真木よう子「女性なら誰でも共感できると思う」直木賞受賞作映像化に自信『ファーストラヴ』

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2020年02月20日 05:12  TVerプラス

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島本理生の直木賞受賞作をドラマ化した『ファーストラヴ』(NHKBSプレミアム)が、2月22日(土)21時から放送される。本作で、父親殺害の容疑者の女子大生・聖山環菜(上白石萌歌)のルポを書くために、彼女と向き合うことになった公認心理師・真壁由紀を演じる女優の真木よう子さん。

劇中では、父親殺害の容疑をかけられた環菜が発した「動機は見つけてください」という言葉の真意を探るべく、自身の過去のトラウマと向き合いつつも環菜の心に寄り添う繊細な演技を披露した。罪を犯してしまった女性の動機を探るというミステリーでありながら、親子愛や男女の恋愛など、ヒューマンストーリーも強く内在する本作。そんな意欲作に真摯に向き合った真木さんに話をお聞きしました。

――ご自身が演じた真壁由紀という役に臨む際「撮影したら答えが出る」と話されていましたが、改めて撮影して感じた由紀の魅力は?

由紀は、心理師ですが決して強い人間ではない。環菜と接していくなかで、自身の過去とも向き合いながら、由紀じゃなければ気づけなかった視点で相手と向き合うところは人間らしい人物だと感じました。あとは人を見つめる眼差し。監督からも大切にしてほしいと言われていたのですが、作品のなかでいろいろな由紀の眼差しに彼女の人間性が出ていると思いますし、注目してほしい点です。

――確かに劇中で由紀が見せる眼差しには強い思いが感じられます。

「生まれてから人が最初に受けるべき愛情を受けられなかった」という環菜さんへ向けたセリフがあります。もちろん、由紀が代わりにその愛情を与えることはできませんが、温かく環菜さんの気持ちを受け止めているのだと、理解してもらうという意味では、彼女に向ける眼差しというのはとても大切だと思いました。その意味で、裁判のシーンで環菜さんを見つめる視線はすごく意識していました。

――会見では「女性なら誰しも共感できる作品」と話していましたが、その真意は?

子供のときの母親や、幼いころの親というのは決してパーフェクトな存在ではなかった。虐待まではいかなくても、娘から母親に対して複雑な感情を抱くことって誰しもあるものだと思うんです。いま自分が母親になって娘ができたことで、そのときの気持ちは、たいしたことではないと思えるのですが、そういった母娘の関係というのが、すごく作品の根幹にあると思うので、女性なら自身の経験と照らし合わせて感じることが多いのかなと思ったんです。

――真木さん自身も成長するにつれて、親に対する感じ方は変わっていきましたか?

大きく変わりました。私は4人兄弟で、2番目なのですが、兄と私は割と早い段階で大人の目線を持っていた気がします。それでも親に対して負の感情を持つことはありましたが、一番変わったのは、自分で職を持って自立したときに、親への気持ちは感謝しかなくなりました。さらに自分が子供を産んで母親になってからは、自分の母親への気持ちがより理解できるようになりました。

――やはり子供のころは、親の心子知らずではないですが、理解するのは難しいですよね。

私も娘のことは愛しているし、日々の繰り返しの生活のなかで、傷つけることはしていないつもりですが、ふと娘が寝て、自分も寝るときに「きちんとこの子を愛してあげられているか」と考えたりもします。でもそんな思いは子供は分かりませんからね(笑)。自分が大人になってから、親の思いというのは分かるものなのかもしれませんね。

――公認心理師という役柄はいかがでしたか?

役に入る前に調べたのですが、心理師のもとにはいろいろな患者さんが来る。患者さんが言葉にしたことが、すべてそのままの意味ではなく、ありとあらゆる言動にSOSが潜んでいるのだろうなと感じました。このドラマでも環菜さんが話していることがすべてではなく、彼女の挙動やちょっとした仕草に真実が隠されていることがある。そういった部分を、丁寧に汲み取っていく仕事なのだろうなと思いました。

――こういう役を演じると、プライベートでのコミュニケーション方法も変化しそうですか?

心理師は仕事なので、ここまで相手に対して観察しますが、プライベートでは、細やかな動作や行動から、相手の本当の思いを汲み取るなんてことは、愛しているごく身近な人たちぐらいしかできないですよね(笑)。

――かなりヘビーな内容のドラマですが、なぜこの世界に没入してみたいと思ったのですか?

役者心としか言えません。いま37歳ですが、この年になると、なかなか感情的になって取り乱したりするようなことってないんですよね。どちらかというと、抗うのではなく諦めに入ってしまうことも多いですし、落ち込んでも自分で立ち直る方法を見つけてしまう。こういう作品に入ることで、思い切り自分の感情を吐き出せるというか……。役者としても、とてもやりがいのあるキャラクターだなと感じましたし、こういう作品はすごくやっていて楽しいし好きです。

――メッセージ性の強い作品を好むようになったのは、以前からですか? それとも年齢を重ねるごとにより強くなっていきましたか?

もともと重いテーマやヒューマンドラマが好きだったということはあります。ただそういう作品は、エンターテインメント性の強い作品よりは、広く見ていただくことが難しいテーマでもありますよね。でも、作品を見た数人でもいいので、なにか考えさせられたり、自身の心に響いてもらえたりしたら、それは役者冥利に尽きるなという思いがあるので、深い作品は好きです。

――劇中は、愛や罪について非常に深く考えさせられるシーンばかりでしたが、真木さんにとって強く印象に残っている場面は?

父親殺害容疑の女子大生の話ですが、そこには複雑に家族が絡んできます。詳細はネタバレになるので言えませんが、上白石萌歌さん演じる環菜と、黒木瞳さん扮する母親・昭菜との関係性、さらに由紀と昭菜が対峙するシーンで由紀がかけた言葉は、すごく印象に残っています。私も母親なので、母娘のシーンは、いろいろな感情が渦巻いてしまいました。本当に上白石さんも黒木さんも素晴らしいので、ぜひ注目して欲しいです。
(取材・文・撮影:磯部正和)
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