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米軍の教育でもAIが活躍 「アダプティブ・ラーニング」の可能性

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2020年02月20日 07:03  ITmedia NEWS

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写真(米空軍の公式サイトより)
(米空軍の公式サイトより)

 本連載では、AIの具体的な活用法について、業界・分野別に整理を行っている。今回は、教育業界の取り組みを見てみよう。



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 教育は、最もイノベーションが遅れている分野の一つと評されることがある。1人の教師が多数の生徒に向かって講義をする形式は、江戸時代にあった「寺子屋」も含めると、日本で300年以上続くスタイルといえる。



 AIはこういった状況にどのような変化をもたらすのか。(1)学習者の支援、(2)教育者の支援、(3)周辺環境の改善――という3つの視点から整理してみたい。



●米軍も採用する「アダプティブ・ラーニング」の可能性



 まずは、学習者の支援から見ていこう。



 従来の講義形式の教育は、教師にとっては効率的だが、生徒一人一人にとっては「自分に合った速度で学習を進められない」というデメリットがある。マンツーマンの指導であれば生徒の理解度に合わせて教材を変えられるが、そうすると教師の負担が増えてしまう。生徒数に応じて、必要な人数の教師を常に集められるとも限らないだろう。



 デジタル技術を使えば、データを分析することで生徒一人一人の進捗(しんちょく)を把握し、次に取り組むべき最適な教材を見極めることが可能になる。これはルールベースでもある程度実現できるため、AIブーム以前からさまざまなデジタル教材が実用化されており、「アダプティブ・ラーニング」(Adaptive Learning、適応学習)という名前で普及が始まっている。



 このアダプティブ・ラーニングの精度をさらに高めるためにAIが使われている。AIによって、単純なルールベースではなく、より深く生徒の学習パターンを把握して、きめ細かなアドバイスができるようになる。



 例えば米サンフランシスコに拠点を置くCeregoは、機械学習と認知科学を応用したアダプティブ・ラーニングのプラットフォームを提供しており、多くの企業や組織が従業員の教育のために導入している。その中には米陸軍も含まれており、トレーニング時間を40%削減することに成功したという。



 2019年12月には、米空軍が同社のプラットフォームを基本軍事訓練(BMT)に活用するテストを実施すると発表。訓練生には米Microsoftのタブレット端末「Surface」が1人1台配布されることになった。



 AIは学習状況の分析だけでなく、その分析に役立つ情報を収集することにも活用される。



 これまでは、人間の教師が個々の学習者の進捗状況をチェックしていた。しかし、ある問題に正解したという情報だけでは、それをたやすく解いたのか、悩みながら解いたのか、あるいは学習を楽しんでいるかどうかまでは読み取れない。回答時間がその近似値となる場合もあるが、より正確で詳しい情報を把握するには、誰かが学習者のすぐそばにいて彼らの状況を見るしかなかった。



 これに対して、最近では顔認識や感情分析といった技術を使って学習者の状況を把握するシステムが登場している。例えば学習にタブレットやスマートフォンを利用する場合、本体内蔵のインカメラを使って学習者の顔を撮影する方法がある。その画像を分析して、彼らが集中しているかどうかや、特定の問題に対してどのような感情を抱いているかを把握し、アダプティブ・ラーニング実現の一助とするわけである。



 次の映像はスペインのEmotion Research Labが公開しているものだ。ここでは「チョコレートを食べて点数を付ける」という行動の中で発生する感情を、リアルタイムで把握している。言葉で表現する内容と、表情として現れる感情が一致するとは限らないのが分かる。こうしたAIによる心境の把握は、芸術や実技など、これまでデジタル化が難しかった学習の分野にもアダプティブ・ラーニングが浸透することを支援するだろう。



 米国のClasscraftは、ゲーミフィケーションとAIを活用して、RPG型の学習システムを提供している。他の生徒と協力する、前向きに学習に取り組むといった姿勢がAIで把握され、それに基づいてサービス内で「経験値」を得られる仕組みだ。



 今後の学習サービスでは、単なる学習の進捗だけでなく、学習者の心境や、他の学習者とどのような関係を築いているかなども、分析や管理の対象になっていくと考えられる。



●AIが「論文のコピペ」をチェック 採点や評価も自動化される?



