電気自動車は雪上で走り、曲がり、止まるのか? 日産で実験

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2020年02月12日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
電気自動車(EV)などのモーターで走るクルマは、発進からの低速トルク(回転力)が大きいため、力強い加速が味わえるところが魅力のひとつだが、その力は雪上でも発揮できるのだろうか。大きすぎる力がクルマの挙動に影響を及ぼし、スリップを引き起こしたりはしないのだろうか。先ごろ開催された日産自動車の雪上試乗会で、電気で走るクルマの性能を試してきた。

○エンジンとモーターの違いとは

モーター駆動は低速トルクが大きいので、アクセル操作が難しいとの声がある。しかしそれは、当たっているようで正しくはない。

モーターはクルマに限らず、家庭用電化製品などさまざまなものに使われている。その特徴は、電気を通じたらすぐに最大の力を発揮できるところにある。それがモーターの機械的な特徴だ。

これに対しエンジンは、段階を踏んで力を生み出す仕組みとなっている。エンジン車の場合、ドライバーがアクセルペダルを踏むと、エンジン内に燃料が供給される。それを空気と混ぜ、ピストンで圧縮したところで着火し、強い燃焼を起こさせ、ようやくピストンを押し下げる力を作り出し、動力を生み出すのである。このため、回転が低いうちは大きな力を出せないのがエンジンの特性だ。しかも、1〜2トンの重さを持つクルマを動かす場合にはさらなる力が必要となるので、変速機(トランスミッション)を使い、大小歯車の組み合わせにより動力を増大させなければならない。

そうしたエンジン車とモーター駆動の違いを、日産自動車が北海道が開催した「日産自動車雪上試乗会」で体感することができた。

○発電しながら走るハイブリッド車「e-POWER」

日産は2010年にEVの「リーフ」を発売し、その前年に「i-MiEV」の法人向け販売を始めた(翌年には個人向け販売も開始した)三菱自動車工業とともに、EVを世界的に量産販売した先駆的な自動車メーカーである。その後、リーフは改良を重ねながら、2017年のフルモデルチェンジによって現在は2代目となっている。

また日産は、リーフの技術を応用し、2016年に「e-POWER」(イーパワー)と名付けたハイブリッド車(HV)を発売した。同技術は現在、コンパクトカーの「ノート」とミニバンの「セレナ」で採用している。

HVと聞いて最初に思い浮かぶのはトヨタ自動車の「プリウス」かもしれない。しかし、同じHVではあるが、e-POWERはトヨタと方式が異なる。e-POWER搭載車はエンジンを搭載しているが、このエンジンは発電にしか使用しない。全てのシーンで走行はモーターのみによって行う。したがって、走行感覚はまさにEVと同じだ。ただし、EVほど多くのバッテリーを車載せず、エンジンで発電を続けて走るので、EVほど静粛ではない。

それに対し、トヨタのハイブリッド方式は、モーターとエンジンの両方を走行に利用する。どちらかといえば、エンジンを補助するようにモーターが働く方式だといえる。エンジンは、変速機がないとクルマを発進させるだけの力を発揮できないと説明したが、その不足分をモーターで補うわけだ。ただし、トヨタのハイブリッド方式は、モーターだけでの走行も可能なので、区別のため「ストロングハイブリッド」といわれる場合がある。それに対し、モーターがエンジンの補助に徹するHVは「マイルドハイブリッド」と呼ぶ。
○加速の良さはスリップにつながる? 日産車で検証

前置きが長くなったが、ようするに、EVのリーフもe-POWERのノートもモーターのみで走行するので、低速トルクが大きい。その力強さは、タイヤの滑りやすい雪道でどのような影響を及ぼすのか。「日産自動車雪上試乗会」での試運転の様子を報告しよう。

結論からいえば、モーター駆動車は、雪上で乗ってもエンジン車より安定していて、しかも安心して運転できるクルマであった。その理由を説明していく。

まず、いくら低速トルクが大きいとはいっても、アクセルを踏み込むとすぐに、モーターが最大の力を発揮するわけではない。アクセルペダルの踏み込みに合わせて、徐々に力をタイヤに伝える制御が行われているのだ。そこは、エンジン車も同様である。

