【五輪世代の主役は誰だ #3】任されたポジションで異彩を放つ逸材たち

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2020年02月20日 17:40  サッカーキング

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2020シーズンの明治安田生命Jリーグが、いよいよ幕を開ける。優勝争いだけでなく、今夏に開催される東京五輪のメンバー入りを懸けた争いからも目が離せない。そこでスポーツライター3名に五輪世代の注目選手を挙げてもらった。



文=戸塚 啓

 4年前のリオ五輪代表は、海外組が南野拓実と久保裕也だけだった。久保は当時所属していたヤングボーイズの事情により、五輪の開幕直前に登録から外れることになった。浅野拓磨のアーセナル移籍が発表されていたが、五輪まではサンフレッチェ広島でプレーしていた。リオのピッチに立った海外組は、ザルツブルクに在籍していた南野ひとりだけだった。

 ひるがえって今回は、人材豊富である。海外クラブ所属選手だけで、スタメンを構成できるほどのボリュームがある。冨安健洋、堂安律、久保建英は日本代表に定着しており、彼ら以外にも国際Aマッチデビューを飾っている選手は多い。リオ五輪世代はU−20W杯出場を逃した「勝てない世代」だが、東京五輪世代は2017年と2019年のU−20W杯を知る選手の集合体である。一人ひとりの経験値という意味では、4年前を上回るだけでなく過去最高だろう。

 もっとも、チーム作りは順調でない。2017年12月の結成から1月のU−23選手権まで、2年強で実に40試合を消化してきた。自国開催の五輪ということで、破格と言ってもいい時間が費やされている。

 ところが、森保一監督が日本代表の監督を兼任してからは、ほとんどの試合で横内昭展監督代行が指揮を執ってきた。昨年11月以降は森保監督が先頭に立っているが、南米予選で敗退したコロンビアにホームで完敗し、AFC U−23選手権は1勝もできずにグループリーグ敗退である。



 世代間の融合も部分的に止まる。五輪代表の活動は日本代表と重なることがあり、冨安、堂安、久保、板倉滉らは招集を見送られてきた。堂安は昨年11月のコロンビア戦がここまで唯一の出場で、冨安は一度も合流できていない。彼ら海外組が五輪代表として森保監督のもとに勢ぞろいした試合は、いまだに実現していないのである。

 国内には悲観論が渦巻く。当然だ。金メダルという目標とここ最近の結果には、明らかな乖離がある。金メダルはともかく表彰台に上がれる可能性はまだある、と個人的には考える。五輪の出場国は、W杯のようにきっちりと強化をしてこない。オーバーエイジの合流も、基本的には直前だ。アフリカ予選を突破した南アフリカとコートジボワールを3月に迎え、5月、6月、7月と活動を重ねていく日本には、巻き返しの時間が残されている。

 メダルへのポイントは2つだ。本気で金メダルを狙うなら、五輪が終わるまでは森保監督を日本代表から解放するべきだろう。五輪代表の活動と重なる3月と6月のカタールW杯アジア2次予選は、監督代行で乗り切ってもらうのだ。

 さらに言えば、オーバーエイジの候補者は日本代表ではなく五輪代表に加える。他国に先んじてオーバーエイジを合流させ、チームを固めていくのだ。これが2つ目のポイントである。冨安や堂安らの五輪世代も、日本代表ではなく五輪代表に招集する。

 本来は日本代表が優先されるべきである。しかし、カタールW杯2次予選は格下の4カ国との戦いだ。森保監督が不在でも、何人かの主力を欠いても、負ける相手ではない。負けてはいけない相手である。残り4試合のうち3試合がホームゲームということを考えても、思い切った決断が許されるはずだ。

 海外組の所属クラブとの交渉も、スピード感をもって進めていきたい。4年前の久保の例を持ち出すまでもなく、海外組の招集はそもそも不確定要素をはらむ。例えば、チャンピオンズリーグにストレートインするのか、予備予選から出場するのかでクラブの対応は変わり、どちらになるのかはシーズン終了(あるいは終了間際)まで分からない。

