米津玄師、祖父の死を乗り越え作った『Lemon』と音楽仲間がもたらした「変化」

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2020年01月28日 21:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

『Lemon』のヒットなど1年間の感謝を込めて東京・渋谷駅のハチ公口に’18年の年末から’19年1月14日まで看板が掲出された

《短期集中連載》
米津玄師が国民的歌手と呼ばれるまでの軌跡をプレーバック! 第3回

 自らプロデュースした『パプリカ』のワールドビデオ版が1月21日に公開され、話題を集めている。また2月から始まるアリーナツアーでは、台北と上海で2度目の海外公演を行うことも発表された。

 今や世界から熱い視線を注がれるアーティストとなった米津玄師。代表曲『Lemon』にたどり着くまでには、大切な人との別れと心境の変化があった──。

◆    ◆    ◆

 ニコニコ動画のボカロPから始まり、本名でデビュー。菅田将暉らとのコラボ……と、確実にキャリアアップをしてきた米津に劇的な変化が訪れる。’18年1月に主題歌を担当したドラマ『アンナチュラル』(TBS系)がスタートしたのだ。かつて恋人を殺害された井浦新演じる法医解剖医の過去と歌詞がリンクしていたこともあり、放送中から大反響を呼ぶ。

 3月にシングル化されると、配信を含めて300万枚を記録する大ヒットとなった。

 ドラマと『Lemon』がここまでシンクロした理由を、同ドラマの新井順子プロデューサーは過去のインタビューでこう明かしている。

「どこに主題歌をかけるか考えながら台本を作っていました。ですから米津さんには、主題歌をかけたい箇所に付箋を貼った台本を渡したり」

『Lemon』の制作中に祖父が亡くなる

 ドラマのために書き下ろしされた楽曲には、こんな制作秘話もあったという。

「試写会が終わった後に、米津さんから“曲を直したい”と言われまして。(中略)米津さんに“なんで変えたんですか?”と聞いたら、“なんとなく”って」(新井氏)

 不自然な形で亡くなった遺体の死の謎を解明するというドラマの内容とマッチした理由はほかにも。『Lemon』の制作中に米津の祖父が亡くなってしまったのだ。当時の心境をウェブメディアのインタビューでもこう語っている。

《人の死を扱う曲を作っている時に肉親が亡くなる…これはなかなか思うところがありました。(中略)かなり悩んで、完成までには今まで以上に時間がかかりましたね》

 そして時間をかけてたどり着いたのが、《苦いレモンの匂い》というフレーズ。大切な人を亡くした喪失感を表現しつつも、ただ悲しいだけのバラードで終わらせなかったことで、多くの人々の心をわしづかみにした。

紅白の舞台『大塚国際美術館』は“聖地”に

 この曲で年末の『紅白歌合戦』(NHK)に出場を果たすのだが、中継先に選んだのは、故郷・徳島にある大塚国際美術館。選んだ理由をレコード会社はこう発表している。

「祖父の他界から1年後となるこの12月の大みそかに、自身の故郷、そして祖父の生きていた土地・徳島でこの曲を歌うことの意味を感じることができたため、オファーを受けさせていただきました」

 同館から生中継されると、楽曲とマッチした神秘的な雰囲気が話題に。放送後は全国から多くのファンが“聖地巡礼”で訪れるようになった。美術館に反響を聞いてみると、

「’18年度の入館者数は、前年度に比べ約4万人増の42万人でした。’18年3月21日に開館20周年を迎え、 ゴッホの花瓶の『ひまわり』全7点を一堂に展示したことに加え、紅白歌合戦の効果もあると思っております」

 内向的な性格ゆえ、クラスメートになじめなかった学生時代。憧れだったバンドを組むため、音楽仲間を見つけるために徳島を飛び出した米津だったが、彼の名を広く知らしめた伝説の『紅白』ステージは、故郷の徳島なくしては誕生しなかっただろう。

 日経BP総研上席研究員の品田英雄氏も、“徳島”は大事なキーワードと分析する。

「ボカロ出身だったり、洋楽に影響を受けているにもかかわらず、日本的な要素があるメロディーや歌詞の構成が新しいですよね。それは徳島でインターネットで好きなものだけに触れてきたのも大きいと思います。東京や大阪など、音楽の情報がリアルに入ってくる環境だとノイズも多い。余計な情報に流されずに好きなものを追求したことで、音楽的な幅が広がったのでは」

仲間との出会いで考え方に変化が

 コラボなど音楽活動を通じて知り合った仲間との出会いもあり、性格や考え方にも変化が。過去の音楽誌でも心境の変化をこう語っている。

《感情のコントロールが年々うまくいくようになって、今は外に向いているっていう》

 ’18年から『ゲスの極み乙女。』の川谷絵音などと楽しげに酒を飲んでいる写真がSNSに投稿されるなど、プライベートでも変化が現れた。

「最近は孤独にならず、どれだけ楽しく生きるかという考えに変わったそうです。売れっ子になったことで怪しげな人物が近づいてくる環境になったからこそ、信用できる仲間を大事にしているといいます」(レコード会社関係者)

 さらに興味対象にも変化が。これまで興味のなかったスポーツ(サッカー)にハマり始めてまもなく、ラグビーを題材にしたドラマ『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)主題歌の依頼が届く。その経験が歌詞にも生かされたことを、音楽サイトでこう語っていた。

《生まれてから今まで、自分はいろんな足りないものを補いながら生きてきた実感があるんです》

 類いまれなる才能に加えて興味対象が広がり、信頼できる仲間ができた今、その影響力はますます加速するだろうと前出の品田氏は語る。

「ボカロPだっただけあり、プロデューサー的な冷静な視点もある。今後はいろいろな才能を巻き込み、新しいものを作りあげていくのでは」

 かつて“普通になりたい”と願い、もがき苦しんだひとりの少年は新時代のツールで才能が開花。今後も仲間とともに音楽業界に伝説を作り続けていくことだろう──。

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