世界を変えるカラオケスタートアップ、なぜフィンランドから登場? 創設者に聞く“業界への問題意識”

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2020年02月24日 13:21  リアルサウンド

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https://singa.com/より

 フィンランド発のカラオケストリーミングサービス『Singa』は、「現代化されたカラオケ」だ。残念ながら今はまだ日本でサービスを行なっていないが、カラオケマシンやディスクの販売を伴わないカラオケビジネスとしては世界最大手であり、世界のカラオケに革命を起こすサービスとして、知名度が上昇中。他のサービスで例えるならば「カラオケ版Spotify」であり、「カラオケ版Netflix」であるともいえる。


(参考:SHOWROOMのカラオケ機能は革命的? AKB48Gの配信と著作隣接権問題から考える


 より詳しいSingaの説明もしていきたいところだが、まずは『Singa』の生まれたフィンランドと、カラオケが生まれた日本とのカラオケ文化の違い、そして『Singa』誕生のきっかけについて、フィンランドのカラオケストリーミングサービス『Singa』の共同創設者でCEOのアッテ・フヤネン(Atte Hujanen)氏へのインタビューを交えながら記していきたい。


・「卒業」できていないフィンランドのカラオケ
 大雑把に言えば、日本を含むアジアとその外ではカラオケ文化は大きく異なる。日本ではカラオケが生まれてしばらくの間は、カラオケスナックなど飲み屋などに設置されたカラオケマシンで歌うのが主流だった。


 このことについて、フヤネン氏は「フィンランドや、他の西洋諸国では、そのカラオケの元々の形に近い状態が今も保たれている。つまり、カラオケはバーなど共有空間で楽しむもの」と話してくれた。


 しかし、日本をはじめとするアジア圏では、その「元々の形」のカラオケから、客が個室でカラオケを楽しむのが主流な形へと変わってきた。フヤネン氏の言い方で興味深かったのは、フィンランドはバーで楽しむ形から「まだ卒業できていない」という点だ。


 フィンランドには、VIPスペースにカラオケがある程度のプライベートなカラオケならあるが、日本のような個室タイプのカラオケはいまだ存在しない。


・文化の多様性と西洋の個室カラオケ
 そうはいうものの、アジアの外に個室タイプのカラオケで歌うという文化が存在しないというわけではない。フヤネン氏によれば、西洋諸国でも文化の多様性が大きい都市では、海外で暮らして帰ってきた人などが海外文化を導入することで、現代日本と変わらない個室タイプのカラオケ様式が普及しているという。


 西ヨーロッパではイギリスの各都市部、北欧ではスウェーデン、ノルウェー、デンマークの首都部で、このようにして輸入された個室カラオケが一部に存在する。南半球側でもオーストラリアでは、東南アジアからきた人たちなどがアジアの個室タイプのカラオケ文化を豪州に持ち込んでいる。


 文化の多様性が豊かな都市部では個室カラオケがある一方で、フィンランドの首都ヘルシンキには未だ存在しない。そんな、ある意味カラオケ文化では後れをとっているとも言える、フィンランドのカラオケ文化はどのようなものだろうか。


・フィンランドのカラオケは「楽しい時間を過ごすための一手段」
 氏によれば、フィンランドではカラオケは「主に楽しい時間を過ごすための手段であり、多くの場合友達と共に楽しむもの。もしくは、一人のファンとして自分の好きな歌手、好きな歌と繋がる手段の延長線上に存在する」とのこと。


 もちろん日本でもカラオケは楽しい時間を過ごすための手段ではあるが、フィンランドでは「友達とワイワイ楽しむ」行為の延長線上にバーやナイトクラブが存在し、そこにカラオケシステムが備え付けられている場合がある(全てのバー・ナイトクラブにあるわけではない)。加えて、仲の良い友達とそのような場所に赴いても、みながみなカラオケで歌うわけではない。歌いたい友達はカラオケし、そうでない人は他の人が歌っているのを横目に飲んだり話したりして楽しむ。仲間の誰かが歌わなくても、他の客が何かを歌っている、という状況だ。


 対して、日本を始めとするアジアでは、個室カラオケの発展以降、カラオケをすることそのものを楽しむ文化ができあがっている。カラオケをするために出かけ、カラオケでは歌うことが中心となり、その周りにそれ以外の行為、飲む、食べる、話す、などが存在する。


 また、東京を始め住居空間の狭いアジアの都市部では、家に人を呼ぶホームパーティーの代わりに、カラオケルームがパーティー会場となりえたり、反対に「一人カラオケ」といった、リラックスするためにカラオケに行くなどもあり、フヤネン氏は「カラオケに多様性がある」と表現した。


 一概に「カラオケで歌う」と言っても、国が違えばその持つ意味が異なる。


バー・ナイトクラブ・カラオケタクシー
 「楽しい時間を過ごすための手段」の一つとしての歌唱であるためか、フィンランドでは主にバーやナイトクラブでしかカラオケを見ることがない。バーなどでは場所によっては日本のカラオケスナックのように、客の希望曲を店の人が手動で登録したりするところが主だ。客はカラオケブックから曲を選んで紙に書いて“カラオケマスター”に渡し、自分の番を待つ。カラオケマスターは、歌う客がいないときには自分で歌ったりすることもあるし、筆者の身近な例では歌の上手い知り合いが「キミ今の歌上手かったね、これからこの歌を歌いたいんだけど、ラップパートを担当してくれないかい?」と提案され、ラップをデュエットしたことなどもあった。