 学校や塾などの教育現場にとっては、講義形式の教育は効率性というメリットがある。一方で、誰かに何かを教える行為は簡単ではなく、義務教育レベルの現場では、学習者に対するさまざまなケアが必要になってくる。実際に多くの教育現場では、教師が多様な業務に忙殺されており、とてもマンツーマンに近い対応は行えないというのが実情だ。



 コンサルティング会社のマッキンゼーは19年1月、「How artificial intelligence will impact K-12 teachers」(人工知能はK-12教師にどのような影響を与えるか)と題するレポートを発表した。K-12とは、米国で幼稚園から高校までの教育課程を示す表現で、レポートでは大学より前の教育にAIがどう活用されるかを解説している。



 このレポートではまず、米国、英国、カナダ、シンガポールの4カ国で、K-12の教師たちが教育現場でどのように時間を使っているか分析している。それによれば、生徒とのやり取りに使われる時間は全体の49%だった。教育におけるテクノロジー活用が進んでいると考えられるこれらの先進国でも、およそ半分の時間が授業の準備や採点、事務作業などに費やされていた。



 さらにそのレポートは、教師が抱えるタスクの20〜40%(採点や授業計画の立案など)を、テクノロジーに置き換えられるのではないかと推定している。人間の教師は空いた時間で、生徒一人一人のケアをするなど、彼らにしかできない作業に集中できるようになるだろうという主張だ。



 例えば前述の米空軍の例では、BMTを担当する教官の負担が軽減されるという点も、期待されるメリットの一つに挙げられている。タブレットを通じて行われた学習やテストは即座に採点され、教官は一切の手間をかけることなく、リアルタイムで訓練生の学習状況を把握できる。



 もちろん従来でも、選択式のテストなどであれば、デジタル技術によって短時間で採点できた。昨今はAIを使ってより複雑な問題も処理できるようになってきている。例えば自然言語処理の技術を応用すれば、文章問題の採点も可能になる。



 面白いところでは、こうしたAIの判断力を生かして、生徒による剽窃(ひょうせつ)を把握するソフトウェアも登場している。例えばキプロス共和国の首都ニコシアに拠点を置くUnicheckは、自然言語処理とスタイロメトリー(文章のスタイルを統計的に分析して筆者を特定する手法)を活用して、論文内に「コピペ」がないかどうかをチェックする製品を提供している。剽窃は場合によっては、教師だけでなく教育機関全体にも影響を与えかねない行為であり、それを簡単に検知してくれるUnicheckのような製品は、いま一定の市場を形成しつつある。



 また「採点」や「評価」におけるAI活用の有効性を示す例として、教育分野ではないが、こんな事例も紹介しておきたい。それはAIによる体操競技の自動採点システムだ。



 これは富士通が開発している技術で、レーザーセンサーで選手の動きを三次元で把握し、得られたデータをAIで解析して、演技内容を数値化するというもの。人間の審査員が算出された数値を参考にし、最終的な採点を行う――という活用方法を想定している。



 なぜAIの活用が検討されているのか。理由の一つとして挙げられるのが、採点の複雑化と高度化だ。各国のトップ選手が競い合っているため、技の内容は複雑になる傾向があり、公式の採点規則資料はいまや200ページ以上に達している。機械であればそれを正確に把握して、さらにルールも頭に入れた上で判断を下してくれる。



 もう一つの理由が「公平性」だ。審判員は、公平中立な目でジャッジすることが求められる。AIは決められた範囲内であれば、一定のルールに基づいた処理をしてくれる。公平性は、他の採点や評価の領域でも価値を持つものだろう。単に教育者の負担を軽減するというだけでなく、AIの方が優れた判断をできるという理由からも、教育分野への普及が進むと考えられる。



●進路決定やいじめの予測も 学校で役立つAIサービス



 実際の教育現場では、教材の準備、生徒の出欠状況や状態の把握、彼らの学習目標や進路希望の把握など、数多くの対応を教師は求められる。そうした周辺領域でもAIの活用が始まっている。



 例えば前述のアダプティブ・ラーニングは、教材の改善にも役立てられている。最近では、学習者にとって適切な教材を選ぶだけでなく、教材ごとの学習効果を測定する際にもデータ分析が用いられているのだ。



 また顔認識技術で生徒の様子を把握できれば、そのまま出席確認ツールに転用できるだろう。事前に生徒の顔写真をデータベース化しておく必要があるが、これなら構内の防犯カメラを使って比較的簡単に出席確認を自動化できる。



 こちらはインドのAnnex Solutionsが提供している、従業員の勤怠確認サービスのデモだが、社員のデータベースに基づいてリアルタイムで映像内の人物を特定していることが分かる。



 同様のシステムは、さまざまな企業が提供している。スマートフォンでも認識できるようにしたり、音声で個人を特定したりと、多様な研究開発が進められている状況だ。



 進路決定の支援も多くの事例がある。例えばマイナビと三菱総合研究所は共同で、人材領域に特化したAI「HaRi」を開発し、同技術を活用した「納得できる学校研究」というサービスを提供している。



