前田敦子、“プレッシャー”を背負える女優に AKB時代の姿と重なる『伝説のお母さん』の奮闘

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2020年02月29日 08:01  リアルサウンド

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よるドラ『伝説のお母さん』写真提供=NHK

 現在放送中のよるドラ『伝説のお母さん』(NHK総合)は、主演を務める前田敦子にとって出産後のドラマ復帰作。魔王が人間界への侵略をもくろむRPGの世界を舞台に、女性が結婚や子育てにおいて直面するリアルな悩みや葛藤を描いているのだが、ふんわりとしたファンタジーの物語だと甘く見ているとグサリと刺さるセリフに泣かされる。


参考:『伝説のお母さん』が共感を呼ぶ理由 子育てのリアルがてんこ盛りの社会派ドラマ


 前田敦子演じるメイは史上最強の魔法使いで、10年前に勇者たちと魔王(大地真央)を封印した。現在は、生後8カ月になる娘のさっちゃんの子育てに右往左往。夫のモブ(玉置玲央)は「育児は母親がするもの」と思い込んでいる節があり、子育てに関しては全く頼りにならない。そこへ国王(大倉孝二)に仕える士官・カトウ(井之脇海)が現れ、メイに魔王討伐を依頼する。魔王が復活したので伝説のパーティーは再結成。討伐の旅に出ようとするが冒険と育児の両立は難しく、城下町の保育所には待機児童があふれていた。


 役所の職員には「子育てを後回しにした人類の負けですね。大人しく滅びましょう」とまで言われるメイ。いわゆる「ワンオペ育児」で冒険どころではないメイだが、国王をはじめ周囲の期待は大きく、応えないわけにはいかない。メイ自身、伝説のシーフ・ベラ(MEGUMI)の息子ベルに対して「子どもは子どもらしく遊ばなくちゃ」と、家事を手伝ってくれることを喜ぶよりも子どもらしくないことを心配するなど、家事をするのは大人の女の自分の役割だという思いが強いことが伺える。


 伝説の魔法使いメイと、メイを演じる前田敦子には「新米ママ」というだけでなく、仲間たちの中心にいて、周囲の大きな期待に応える存在であり続けるという共通点がある。


 自分の力を信じてくれる人から期待されたら、その期待に応えたいという気持ちになるのは自然なことだし、誰もが時に自分に与えられた役割について、理想と現実のギャップに悩むことがある。考えてみると、国民的アイドルグループAKBを牽引してきた前田敦子ほど与えられた役割を背負うプレッシャーの大きさと対峙することを体現できる女優はいないのではないだろうか。


 誰もが知るあの名言「私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」が飛び出したのは、2011年の「第3回AKB48選抜総選挙」で1位になったときのことだ。大人数のアイドルグループにおいて誰がセンターになるのか気になるところだが、ただそこにいるだけで納得させられる彼女の存在感は独特のものだった。その翌年、AKB48を卒業し、女優業に邁進。2018年に俳優の勝地涼と結婚、出産後も立て続けに話題作に出演している。


 昨年は『マスカレード・ホテル』『コンフィデンスマンJP』『町田くんの世界』『旅のおわり、世界のはじまり』『葬式の名人』と5本の映画に出演。アイドルの頃のキラキラ感を残しつつ、同世代の女性が持つ不安や葛藤、焦燥感など複雑な内面を表現し、共感を集めている。主演を務めた映画『旅のおわり、世界のはじまり』で見せた迷子の子供のような無防備な表情と異国の情景になじむたくましさのバランスが見事だった。自分に何が求められているのかを察知し、空気を読み、期待以上に役割を果たすことができる彼女だからこそ、与えられた役割を飛び越えた世界を見せてくれるのが楽しみなのだ。


 ドラマはいよいよ後半戦に突入。魔王の策略に乗り、勇者マサムネ(大東駿介)はあっさりと魔界に転職するし、ほかの仲間も肝心なときに喧嘩を始めてまとまらない。メイは自分の役割を果たそうとすればするほど窮地に陥る。夫婦の問題にも子育てにも正解はないが、それに加えて魔王討伐を果たせるのかどうか。世の中のお母さんたちの共感を呼ぶメイの冒険は、女優としての前田敦子の奮闘にも重なり、応援せずにはいられない。(池沢奈々見)


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