 また、「カラオケタクシー」という面白いものもある(日本でも福岡にはあるようだ)。例えば自宅に友達と集まり、これからナイトクラブに行くというときにカラオケタクシーを呼んで、目的地に行くまでの間の時間を歌って過ごすというもの。到着先のナイトクラブでもカラオケを楽しんだりするということだが、特に自宅からクラブに行くまで距離のある田舎などでよく使われるようだ。


 ただ街中をぐるぐる回りながらカラオケするという用法もあり、ある意味では個室タイプのカラオケと共通する点もあるかもしれないが、タクシーであるため否応なしに運転手も聞き手となる点や、あくまでも移動手段にカラオケが付いているという点で異なるだろう。


 ビデオカラオケはフィンランドにも90年代から存在するが、ビデオやDVDに入った20数曲の歌しか歌えないうえ、入れ替えも煩雑なため、今回の記事では一旦触れずに進めたい。


・フィンランドのカラオケの欠点
 つまるところ、フィンランドでは友達や見ず知らずの観客達と一緒に盛り上がり、皆でわいわいやる楽しみ方がメインということ。個室タイプのカラオケとの共通点もあるカラオケタクシーでさえもその延長線上にあるとも考えられる。


 その一方で、フィンランドのカラオケの現状には問題点も多く指摘される。「歌うことは好きだが見ず知らずの人の前で歌いたくない」、「酔っぱらいの前で歌いたくない」(「フィンランド人はシャイ」というステレオタイプが存在するということも指摘しておこう)という声も聞かれるし、特に日本に行ったことのあるフィンランド人たちからは、「日本のように未成年の学生だけでカラオケするのが難しい」、「日本みたいな個室でだったらプライベートに友達と一緒に歌えるのに」といった指摘もあった。


 しかし、そのような数々の問題も、Singaがあれば解決できる。


・きっかけはカラオケ大会
 だが、フヤネン氏はフィンランドのカラオケ文化に欠点を見いだしてSingaを生み出したわけではない。世界のカラオケに大きな問題があると気付いたからだという。


 南フィンランドのヘイノラで家族経営のキオスクやカフェを営む両親の元に生まれたフヤネン氏。彼の父親は若い頃は元オリンピックアスリートであり、プロアスリートのトレーナーや体育教師としても働いたことのある競技精神が強い人だった。


 「90年代後半、父はカラオケに夢中になった」と、すぐに競争心が芽生え、フィンランドで行われたカラオケ大会に参加したのだが、トップアスリート達が競い合うオリンピック競技の世界とはかけ離れた程度の低い歌唱大会に幻滅し、自らより競技性の高いカラオケフィンランド大会を主催することに。


 フヤネン一家は家族経営の会社を設立し、カラオケフィンランド大会を主催した。数年間続けてきて、フィンランドのトップカラオケシンガー達が生まれた、今度は優勝者達をカラオケの世界大会に…と考えたが、実はカラオケの世界大会などというものは存在しなかった。そこでフヤネン一家は2003年に『カラオケ・ワールド・チャンピオンシップ』(Karaoke World Championships、略してKWC)を生み出すに至った。


 なお、『KWC』は2019年は東京で開催されている他、2016年、2017年には日本人が優勝した部門もあるので、日本でもいくらか知られているかもしれない。


 フヤネン氏もこのイベントに関わり、日本の大手カラオケ会社を始め、韓国、アメリカなど、世界各国のトップカラオケ会社を知ることになる。


・進化の見えないカラオケ業界
 世界大会の主催は、カラオケ業界がどのように成り立っており、どのような製品を作っているのかを知ることのできる良い機会だった。しかし同時に世界のカラオケ業界の進化の無さも認識することとなった。


「2000年代初頭にあっても、カラオケ業界は80年代に私が子供の頃遊んでいたファミコンのようなグラフィックのまま、なんら変わっていなかった」(フヤネン氏)


 グラフィックだけではない。モダンなカラオケ会社ですらカラオケマシンやディスクシステムなど、時代と共に形を変えた製品を作り続けてはいるものの、古いビジネススタイルを守り続け、まるで「進化する時間が無いか、進化することに興味が無いかのよう」だった。


 その後フヤネン氏はカラオケ大会を離れ、フィンランド発のNGOスタートアップイベント『Slush』に共同設立者として携わっていた(こちらも日本では『Slush Tokyo』として開催されたことがあるので周知度も高いだろう)。


 『Slush』を立ち上げてから4年の月日が経ち、自分でも何かスタートアップを始めようと言うときに思い出したのがカラオケだった。だが、カラオケ業界を見つめ直して「4年前から何も進化が無い」ということに驚いた。


「当時は音楽ストリーミングではSpotify、動画ストリーミングではNetflixが出ていて、電子ブックやオーディオブックにもサブスクリプション式のものが登場してきた頃なのに、カラオケに関しては変化はなかった」(フヤネン氏)


 こうしてフヤネン氏は革新から取り残されたカラオケ業界に未来を起こす道を選んだ。次回の記事ではSingaそのものの詳しい説明をしていこう。


(Yu Ando)


このニュースに関するつぶやき

  • 日本のカラオケは個室カラオケがスタートじゃないだろw。大勢の宴会の中でカラオケの機会に音源だけのカセットを入れてだな。
    • イイネ!2
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