ホーム > mixiニュース > コラム > “不動産版メルカリ”で一軒家が「1万円」 売り手の「家ストーリー」も魅力に

“不動産版メルカリ”で一軒家が「1万円」 売り手の「家ストーリー」も魅力に

8

2020年02月22日 08:00  AERA dot.

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AERA dot.

写真80代の男性が暮らしていた豊島区内にある築56年の一軒家。孫に引き継がれ、多くの人が集える民泊物件に生まれ変わった(写真:長田昌之さん提供)
80代の男性が暮らしていた豊島区内にある築56年の一軒家。孫に引き継がれ、多くの人が集える民泊物件に生まれ変わった(写真:長田昌之さん提供)
 増え続けている空き家問題に一石を投じる動きが起きている。不動産業者が「売れるわけない」とさじを投げたボロボロの家が、売り手と買い手を結ぶサイトで売れるという事例が相次いでいるのだ。AERA2020年2月24日号では、中古住宅の新潮流を紹介する。

【図】30年間で空き家はどのくらい増えている?

*  *  *
「親や親戚が遺した家の活用法は住むことだけではありません」

 そう話すのは、不動産売買サイト「家いちば」(東京都渋谷区)の代表で1級建築士の藤木哲也さん(50)だ。家いちばについては、後ほど詳述する。

「賃貸、シェアハウス、民泊など活用法は様々。地方の古民家ならレストランとして貸し出すことも考えられるでしょう。家は、親たちが残してくれた大事な不動産です」

 藤木さんは以前、こんな例に関わった。東京都豊島区に築56年の一軒家を持つ80代の男性が亡くなり、60代の女性が相続した。売れてもたいした儲けにならない可能性もあったが、当時30代だった女性の息子が、活用したいと訴えた。親子での話し合いののち、1千万円をかけて改修し、現在民泊用の物件として使っているという。

「1泊あたり7千円から9千円で、多い月は月額70万円、閑散期でも月額20万から30万円の収入があります。稼働は7割前後ですが、それでも投資利回りとしては20%を超えています。住もうとする人にとって築年数は重要ですが、宿泊する人からすれば、設備さえ整っていればさほど重要な問題ではありませんから」(藤木さん)

 相続税を支払っても、物件を一から買うよりはずっと安く手に入れることができる。

「親や祖父母世代がローンを払いせっかく積み上げてきた資産を全部処分し、次の世代がまたローンでゼロから家を買う。そんな循環にはそろそろストップがかかってもいいのではないでしょうか」と藤木さんは語る。

 日本で空き家が増え続けるのは、中古住宅の売買が低調なことも一因だ。

 国土交通省が作成した資料「我が国の住宅ストックをめぐる状況について」によると、中古と新築を合わせた全住宅流通量に占める中古のシェアは、2018年で14.5%。これは、欧米諸国の6分の1〜5分の1程度の水準だ。アメリカでは既存住宅流通が81%、イギリスでは85.9%を占める。アメリカでは、標準的な生涯の住み替え回数が6〜7回と言われる。

 平均すると5〜6年に一度家を売ることを前提にしているため、毎年の近隣価格や相場、月々の金利をチェックし家の正味の実力はどれくらいかを意識する傾向がある。だからメンテナンスや修繕も欠かさない。売却を前提にせず50年住み続けた中古住宅とは、市場価値が大きく異なるのは当然だ。

 前出の藤木さんが4年前に立ち上げた不動産売買サイト「家いちば」は、不動産を「買いたい人」と「売りたい人」が出会うための掲示板だ。いわば不動産版のメルカリのようなサービスといえる。

 サイトをのぞいてみると、やはり「以前親が住んでいた一軒家」が目立つ。多くは、近隣の不動産会社に売却の相談をしたものの「売れない」と言われ、途方にくれた子世代が投稿している。売却希望額は100万円以下が多く、0円や「マイナス180万円」のものも。所有者が解体費用を支払ってもいい、という切実な内容だ。

 見た目がボロボロで、持ち主も不動産業者も「売れるわけがない」と諦めていた埼玉県飯能市の一軒家を、近所に住む子育てファミリーが1万円で購入したり。茨城県稲敷市の一軒家を9万円で購入した人が、少し手を加えてから貸し出し家賃収入を得ていたり。