 今季終了後に移籍する選手は、クラブ側から新シーズンへ向けたキャンプの参加を強く求められるかもしれない。それもまた、今はまだはっきりとしない。不確定要素が多いからこそ、様々な状況を想定した対応が必要になる。海外組の所属クラブの意向を確認し、ネゴシエーションをしておくのだ。

 森保監督がベストと考えるメンバーをそろえ、できる限りの準備をして五輪を迎える。前例や常識を覆してもいい。それぐらいの覚悟を固めることで、ようやくメダルが見えてくると思うのだ。

Jクラブでプレーする注目の五輪世代
大迫敬介(GK/サンフレッチェ広島)

 オーバーエイジを誰にするのか(というよりも、誰が呼べるのか)は、最終的なチーム作りを大きく左右する。理想はセンターバック、ボランチ、1トップになるのだろうが、それもGKが五輪世代であることが条件だ。最後方に不安がないことで、センターラインをオーバーエイジで固めることができる。

 そう考えると、大迫敬介がクローズアップされてくる。五輪世代の守護神でJ1のクラブに在籍し、定位置を確保しているのは現時点で彼だけである。

 広島所属の20歳は、日本代表と五輪代表で国際経験を積んできた。昨年6月のコパ・アメリカではチリ戦に先発し、同12月のEAFF E−1サッカー選手権でも香港戦で起用された。

 五輪世代では昨年9月のメキシコ戦、同10月のブラジル戦、同11月のコロンビア戦に先発し、今年1月のU−23選手権でも正GKを務めている。日本代表と五輪代表での戦いによって、五輪世代での細かなコンビネーションも練り上げてきている。

 あとは、勝ち点を呼び込むセーブができるか。0−2で敗れたコロンビア戦後に「簡単にゴールを決められるようではまだまだです」と話したように、観衆が悲鳴を上げるようなシーンを歓声に変えることで、定位置の座は不動のものとなる。

鈴木冬一(MF/湘南ベルマーレ)

 五輪の登録メンバーは18人だ。表彰台に立つには、W杯より5人少ないチームで6試合を戦わなければならない。複数のポジションをカバーできる選手は、チームを構成するうえで不可欠だ。東京五輪世代なら、湘南ベルマーレの鈴木冬一が候補に上がってくる。

 プロ1年目の昨季は、3−4−2−1のシステムで左右のウイングバックを主戦場にボランチ、3バックの一角でもプレーした。昨年11月に森保監督に初招集された際には、2シャドーでもテストされている。

 2017年にU−17W杯、2019年にはU−20W杯に出場しており、国際経験も積んできた。プロ入り前は攻撃的センスに優れるアタッカーの性格が強かったが、湘南加入で守備力も向上している。

 今季初の公式戦となった2月16日のルヴァンカップは、ベンチ入りしたものの出場機会が巡ってこなかった。世代屈指のポリバレントな能力を、東京五輪という大舞台で見せつけるために―湘南での定位置確保が前提条件になる。

【番外編】
前田大然(FW/マリティモ)

 タレントぞろいの印象を抱かせる攻撃陣だが、人材は2列目に集中している。ゼロトップのような布陣も考えていいが、彼らを生かすためにポゼッションに固執するのは危険だ。

 森保監督が目標とする金メダルを獲得するには、ブラジルやアルゼンチン、ドイツやスペインといった国々を倒さなければならない。押し込まれる展開を想定して、カウンターを用意しておきたい。永井謙佑のスピードを生かした2012年のロンドン五輪のように、である。

 そのための人材として、前田大然を推す(現在は松本山雅からマリティモにレンタル移籍中)。パスの出し手となれる選手はそろっているだけに、受け手としての前田がいることでカウンターの脅威度が増す。相手の背後を取る動きを彼が繰り返すことで、2シャドーにスペースを与えられるとの効果も見込める。

 昨年12月のジャマイカ戦では1トップで起用され、加速力のあるスプリントで相手守備陣を混乱させていた。ジャマイカのレベルがひどく物足りなかったことを差し引いても、彼のスピードは目を引いた。オーバーエイジで大迫勇也を招集できる前提に立っても、貴重なオプションに成り得るだろう。

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