トイレットペーパーも消えた 安倍首相が「冷静な購買」呼びかけもデマが止まらないわけ

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2020年02月29日 20:40  AERA dot.

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写真トイレットペーパーやティッシュペーパーが売り切れる店が続出している=2月29日、撮影・多田敏男
トイレットペーパーやティッシュペーパーが売り切れる店が続出している=2月29日、撮影・多田敏男
 新型コロナウイルスの影響でマスクが店頭から消えた。さらにここ数日、トイレットペーパーやティッシュペーパーも売り切れる店が続出している。

【画像】購入量を制限しても…

「紙不足でトイレットペーパーがなくなる」といったデマがネット上で広まり、多くの人が慌てて買ったことが原因だ。実際は在庫もあり、マスクとは状況が異なる。国やメーカー、小売店などは、デマに惑わされないよう呼びかけるが、騒動は収まっていない。

「トイレットペーパーは開店してすぐに売り切れました。物流センターには在庫があるので、毎日商品は入ってきます。お客様にはデマに踊らされないよう呼びかけていますが、なかなか理解してもらえません」

 こう話すのは都内のドラッグストアの店員。店内のトイレットペーパーやティッシュペーパーの棚は、2月29日昼時点では空っぽ。買いに来たある女性客は、「ここもなかった」と戸惑っていた。

 ほかのドラッグストアでは、開店前に長い列ができたところもあった。スーパーでも、トイレットペーパーを抱えてレジに並ぶ人の姿が目立った。大手スーパーの担当者によると、都内の店を中心にトイレットペーパーは通常の3〜4倍は売れており、商品を並べるのが追いつかない状況だという。

 1973年の石油危機(オイルショック)の時に物価が高騰し、トイレットペーパーなどを買い求める行列ができたことを思い起こさせる。石油危機の当時も、今回と同じように在庫や供給力はあり、物不足を心配する必要はなかった。それなのに、口コミなどでデマが広がり、多くの人が店に殺到してパニックになった。国やメーカーなどは対策を取ってきたが、今回もパニックのような状況が見られている。

 東日本大震災の時も不足はしたが、物流の寸断や供給力の低下などもあり、今回とは事情が異なる。在庫や供給力はあるのにトイレットペーパーが店頭から消えた大きな要因は、ネットだ。

「マスクの次に不足するのは原材料が中国から入らないトイレットペーパーだ」といったデマが、早い段階からSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で飛び交っていた。

 最初はネット上での誤った情報だったものが、心配になった一部の人が実際に購入。熊本市など一部の地域の店で、局所的に売り切れる事態となった。空になった棚の写真がSNSなどで拡散され、「本当にないんだ」と思った人が買いに行くことで、他の地域にも品不足が広がっていった。その状況が報道されることで、「デマかもしれないがとりあえず買っておこう」という人が増えた。

 熊本市の大西一史市長は2月27日にツイッターでこう呼びかけた。

「【デマにご注意】熊本でデマが流されトイレットペーパーやティッシュなどの買い占めが起こっているようですが確認したところティッシュ等はほとんどが国産で製造に全く影響ありません。まとめ買いしなくても大丈夫です。熊本市の指定ゴミ袋も在庫は数ケ月分あります。皆さん落ち着いて行動して下さい」

 ネットでの転売目的の買い占めが、事態を悪化させたという見方もある。オークションサイトやフリマアプリでは、通常300円前後のトイレットペーパーが、5倍以上の価格で売りに出されたケースもあった。

 こうした高値での転売は、マスクや消毒剤でも見られている。経済産業省は2月28日、次のように発表した。

「転売目的での買い占めを防止するとともに、既に転売目的で保有しているマスクを市場に供給するため、従来の高値取引の自粛から更に一段取り組みを進め、一定期間後オークションへの出品自体の自粛を求めます」

 ネットオークション事業者に、3月14日以降当分の間、マスクや消毒液の出品の自粛を要請するものだ。だが、トイレットペーパーなどについては、こうした要請はまだしていない。

 そもそも出品の自粛については強制力はなく、オークションサイトやフリマアプリは多数あるため、転売を完全に防ぐことは難しい。

 国への信頼が揺らいでいることも背景にある。

 経産省は2月28日に、「トイレットペーパーは不足していません。需要を満たす十分な供給量・在庫を確保しています。安心して落ち着いた行動をお願いいたします」と呼びかけた。業界団体の日本家庭紙工業会も同日、「トイレットペーパー、ティッシュペーパーの供給力、在庫は十分にあります」と発表した。

 安倍晋三首相も2月29日の会見で、「トイレットペーパーはほぼ全量が国内生産で十分な供給量や在庫が確保されているので、冷静な購買活動をお願いしたい」と訴えた。

 在庫や供給力をアピールするものだが、マスクについて国は品不足を解消できていない。当初はメーカーがフル生産することで2月17日以降は解消に向かうと説明していたが、実際はいまも品不足は続いている。せきなどの症状がある人はマスクをするように国は呼びかけているが、そのマスクが手に入らない。ほかにも一部の輸入野菜や家電、日用品などで物不足が起きている。ネット上では、国は信用できないといった意見もある。

「マスクだって用意できないのに、トイレットペーパーだってどうなるかわからない」

 SNS上ではこんな書き込みがあふれている。国を信じて落ち着いて行動すべきなのだろうが、国も信頼回復への取り組みが求められる。

 デマを収束させにくくしている要因としては、小売店など企業の構造的な弱点もある。十分に商品を店頭に並べれば、そもそもパニックはおきない。売り切れたら、すぐに倉庫から補充すればいいはずだ。

 だが、企業は収益力を高めるため、在庫を出来るだけ減らすことに力を入れてきた。平均的な売り上げに応じて、必要最小限のものだけ並べる。店の倉庫は小さく、商品は巨大な物流センターに集約し、定期的にトラックで運ぶのが一般的だ。このやり方は効率的で人手もかからないが、いったん想定外に売れる商品があると、対応できなくなる。

「トイレットペーパーのようなかさばるモノは、店頭に並べられる量に限りがあります。物流センターから補充しようとしても、すぐには持ってこられないんです」(大手スーパーの担当者)

 小売店に限らず企業は、人員をぎりぎりまで削減している。トラックの運転手らの人手不足も深刻で、緊急事態に対応できる余裕は少ない。リストラなどで「経営のスリム化」を推し進めた結果、想定外に対応できる柔軟性が弱まってしまったのだ。

 石油危機を経験した70代の女性は、品不足は続くかもしれないと心配する。

「オイルショックの時も、デマだとわかっていながら慌てて買いに行った。周りに流されちゃう人が多いんです。新型コロナウイルスの問題自体が収まらないと、売り切れる商品が次々に出てくるかもしれません」

 安倍首相は会見で、「できることは全てやる」と強調した。果たして、国の信頼を回復し、デマを止められるのだろうか。(本誌・多田敏男)

※週刊朝日オンライン限定記事

このニュースに関するつぶやき

  • デマがホンマになってしまったような状態やから、しゃーない。
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  • バカが買い占めるから仕方なしに付き合って買いに行く、うちだって無いと困るからな、悪循環www
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