ホーム > mixiニュース > コラム > 世の中に蔓延「正論症候群」

“正論症候群”が増加中 自分の正しさを吠えまくる原因は?

643

2020年01月28日 16:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真イラスト:坂本康子(週刊朝日 2020年1月31日号より)
イラスト:坂本康子(週刊朝日 2020年1月31日号より)
 実生活の中でも、ネット上でも、「自分の正しさ」を振りかざして突進してくる人たちがいる。いま世の中に蔓延しているのは、名付けるならば「私は正論症候群」だ。その原因とトラブル回避策について、ライフジャーナリスト・赤根千鶴子氏が専門家に意見を求めた。

【イラスト】あなたは大丈夫?“正論症候群”の例をもっと見る

 高野さん(仮名・62歳)は東京郊外の中古一戸建てに引っ越しして間もないころ、ある紳士の訪問を受けた。

「このゴミ袋、お宅が出されたものですよね?」

 門の外から見知らぬ紳士が、高野さんが数分前にゴミ捨て場に出したばかりのゴミ袋を掲げる。

「はい、うちですが」

「紙ゴミがまざっているのが見えたから、お宅にお戻しします。今日は『燃やすゴミ』の日ですよ! 『紙ゴミ』の日ではありません。ハガキはミックスペーパーです。ちゃんと『紙ゴミ』収集の日に『紙ゴミ』として出しましょう!」

 一瞬唖然としたが、高野さんは素直に謝った。何せこちらは新参者だ。あなた、ゴミ袋からちょっとのぞいて見えたうちの名字の入ったハガキを引っ張り出したのですか、とも聞けない。

 妻が近所で聞いてきたことにはその紳士は70代前半で“決まり事”にはとにかくうるさい。ゴミ出しのほか、植木の敷地外へのハミダシや生活音にも敏感らしい。高野さんは妻に言った。

「まいった。とんだ世直し奉行だな」

「何言ってるの、奉行どころか“首領(ドン)”って言われているそうよ。あなた、余分なこと言って目をつけられないように気を付けてよ。首領は昔からこまめにブログもやっていて、遠回しにチクチク書かれることもあるそうだから」。高野さんは憂鬱でたまらない。

 サキコさん(仮名・61歳)は最近、同い年の友人たちの“正論ブチ切れ”傾向が気になってならない。つい先日も友人のアサコさんと買い物に出かけたとき、レジで彼女がブチ切れたことに驚いた。1202円支払うところで、レジの女性に小銭202円はないかと尋ねられたところ、「こっちはちゃんと2千円出してるでしょう!」「小銭がないときだってあるわよ!」。そしてブチ切れついでにアサコさんはサキコさんに同意を求めてくる。「ねえ、サキコちゃん。ねっ!」。(えっ、もしかして私に「いいね!」を求めているの?)サキコさんは苦笑いで通したという。

 別の友人・ミサさんは満員電車の中で、大きなスーツケースを前に置いて座席にすわっている男性に「スーツケースが邪魔です。抱えるとかしていただけませんか? こちらの体がつぶれます」と言いだす始末。幸い男性が黙ってスーツケースを自分に寄せてくれたからよかったものの、これにはサキコさんも脱力。しかしミサさんは意に介さない。電車を降りるなり「こんな混む時間帯に皆の迷惑よ。今日は“日本のマナー”について書くわ」と息巻く。決して押しの強い性格ではなかった2人の共通点は、これまたSNSのヘビーユーザーだということだ。

 いまの世の中、シニアでもブログ、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムといったSNSを利用している人は多い。そしてどんな人でも自分の意見を発信することができる。その環境への“慣れ”が、実生活にもジワジワと表れてきているのだろうか。

「それは否めないでしょうね。ネットの世界では誰もが自分の思ったことを一方的に発信することができます。その文化に慣れていくと自己中心的な視点に凝り固まって、相手の視点に立って想像力を働かせることができにくくなります」

 と言うのは、心理学者の榎本博明さんだ。

「対面で相手とコミュニケーションをとるしかなかった時代は、相手が目の前で傷ついたり悲しんだりするのもわかるから、あまり一方的なことも言いづらいといった感覚を、多くの人が持っていたと思います」

 しかしネットというのは、そういった配慮がいらない世界。

「その世界に心のモードが慣れてしまうと、実生活でも自分の視点だけで他人を糾弾したり、クレームをつけたりしてしまいがちです。ネット文化の広がりによって、いまやどこでも『思ったことを言えばいい』といった空気感が、世代に関係なく広がっているのかもしれません」

 また正論振りかざしの裏側には「フラストレーション」もある、と指摘するのは臨床心理士で明星大学准教授の藤井靖さんだ。

「本人も気付いていない部分があると思うのですが、日々の暮らしの中で何かしら欲求不満や不全感があると、そういうところに出てきてしまうのです。忙しすぎたり、厳しい職場であったり、家族に否定されていたり……といった環境に置かれていると、心の余裕がなくなり、自分の振る舞いを考えるゆとりもなくなってしまいます。そんな中で何かしら刺激が加われば、導火線は短いですからね」

 前出の榎本さんも言う。

「欲求不満状態になると、人は異常な攻撃性を出してくるものです」

 近年は、正論を振りかざして他人を攻撃してくる人間が、事件を起こしてニュースになったり、ワイドショーのトピックとして取り上げられることも多い。

「そういう人が目立つようになってきたということは、社会全体に欲求不満が渦巻いているということの表れです。思うようにならない自分、報われない自分を抱えて生きている人が多いのかもしれません。政府は『一億総活躍社会』という言葉を掲げていますが、多くの人は生活を成り立たせるために働いているのであって、活躍するために生きているのではありません。にもかかわらず“活躍して輝かなければ”とけしかけられれば、それは欲求不満にもなりますよね」(榎本さん)

 だが、その欲求不満の塊をのべつ幕なしにぶつけ合うようになっては、社会は混乱するばかりだ。暮らしの中で大きなトラブルに巻き込まれないように、そしてまた自らが大きなトラブルを引き起こさないようにするためには、どんなことに気を配るべきなのか。

「実生活において正論を振りかざしてくる人に出くわしたときは、その人の話を全肯定する必要はありませんが、話は聞いてあげないといけないと思います。大切なのは、正論の裏側に隠されている『感情』を見ること。そしてあからさまな否定や批判や反論をしないことです。人と人との関係において、一方的に怒り続けるということは実は結構難しいのです。口喧嘩やトラブルに発展するのは、話を受ける側がストレートに反論して、相手にどんどん燃料を与えてしまうからです」(藤井さん)

 またツイッターなどで拡散されてくる“正論らしきもの”に安易に便乗しないことも大事だと、心療内科医の梅谷薫さんは言う。

「ネットというのは、感情の増幅装置なのです。カッとなって感情的な発信をしないということは大前提ですが、リツイートで回ってきた話を『詳細はよく知らないけれど、おもしろいからリツイート』などということをするのも要注意。自分では何の悪意も持っていなかったとしても、無責任なリツイートはさまざまな人たちの感情をあおり、大炎上を引き起こすことにもつながりかねません」

※週刊朝日  2020年1月31日号より抜粋

このニュースに関するつぶやき

  • うわぁこんなんまじ唖然だわ。ハガキは燃えるゴミでいいじゃんね...(|||´ω`)
    • イイネ!2
    • コメント 16件
  • 読む価値無し
    • イイネ!154
    • コメント 7件

つぶやき一覧へ(420件)

あなたにおすすめ

前日のランキングへ

ニュース設定