第81回 『スケアストーリーズ 怖い本』、ギレルモ・デル・トロが映画化した理由とは?

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2020年02月14日 12:12  BOOK STAND

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『スケアストーリーズ 怖い本』 2月28日(金)公開
小学生の頃、学級文庫に必ずといっていいほど怖い本の類がありましたよね?
要は怪談話とか本当にあったとされるオカルトな事件、都市伝説を集めたような本。髪の毛が伸びるお人形さんや口裂け女みたいなお話をぞくぞくしながらクラスで回し読みした覚えがあります。漫画雑誌にも必ずホラー物(怪奇漫画といっていました)がありました。
子どもは怖い話が好き、というのは万国共通のようで、この映画は1980年代にアメリカの子どもたちの間で流行った"Scary Stories to Tell in the Dark"という本をベースにしているそうです。アメリカ版「学校の怪談」みたいな本だと思っていただければ。

この人気本を、半魚人映画「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞に輝いたギレルモ・デル・トロのプロデュースのもと映画化したのが本作です。この本に収録されているエピソードは確かに面白いんですが、下水道にいる巨大ワニとか、車のバックシートに殺人鬼がいたとか、どっかで聞いたことのあるような話が多い(まあ都市伝説、怪談というのはそういうものです)。

なぜデル・トロがわざわざ映画にしようと思ったのか? 実はデル・トロは、この本で紹介されているお話よりも、むしろそのお話毎につけられた挿絵に心をうばわれたらしい。
スティーブン・ガンメルというイラストレーターが手掛けていたようですが、試しに「Stephen Gammell」で画像検索してみてください。世にもおぞましく、そして魅入ってしまうホラー・ワールドが広がっているハズ。
デル・トロはここに描かれたモンスターたちを映像化したかったのですね。

映画は、この"Scary Stories to Tell in the Dark"自体が呪いの本という設定。ハロウィンの夜のある事件がきっかけでこの本に関わることになった6人のティーンが怪異な事件にまきこまれていくという展開。一人一人がこの本に書かれていくスケアリーストーリーズ(怖い話)の主人公に仕立てられていきます。"怖い本"自体を主役にするという凝った構成で、1本の筋の通った話であると同時にオムニバスとして楽しめるのです。

そしてあの挿絵を見事に再現したモンスターたちが登場します。
中でもインパクト大なのはthe Pale Ladyと呼ばれる、白い女のクリチャー。オバQと貞子を足したような、Jホラーに出てきそうな怪物ですが、これもスティーブン・ガンメルのデザインがベース。他のモンスターが文字通り襲いかかってくるのに対し、このthe Pale Ladyはじっくり迫ってきます。

個人的に最もぞぞぞ・・!としたのは3番目の被害者のエピソード。多分観た人の誰もが「これだけはかんべんして!」と思うにちがいない(笑)まさに身の毛がよだつことが。
デル・トロが得意とするジャンルの映画ではありますが、もう一つ彼らしい要素があります。それは本作の時代設定が1968年、ベトナム戦争の頃のアメリカだということ。考えてみればデル・トロは監督作である『パンズ・ラビリンス』『デビルズ・バックボーン』がスペイン内戦時、『シェイプ・オブ・ウォーター』が米ソ冷戦が真っただ中の1962年(キューバ危機が起こる年)を舞台にしています。
決して平和な日常の中に怪しい影が現れるのではなく、戦争の影が人々の心を覆う暗い時代に不思議な事件が起こる、のです。本作でも若者たちに迫るのはモンスターだけではありません。ベトナム戦争も彼らの青春に忍び寄ってくるのです。
こういうアクセントが、本作をちょっと深みのある物語に仕立てています。

児童書が原作なだけに目をそむけたくなるほどの残酷描写はありませんが、小さいころ怖いと思ったお話は、大人になっても怖いし、子ども時代に好きだったものは、いまも好き。そういう気持ちとポップコーンをお供に楽しめる愛すべきホラー・エンタテインメントの登場です。

(文/杉山すぴ豊)

『スケアストーリーズ 怖い本』
2月28日(金)公開
公式サイト:https://scarystories.jp/




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