓部にあたる制御素子の材質を、シリコンからSiC(シリコンカーバイド)に変更した。SiCは高温でも動作が可能で低損失であることから、6極主電動機の制御が可能となっている。高温状態でも動作可能なことから冷却装置を簡略化でき、N700Aでも採用されていた強制冷却ファンのない走行風冷却方式を採用した主転換器よりも、前後方向の寸法で100mm、重量は150kgの小型軽量化を実現している。

■主電動機(モーター)を小型化し台車も改良

 6極の主電動機を採用したことで大きく変わったのが動力伝達装置だ。動力の伝達は主電動機側の小歯車から、車軸に取り付けられている大歯車にWN継手を介して伝達される。N700Aまでは、この歯車にハスバ歯車が用いられていた。ハスバ歯車は漢字では「斜歯」と書き、歯車の歯が斜めに切ってあるものだ。

 これに対してN700Sではヤマバ歯車が採用されている。ヤマバ歯車は漢字で「山歯」と書き、歯の向きが逆なハスバ歯車を2枚貼り合わせたような形状となったものだ。ハスバ歯車ではトルク伝達の際に車軸方向のスラスト力(推力)が作用するため、軸受にスラスト力を受ける機構が必要となる。ヤマバ歯車はスラスト力が発生しないため、軸受の保守省力化と信頼性向上が図られている。ヤマバ歯車は歯車自体の厚みの寸法が増すが、6極主電動機の採用によって、主電動機も重量で70kg、回転軸方向の寸法が70mm小さくなったことで実現できたものである。

 この保守の省力化はN700Aの台車設計において、「軽量化」と「高機能化」と併せた3つの重点項目とされたもので、それぞれが密接に関わっている。N700Sは従来からの台車枠に対して大幅な設計変更が加えられている。従来はプレスによってモナカ型に成型した台車枠を溶接で組み立てていたが、N700Sではハット形にプレスした上部主部材と、板状の下部主部材の組み合わせに変更した。

 この組み合わせにすることで内部の補強が不要になり、従来型ではおおよそ6本あった溶接線が2本となり、製造工程の簡略化と信頼性の向上、軽量化が達成されている。また、台車強度の変更などがあった場合は、下部主部材の厚みを変更することで強度変更が可能となるなど、冗長性も増している。主電動機の小型化と装備部品の艤(ぎ)装見直し、台車枠の軽量化などが相まって、厚みのあるヤマバ歯車の採用が可能となった。

 台車には「台車振動検知システム」を実装。これは主電動機や車輪などの回転機器から発生する振動を検知し、故障や部品の破損が発生する予兆を捉えるものだ。N700Aから実装されていた機器だが、N700Sでは機能向上が図られている。

 乗り心地向上に対しては、N700Sでは全車にフルアクティブ制振制御装置が採用されている。これはN700Aなどに採用されているセミアクティブ制振制御装置に、油圧を発生させる電動機とポンプを装備したものである。制御装置自体はセミアクティブ制振制御装置と同じであり、電源喪失や電動機、ポンプ故障などの際はセミアクティブ制振制御装置として機能するためフェイルセーフとなっている。

■非常時に自走できるバッテリーを搭載

 車両全体の軽量化においては、大容量リチウムイオンバッテリーの採用が特筆される。従来使用されていた鉛蓄電池に対して70%もの軽量化と、50%の体積削減が実現した。さらにリチウムイオンバッテリーを増設することで、停電時でも一部の洗面所は使用可能となった。

 また、バッテリーによる自力走行も可能となり、異常時に駅間で停車した列車を最寄り駅まで移動させ、旅客の安全な待避が可能となっている。このように高速列車で自力走行用のバッテリーを搭載したのはN700Sが世界最初である。2018(平成30)年9月に行われた試験走行では2両にバッテリーを増設、浜松工場内で約5km/hの自力走行に成功した。さらに4両にバッテリーを増設し、2019(平成31)年7月10日の報道公開では、30km/hでの自力走行が行われている。量産車では8両にバッテリーの増設を行うことから、さらに自力走行距離が伸びると思われる。

