市村正親「僕は彼女のファンですから」妻・篠原涼子に出演をすすめた作品

0

2020年02月17日 11:00  週刊女性PRIME

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週刊女性PRIME

市村正親 撮影/伊藤和幸

 年齢71歳、役者生活47年、出演劇作品100作以上。舞台をはじめ、映画やドラマなどでも活躍中の市村正親さんが自伝的演劇エッセイ『役者ほど素敵な商売はない』を上梓した。

『オペラ座の怪人』や『ミス・サイゴン』をはじめとする名作舞台のオーディション秘話や役作りの過程、浅利慶太、蜷川幸雄、堂本光一といった演劇人との逸話や亡き両親との思い出などが記されている本書は、これまでの人生の集大成ともいえる一冊となった。

「僕は70年間生きてきて、そのうちの47年間、芝居をやってきました。これまでいろいろな出来事があったけれど、僕がどんな経験をして今にいたっているのか。後輩たちに伝えられることは伝えていきたいと思ったんです」

がんがきっかけで役に出会った

 本書には、波瀾万丈ともいえる役者人生が綴られている。だが、市村さんは苦労を苦労と思ったことがないという。

「僕にとっては、どの出来事も全部、楽しくて意味のあることなんです。例えば、2014年には胃がんが見つかり、『ミス・サイゴン』を降板しました。胃がんは大変な病気です。

 でも、演劇の神様が『市村を次のステージに進ませるためには、なにか試練を与えたほうがいいのではないか』と考えて胃がんという病気をくれたのかもしれない。今になって、そんなふうに思うんです」

 実際、胃がんを患ったことがきっかけで、市村さんは大きな役と出会うことができた。

「『胃がんが見つかって、明日、手術をするんです』って、蜷川幸雄さんに電話で報告をしたことがあるんです。そうしたら、退院後に『NINAGAWA・マクベス』のお話をいただいた。

『NINAGAWA・マクベス』は、香港、イギリスのロンドンとプリマス、シンガポール、さらにニューヨークでも公演しています。僕ひとりの力ではとてもたどり着けない場所へ、しかも蜷川作品で行くことができたことは、役者として本当に幸せなことだと思っています」

 本書には、市村さんが役にアプローチするまでの具体的なエピソードも収められている。例えば、画家ゴッホの激しい人生を描いた『炎の人』でゴッホを演じる前には、ゴッホの絵を何十枚も模写したという。

ゴッホが描いた《ひまわり》の絵を見ながら、『この色を出すにはどうすればいいんだろう』ってあれこれと考えたりするでしょう。それ自体が役者の稽古と同じなんです。

 あと、ゴッホは日本の浮世絵に影響を受けて作品を描いているから、浮世絵の模写もしました。『ゴッホもこうやって浮世絵を見ながら描いていたんだな』と思っているうちにゴッホが身近に迫ってきた。おかげで、『今、俺はゴッホだ』と実感を持つことができました」

役者にとって“加齢”はハンデではない

 効率化や要領のよさが注目されつつある昨今、市村さんは自身の仕事の神髄を次のように語っている。

「僕が1本の木だとしたら、そこに葉っぱとか実とか虫とか、いろいろなものを身につけたいんですよね。それらを本番をやりながらどんどん離していくと、身につけたもののエキスだけが残ってすっきりとした役になるんです。

 僕はまた、役者はのろまな亀のほうがいいんじゃないかなって思う。うさぎのようにピョンピョン進んでしまうと、大事なことを見落としてしまうこともありますから」

 マイナス面ばかりに目がいきがちの加齢も、市村さんのとらえ方は世間一般とは違う。

「『生きる』の渡辺勘治役にしても、来年、再来年に出演するミュージカルにしても、今の僕でなくてはできないようなキャラクターなのでね。僕は、役者にとって年齢はハンデではなく武器だと思っているんです」

 本書で紹介されているさまざまな演劇人との裏話の中には、妻・篠原涼子さんとのエピソードも盛り込まれている。

「僕は彼女のファンですから。彼女が2018年に『アンナ・クリスティ』に出演したのは、僕が舞台に出てほしいって頼んだからなんです。

 あと、去年公開された映画『人魚の眠る家』も、僕が後押しをしました。もともと小説を読んでいたこともあり、あの作品を演じる彼女を見たいと思ったんです」

 インタビューでは、家族との時間にも話が及んだ。

「うちは夫婦と息子2人の4人家族です。夫婦の年が離れていることもあって、僕は長男みたいなものだなぁと思っていたんですね。でも、妻には『あなたは末っ子』って言われてしまいました(笑)」

 また、市村さんの心のなかには他界した両親が永遠に生きているという。

「『青い鳥』という作品を書いたモーリス・メーテルリンクは、『生きている人間が思い出せば、亡くなった人と会える』といった趣旨の言葉を残していますが、本当にそのとおりだと思います。『これは忘れちゃいけない』という両親の言葉や行動は今でも昨日のことのように覚えていますから」

 最後に本書を次のように楽しんでもらいたいと語る。

「ゴシップではない本を出しました(笑)。僕は役者人生が長いですから、きっと相当数の方が僕の芝居をご覧になっていると思います。

 そうした方々が市村のことを思い出し、『そういえば、あのころこの芝居を見たな』、『あの芝居の裏側ではこんなことがあったんだ』と、当時を懐かしく振り返りながら読んでもらえたらうれしいですね」

ライターは見た!著者の素顔
 市村さんのお宅には、家族以外の生き物がたくさんいるのだという。「上の子がウーパールーパー、モルモット、アマゾンのカエル、セキセイインコを飼っていまして、ミニ動物園です(笑)。少し前には息子が孵化器(ふかき)とうずらの有精卵を買ってきまして、結局、僕が孵化させました。生命の誕生を見せることができたのはよかったかな。今、うずらは2羽いるんですが、けっこう大きくなりました。そろそろフランス料理店へ持っていこうかなぁ(笑)」

取材・文/熊谷あづさ

    ニュース設定