日曜劇場、ミステリージャンルで変化? 『テセウスの船』原作との比較で謎を解く

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2020年02月16日 06:01  リアルサウンド

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『テセウスの船』(c)TBS

 日曜劇場で放送されている『テセウスの船』(TBS系日曜21時〜)は、1989年に21人を青酸カリで殺害した父親を持つ息子が、過去に戻って事件を阻止しようとするミステリードラマだ。


 妻の由紀(上野樹里)の出産を間近に控えた田村心(竹内涼真)は、殺人事件を起こした警察官・佐野文吾(鈴木亮平)の息子であることを隠してひっそりと暮らしていた。そんな矢先、由紀は出産と引き換えに妊娠中毒症で命を落とす。


 死の直前に由紀から「真実から逃げないで」「この子といっしょに未来に向かって」「生きて」と言われた心は、事件と向き合うため、かつて事件が起きた宮城県にある音臼村跡地へと向かう。しかし突然、謎の霧に包まれ、なんと1989年にタイムスリップしてしまう。事件を起こす前の父親・佐野文吾と再会した心は、正体を隠して佐野の家に居候することに。由紀が残した事件のスクラップを元に殺人事件を阻止しようとする心。しかし、心が干渉したことで歴史は予想外の方向に動き出してしまう。


【写真】主演の竹内涼真


 原作は『週刊モーニング』(講談社)で連載されていた東元俊哉の同名漫画。タイトルの“テセウスの船”とはパラドックスの一つ。


 クレタ島から帰還した英雄・テセウスの乗ってきた船を後世に残すために修復作業が行われた。その際に、朽ちた木材を新しい部品に置き換え、当初の部品がなくなったとしたら、その船は同じ船だと言えるのだろうか? そして、これが人間だったらどうだろう? という問いかけから物語は始まるのだが、これは心がタイムスリップをして歴史を変えようとする行為や、逆に父親の正体を隠してひっそりと暮せば、過去の苦しみから逃れられるのだろうか? という問いにつながっている。


 同時にこのパラドックスは、原作漫画とドラマ版の対比にも用いることができる。


 昨年ヒットした『あなたの番です』(日本テレビ系)で起きた考察ブームを取り入れることで、犯人探しが盛り上がっている本作だが、漫画を読んでいた読者が見ても面白いのは、2020年(令和2年)に作ることの意味が、考え抜かれていることだ。


 音臼村の事件を見て、昭和の終わり(1988年)に事件が起こり、平成の始まり(1989年)に犯人が逮捕された連続幼女殺人事件を思い出す人も多いのではないかと思う。当時報道されたビデオや漫画が積まれた犯人の部屋のイメージからオタクの犯罪として広く知られるようになったこの事件は、インターネットが普及しゲームやアニメといったオタクカルチャーが日本を席巻する「平成という時代」をもっとも象徴する事件だった。


 他にも、神戸で14歳の少年が起こした連続殺人事件や和歌山で主婦が起こした毒物カレー事件のイメージが散りばめられており、この事件を未解決事件として描くことで「停滞した平成」という時代を象徴させていた。


 漫画のはじまりは連載が開始された2017年という平成の終わり(当時は平成がいつ終わるのかわからなかった)だったが、ドラマ版では令和から平成を振り返るという構成になっており、それが「終わらない平成」というモチーフを、より際立っている。


 他にも、舞台が音臼村の場所が北海道から宮城へと変更されていたり、犯人視点の描写が、テープに独白を録音する場面から、ワープロに殺人の記録を打ち込む場面へ変更されていたりといった、細かい変更場面も多数ある。


 前者に関してはロケの都合による改変かもしれないが、心と佐野文吾が温泉でドラマ『北の国から』(フジテレビ系)について話すことで意気投合する場面がなくなっていたので、そこから逆算して『北の国から』の舞台である北海道(富良野)から宮城に変更したのかもしれない。


 二人が『北の国から』の黒板五郎(田中邦衛)を理想の父親として語るくだりは、本作のテーマとも密接につながっていた重要な場面だが、放送局がTBSであるため、権利上の都合で泣く泣くカットしたのだろう。


 一方、テープからワープロへの変更は、音声が表現できない漫画と声が聞こえてしまうドラマの違いを考えると上手い改変である。同時にパソコンではなくワープロを用いることで、平成元年という時代を上手く表現できている。


 ストーリー面でも改変がいくつかあるのだが、こうした漫画との違い自体が『テセウスの船』における「過去に干渉した結果起きた現代の変化」に見えてくる。つまり、このドラマ自体が心の何回目かのタイムスリップを描いているのではないかと邪推したくなるのが、本作の隠れた面白さである。


 時間を題材にしたミステリーは、2000年代以降多数作られており、同人ゲーム(サウンドノベル)の竜騎士07の『ひぐらしのなく頃に』(07th Expansion)を筆頭に枚挙に暇がない。今、振り返ると同じ時間を何度も繰り返す停滞感に、平成という時代の空気が重ね合わされていたのかもしれない。


 この停滞は平成が終わった令和日本でも続くのだろうか? ドラマ版は原作漫画とは違う犯人になるらしいが、令和という時代ならではの結末を描いてほしい。


(成馬零一)


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