 これは高校生を対象としたサービスで、ユーザーが自分に関する情報(性別や学年といった基本的な情報に加えて、進学後に学びたいこと、好きなこと、興味があることなど)を入力すると、それに基づいて推奨度の高い大学の上位10校を表示してくれるというもの。この結果は各大学の情報に加えて、マイナビが独自に持つ進学実績情報や、マイナビユーザーの行動データに基づいて導き出されるという。



 関西学院大学も日本アイ・ビー・エムとAIに関する共同事業を実施しており、18年に就活生からの質問に答えるチャットbotを発表した。この「KGキャリアChatbot」では、同学のキャリアセンターに関する質問から、業界研究や筆記試験対策・面接対策・自己分析の方法、インターンシップに関する情報などさまざまなテーマに対応。これにより進路担当職員の負担が減らせただけでなく、対面での相談をしづらいという学生にもメリットがあったという。



 もう一つ、興味深い取り組みを紹介しておこう。それは、いじめの深刻化を予測するAIの開発だ。



 これは滋賀県の大津市教育委員会が行っている実証実験で、過去に報告されたいじめ事案に関するデータ約9000件を分析し、そこにあるパターンを把握しようというもの。19年10月に中間報告会が開かれ、17〜18年度に発生した事案5212件を分析した結果、「初期段階で加害者に対する指導が行われない」「SNSに悪口が書き込まれている」などの特徴を持ついじめは、深刻化しやすい傾向が見られたという。一定の精度でこうした予測が行われるようになれば、限られたマンパワーでも的確な対応が行えるようになるだろう。



 もちろんいじめ対策は、学習という意味での教育とは異なる領域の問題だ。しかし、義務教育レベルでは、生徒の生活面までケアすることが教育現場の仕事となっているため、こうした領域にもテクノロジーを活用することは大きな意味があるだろう。生徒の性格や生活面を深掘りし、詳しい状況を把握・予測しておくことは、生徒一人一人に合わせた指導を行う上でも役に立つと考えられる。



●プライバシーやバイアスの問題も



 こうした教育のイノベーションが期待される一方で、教育分野にAIを導入する際の懸念も出てきている。中でも、プライバシーに関する問題には多くの指摘がある。



 もちろん教育分野におけるAI活用においてもプライバシーに対する配慮はなされており、学習者本人も気付いていないような個人的な情報(集中力が長続きしない、特定の論理的問題を苦手とするなど)が、秘密裏に第三者と共有されるようなことはない。



 一方で、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の「内定辞退率」を計算し、それを学生に知らせないまま企業に提供するという事件が起きたことは記憶に新しい。教育や学習に関する個人の情報も、その人物が関係する企業や団体にとって極めて重要な知見となり得る可能性があるため、同様の事件が再発しかねないという前提でルール整備を進める必要がある。



 バイアスの問題も、AIを教育に応用する際に大きな課題になると予想されている。例えば、進路指導をするAIが登場すれば、そうしたAIの多くは過去のデータに基づいて判断を下すことになる。



 仮にそのAIが参照したデータに「女性の卒業生の多くが進学を諦めた」という傾向があったとしたら、今後の女子生徒にも進学を諦めるようアドバイスするようになるかもしれない。この点についても、米Amazon.comが開発した人材採用支援AIが女性差別的な性質を帯びてしまった(これまで女性の採用が少ないというデータに基づいて学習したため)という実際の事件が発生しており、現実的な問題となっている。



 これを防ぐには、企業内でのAI活用と同様に、教育現場におけるデータ収集の量と質を向上させる必要がある。だが、そもそも高度なAI活用が教育現場でどこまで可能かという問題もある。教師や関係職員が適切なAIリテラシーや技術的知識を持ち、十分な運用が行える技術インフラが整備されるまで、一定の時間とリソースが必要になるだろう。仮に公的な支援がなかったとしたら、これらの実現は難しそうだ。



 実際に国連教育科学文化機関(UNESCO)は、19年に発表したワーキングペーパー「Artificial intelligence in education: challenges and opportunities for sustainable development」(教育における人工知能:持続可能な開発のための課題と機会)で、AIの教育分野での活用における課題として「質の高いデータシステムの開発」「AIを活用した教育に向けた教師の育成」「データの収集、使用、普及における倫理と透明性への対処」を挙げている。たとえ先進国であったとしても、これらに有効な対策を行うには時間がかかるはずだ。



 教育は、国にとっても将来の経済力を左右する重要な問題だ。再び数百年が経過しても、寺子屋スタイルから大きな変化はなかった――ということのないよう、この分野で官民の積極的な取り組みが行われることを期待したい。


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