その上でモーター駆動車は、アクセル操作に応じて電気を流した分だけの力を即座に引き出せる。アクセルのペダル操作に対し、モーターが力を発するまでに遅滞がないのだ。それは、加速でも減速でも同じことである。

一方のエンジン車では、先ほど機構を説明した通り、アクセルペダルの操作から力の発生までに遅れが生じる。アクセルペダルを踏み込んでもすぐに反応を感じられない場合、人は力不足と認識し、ペダルをさらに踏み込んでしまう。いよいよ力が発揮された時にはペダルを踏み過ぎているので、かえって勢いよく飛び出してしまうし、ことに滑りやすい雪道では、タイヤが空転してしまいがちになる。現在では駆動力制御が当たり前になっているので、エンジン車のアクセルペダルを踏み込みすぎても無暗に空転したり、滑ったりはしにくいが、それでも、制御の効果が表れるまでには時間を要するのだ。

モーター走行であれば、ペダルを踏み込んだらすぐに走りだすので、アクセルペダルを踏み過ぎることもなく、モーターが無暗に力を出しすぎない。したがって実に扱いやすく、また思い通りに速度を調整できる。その結果、タイヤは滑り出しにくく、クルマの走行が安定し、安心して運転できるのである。ことに雪道など、滑りやすいだろうとドライバーが心理的に緊張するような場面では、安心感を得られて、肩の力を抜いて楽に運転できる。この点は、安全運転に大きく寄与するはずだ。

EVやe-POWERが雪道で運転しやすく、安心感も高い理由の1つがそこにある。

○雪道でも役立つモーターの「回生」

安全な雪道運転に役立つモーターの特徴はほかにもある。それが、アクセルを戻したときの回生(かいせい)だ。

回生とは、発電する際に発生する抵抗のことだ。実は、モーターと発電機は同じ構造であり、電気を流せばモーターになり、動力を与えれば発電機になる。例えば火力発電所では、火力によって発生させた蒸気でタービンを回して電気を作り出している。

EVやe-POWERが使っているモーターも、クルマが走っている時の勢い(タイヤの回転)を利用すれば、モーターを発電機として機能させて電気を生み出し、バッテリーに充電することができる。その際、モーターは発電機として働くので、磁力によって抵抗が生じ、それがクルマを減速させる役目を果たす。エンジン車でいう「エンジンブレーキ」のような効果だ。

EVやe-POWERはエンジン車のような変速機を持たないので、アクセルをゆっくり戻せば軽く回生が働き、全閉すれば強く回生が働く。それに応じ、生み出す電気の量も変動する。

公道に雪が積もった場合、路面にはさまざまな変化が生じる。テストコースのような圧雪路となっていることは稀で、新雪が積もっていたり、逆に溶け出してシャーベット状になっていたり、場合によっては融けた雪が凍ってアイスバーンになっていたりもする。走るにつれ次々に路面状況が変化し、速度調整をしなければならない時、そのクルマがモーター駆動であれば、回生を利用して減速を瞬時に行うことができる。

エンジン車でもエンジンブレーキを利用することはできる。だが、ある程度の速度が出ていると、エンジン車は燃費をよくするため上のギアを選択しているので、その際には、アクセルペダルを戻してもエンジンブレーキはそれほど強く働かない。したがって、フットブレーキも併用することになる。

ここが、モーターとエンジンの大きな違いだ。

雪道のような滑りやすい路面で不用意にブレーキを踏むと、ハンドル操作が利かなくなる。したがって、一般的に、雪道で万が一にもタイヤが滑りだしたら、まずはエンジンブレーキを働かせ、なんとか速度を落とすことが求められる。「ブレーキを安易に踏むな」とさえいわれるほどだ。そんな時、モーター駆動であれば、減速(回生)の強さをアクセルペダルの戻し加減で調整できるので、運転が楽になる。

実際、今回の「日産自動車雪上試乗会」では一般公道での試乗も行ったが、路面状況が常に変化する中で、ほとんどブレーキを使わずに運転し続けることができた。それによって、タイヤが滑りにくくなるだけでなく、ペダルの踏み間違いや踏み損ないによる運転ミスも予防できる。

舗装路でも同様なのだが、雪道ではいっそう、モーター走行の優位性を実感できたのであった。

○著者情報:御堀直嗣(ミホリ・ナオツグ)
1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。(御堀直嗣)
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