 車体構造や台車などの走り装置の改良は、高速走行に備えると共に、乗り心地の改善にも大きく寄与している。

■違和感のない天井パネルと防犯カメラの設置

 客室内においては、グリーン車では「ゆとりある空間と個別間」、普通車においては「機能的で快適な空間」のコンセプトの元にデザインされている。客室への入口となるデッキは緩やかな曲面を持った壁面と共に、照明との相乗効果で遠近感の錯覚を利用し、奥行きのあるデザインとされた。

 客室内照明はグリーン車、普通車共にLEDによる間接照明を採用。天井は大型曲面パネルとして、間接照明の光が降り注ぐような設計とされている。空調吹出口は側面パネルと一体化させ、開口部を大きくすることで客室温度の均一化と、風速の低下による騒音が低減されている。間接照明と空調吹出口を旅客の視線から見えなくすることで、視覚的ノイズを排除している。

 天井パネルの構造は発想の転換といえるものだ。パネルは前後方向に数枚つなぎ合わせて使用されているが、どれだけ精密に作ってもある程度のズレは生じてしまう。そこで、つなぎ目部分をあえてV字形に大きくカットしてつなぎ目を目立たなくしている。同時にその部分に防犯カメラを設置。客室内に入った旅客から防犯カメラを見えづらくすることで圧迫感を少なくする工夫がされている。この防犯カメラは1両あたり、従来の2台から6台に増設。LTE回線を利用して運転指令などでリアルタイムで映像の確認ができる。

 荷棚は停車駅に近づくと付近の照明を明るくして、荷棚上に意識を向けさせることで忘れ物を防ぐようにコントロールされている。この照明コントロールによりN700Aの荷棚にあった樹脂製小窓を廃止することができ、同時に小窓を作る工程も省略できるメリットも生じた。

■足が安定する座席構造と電源コンセント

 座席もこれまでのものと比べて一工夫されている。N700Aなどで使用されてきた座布団はウレタン製で、今一つ硬い印象なので金属バネを併用していた。しかし、N700Sでは金属バネの代わりに、ソファーなどで使用されている布バネ(ウェービングテープ)を使用している。不特定多数の人が利用する新幹線車両のような座席には高い耐久性が求められるため、過去の実際の座席ダメージを研究、それによって得られたデータを元に定置試験を繰り返し、鉄道車両の使用にも耐えうる布バネを開発した。

 グリーン車のリクライニング機構は、従来の座席ではリクライニング回転の中心が座った人の大腿骨付近にあり、身長差によっては踵(かかと)が浮いてしまうことがあった。N700Sではリクライニングと共に座面が最大6cm沈み込む構造として、リクライニング回転中心を踵付近にしている。こうすることで座り心地が良く、足の位置が変わらないため、シートピッチを変更することなく足下の空間を15%拡大することができた。読書灯には光源にLEDを使用しているが、柔らかい色調の電球色が採用され、レンズを四角くすることで、本や新聞に合わせた四角い光が照射されるようになっている。

 普通車のリクライニング座席は従来背もたれの角度が変わるだけだったが、N700Sは座面が3cm沈み込む構造となり、N700Aのグリーン車の座席に近い構造となった。座面を動かすための動力は従来はエアシリンダを使用していたが、ガスダンパを使用することで空気配管が不要になり、大幅な軽量化と保守の省力化が実現している。また、普通車でもすべての座席にコンセントが設置されている。3人掛けの座席の中央、B列においてもコンセントが使用できるように、肘掛けの先端部分にコンセントが設けられている。これはリクライニングさせても、座席を回転させても問題ないように、配線の引き回しの工夫に苦労が必要だったそうだ。(文/高橋政士)

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