阪神・藤浪が新型コロナに感染…新たな段階へ【非常事態下のベースボール】

◆ 第4回：先の見通せない恐怖と混乱

　阪神球団は26日、所属する藤浪晋太郎投手が新型コロナウイルスに関するPCR検査を受ける事になったと発表した。同投手は現在、倦怠感、発熱、咳などの症状はないものの、数日前から「臭いを感じない」臭覚異常を訴えており、医師の勧めもあり同検査を受けることになったという。これに伴い26日に行われる予定だったソフトバンクとの二軍練習試合は中止。球団施設等の消毒と共に選手やスタッフの自宅待機も決定した。

　その後、同日深夜には関係者の話として「PCR検査で陽性が確認された」との報道があり、藤浪がプロ野球選手では初の感染者に。同僚選手や球団関係者に濃厚接触者がいてもおかしくない状況であり、球場など関連施設の立ち入りも当面は規制されることが予想される。人気選手のすぐそばまで病魔が忍び寄っていたという現実が、球界全体に与える衝撃も大きい。

　前日の25日には、米大リーグのレイズに今季から移籍した筒香嘉智選手が緊急帰国した。こちらも全米に広がる新型コロナウイルスの感染拡大により、キャンプの中止と開幕の5月中旬以降への延期が決まって居場所を失った。本拠地のあるフロリダ州セントピーターズバーグでは民間ジムも営業中止とあって、練習が可能な日本に一時帰国を決めたものだ。

　幸いにも古巣となるベイスターズが全面協力を申し出て、横須賀にある練習施設を提供するという。とは言え、逞しく育って手元を離れていった我が子が、わずか数カ月で予期せぬ事情の緊急帰国とは、親としても不憫であり、複雑なことに違いない。


◆ 行くも地獄、止まるも地獄

　メジャーだけでなく、日本球界も激しく揺れている。23日には12球団代表者会議を開いて開幕の延期を決定。当初、3月20日にペナントレースは開幕予定だったが、これを4月24日を基本線に再構築することとなった。その翌日には東京五輪の開催が来年に延期となったため、五輪による過密日程の問題はかなり緩和されることになる。

　本来なら7月21日〜8月13日の間を「五輪ブレーク」としてペナントの中断期間に充てていた。そこに開幕まで延期では、殺人的なスケジュールとなり日程作成に頭を抱えていたが、「五輪ブレーク」がなくなれば、埋め合わせはかなり緩和される。

　だが、4月24日の開幕プランもまだ正式決定したわけではない。そもそも、世界中に広がり続けるコロナウイルス禍はあと1カ月足らずで終息を迎えるのか？ 東京では新たな感染者も増加傾向にあり、都市封鎖まで話題になっている。日本政府も専門家の意見として大規模なイベントの自粛を要請、野球やサッカーなどの人気スポーツだけが独自に走れる情勢ではない。

　NPBでは今も、様々な開幕案が検討されている。万が一、さらに開幕が遅れる場合。開幕がそのままでも、どれだけのファンを受け入れて、どのように危機を回避できるのか？

　これまでも指摘されてきた通り、イベント開催の際、最注意事項とされているのが「密閉、密集、密接の回避」だ。これを野球場に当てはめたとき、辛うじて許される範囲はファンとファンの間を一定距離以上空けて、手の届く範囲以上の距離を保つことだ。つまり入場者制限である。先の代表者会議と同時に行われた新型コロナウイルス対策連絡会議（Jリーグと共同）では20パーセント、50パーセントや80パーセントの制限案まで検討されている。

　ある出席者によれば「飛沫感染の距離は2メートルとも聞く。手の届く範囲を避ければ（入場者は）50パーセント以下になるのかなと思う」と語っている。屋内のドーム球場と屋外の球場で条件は違ってくるが、仮に満員で4万6000人を集める東京ドームの巨人戦でも、50パーセントの入場者なら2万3000人、さらに少ない場合も考えられる。

　金満球団ならともかく、球団経営に四苦八苦するチームでは、オープン戦の無観客に加えて、シーズンでも観客動員が望めないとなれば死活問題。真中満元ヤクルト監督（現評論家）が球界の現状に「給料を払えないチームが出て来るんじゃないの？」と語ったと伝えられたが、あながち的外れとも言えない。

　行くも地獄、止まるも地獄。国内も海外からも、まだまだ悲鳴は収まりそうにない。


文＝荒川和夫（あらかわ・かずお）