「間に不動産業者が入ってターゲッティングすると、先入観が入る。こういう人に紹介しますよ、こういう使い方をするんじゃないですかと決めてしまう。しかし、売り手と買い手が直接結ばれるサービスにしたことで、こちらの想像を超えるユーザーが集まってきました」

 4年間で少しずつ浸透し、このところは1日20件ペースで「買いたい」という問い合わせが来ている。様々な手を打ったものの7年間空き家状態が続いていた一軒家に問い合わせが殺到し、入札に28件の購入申し込みがあった例もある。

 投稿欄には、売りたい人がどんな気持ちで売ろうとしているのか、背景や理由を書くようになっている。藤木さんは「この思いの部分が、買いたいという人をひきつけている」と分析する。街で見かけるボロボロの空き家。見た目だけではとても手が出ない。しかし、そこで営まれた物語や所有者のストーリーを知ると、共感が芽生え購入意欲につながるという。

 中古住宅が人から人へと流通するようになれば、暮らし方は大きく変わる。

 北九州の門司港近くで1歳の息子と暮らす高野慎太郎さん(34)、友紀さん(36)夫婦は、旅行で訪れたこの土地に魅せられ、そのまま移り住んだ。夫は東京、妻は宮崎育ち。共にフリーランスでグラフィックデザインの仕事をしており、どこに住んでも仕事上の支障は少ない。

 売りに出ていた海を見下ろす丘の上の一軒家は200万円。月3万3千円で借りることもできた。とりあえず借りて住んでから決めようと、賃貸で契約した。隣の空き地で畑作りも始めた。

「東京にいた時ほどは稼げないけれど、その分ゆったりした生活を送れている。お金も掛からない。東京で子育てしていたらもっとお金が出ていたと思う」

 地縁・血縁のない土地での子育てについて尋ねると、「九州には妻の親戚もいます。それに、地元の人たちが移住者を受け入れてくれる。子どもと遊んでくれる近所の人も大勢います」という。

 昨年12月17日、東京・茅場町のカフェには、「家」という縛りから解放された生き方を模索するビジネスパーソンら30人以上が集まっていた。

 移住や、複数の家を拠点にする暮らし方をテーマにした座談会。参加者は40〜50代が多く、大手企業の部長クラスもいた。閉会の午後10時ギリギリまで、熱心な質疑応答が続いていた。企画した設計事務所経営の吉田浩司さん(36)は言う。

「定年後どこに住もうかとか、東京を離れて暮らすにはどうしたらいいのかなど、漠然と考えている人たちがヒントを求めて参加していました。副業解禁や働き方改革の空気を感じながら、みんなが会社以外の居場所や、今住んでいる場所以外でのつながりを探っているような感じでした」

 特に人気を博したスピーカーが、18年6月から「居候男子」を名乗る木津歩さん(27)だ。決まった家は持たない。全国各地を1カ月おきに転々とし、ゲストハウス、シェアハウスなどに無料で滞在し、人手不足の店や農家を手伝いながら暮らす。家賃は当然ゼロ。これまで、北海道から沖縄まで20地域に住んだ。

 木津さんは、岩手県遠野市、和歌山県海南市、兵庫県香美町、青森県十和田市など地方を歩く中で家余りの現状を目の当たりにしてきた。

「地方に行くと、まるで落とし物みたいに土地付きの家が数十万円で売られているんです。石川県穴水町では6LDKの空き家が月5千円で貸し出され、福井県鯖江市では、人口を増やしたい行政が、“半年間はどこに住んでも無料”というキャンペーンをやっていました」

 東京理科大建築学科で学び、1級建築士として大手ハウスメーカーで勤務した経験もある木津さんにとって「家」とはどんな存在なのだろうか。

「家を買ったから安心でもないし、家がないから不安でもない。身の丈を超える借金をしてまで新築を買うという価値観が転換する時期は近づいていると思います」

(ライター・吉松こころ)

※AERA 2020年2月24日号より抜粋

このニュースに関するつぶやき

  • 不動産売買サイト「家いちば」でしょ。いまちょっとメルカリって良い印象ないからわざわざ“不動産版メルカリ”なんて関連付けなくても…、と思った
    • イイネ!3
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

あなたにおすすめ

前日のランキングへ

ニュース設定