【CL展望】“カウンセリング”を経て身につけた野性味|アタランタ

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2020年02月19日 21:22  サッカーキング

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[写真]=Getty Images
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「バレンシアとの対戦は近い。我々にはCLレベルのインテンシティを持つ試合が必要だ」。1月下旬、トリノを相手に敵地で7−0の大勝を収めたあと、アタランタの指揮官ジャン・ピエロ・ガスペリーニは兜の緒を締め直した。柔軟な戦術運用によって攻撃に特化したアタランタは、今シーズンもセリエAで最多得点を記録しているが、指揮官には到底物足りない。昨年度のイタリア最優秀監督表彰を受けたばかりの名将は、セリエAと欧州カップ戦の試合を全くの別物として考えているからだ。

 今シーズン、クラブ史上初めて最高峰コンペティションであるチャンピオンズリーグに出場しているアタランタは、開幕からつまずいた。グループステージ序盤3試合の勝ち点はゼロ。プレミアリーグ王者のマンチェスター・Cは別格だったにせよ、他の参戦チームの技術とスピード、何よりゲームへのインテンシティに驚嘆させられた。イタリア随一の戦術家ガスペリーニに鍛え上げられたアタランタも決して見劣りするチームではないが、大会に臨む心構えとそれを維持し続けるメンタルのエネルギーが十分だったかというと疑問は残る。

 奇跡的な逆転突破を経て、ガスペリーニは“心理カウンセラー”となった。バレンシアとの対戦を見据え、選手たちに「我々のメンタルを変えよう」と訴えたのだ。国内であっても決して気を緩めず、試合終了までゴールを狙い続けることを習慣としなければ、初めて踏み込む決勝トーナメントの舞台で実力を発揮できるはずがない。

 シーズン通算100得点を達成し、セリエA3位という歴史的偉業を成し遂げた昨シーズンのアタランタは確かに強いチームだったが、どこか精神的な脆さも内包していた。プロヴィンチャーレ(地方クラブ)特有のお人好し的な純朴さと気の緩みからありえない失点を犯し、勝ち点を逃した。そして、一つの黒星から立ち直るのに時間がかかった。

 しかし、CLのレベルを知ったアタランタは、シーズン中ながらチームとしてさらに一段覚醒した。同じ勝ちゲームでも「3−0で良し」とはせず4点目、5点目を貪欲に狙う。容赦なく相手を追い詰める野性味が加わった。やられても間を置かず怒涛の逆襲に転じる。

 昨年12月中旬にボローニャに負けたアタランタは、次に対戦したミランとパルマからそれぞれ5点を強奪。1月に最下位SPALからまさかの黒星を喫したときは、翌週に7ゴールを奪ってトリノを血まつりにした。

 現在のアタランタの勢いには、敵将もうならざるをえない。1月中旬に対戦し、ボールポゼッションやシュート数で圧倒されたインテルの闘将アントニオ・コンテは脱帽した。「アタランタのようなサッカーがしたい。インテンシティとフィジカルを落とさず、かつクオリティを保ったまま“95分間”戦える彼らのように」

 攻撃の軸は、1月に5戦7発と絶好調のヨシップ・イリチッチだ。もう一人の主軸アレハンドロ・ゴメスについては「ピッチ内で言葉を交わす必要がない。相手がどこにいるか見なくても頭に入っている」と言う。気紛れな性格だが、ペナルティエリア内の仕事師は最高峰の舞台の魅力を知ってしまった。「もうヨーロッパリーグじゃ満足できない。俺はまだまだCLでプレーしたいんだ」

 アタランタの胸すく戦いぶりを見ていると、1990年代末期の革命的チーム、ウディネーゼを思い出さずにいられない。新進指導者アルベルト・ザッケローニから挑戦的な戦術3−4−3と、攻守の動きを徹底的にたたき込まれた当時の選手たちは「目をつむっていてもプレーできた。相手の動きが手に取るように分かったし、どんな敵にも勝てると思えた」と異口同音に語っている。彼らは初めて出場した97−98シーズンのUEFAカップで、強豪アヤックスを2−1で撃破した。

 アタランタの準備はできている。彼らがCLのベスト8に行けないなどと、どうして言えようか。

文=弓削高志

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