『マギアレコード』は『まど☆マギ』の脱構築に挑戦 劇団イヌカレーが描く魔法少女の救済

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2020年03月28日 10:01  リアルサウンド

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『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』(c)Magica Quartet/Aniplex・Magia Record Anime Partners

 現在TOKYO MX他にて放送中の『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』がいよいよ佳境を迎えつつある。本稿執筆時点では12話までを終え、放送は最終話を残すのみとなっている。本稿では、9年前アニメシーンを席巻した『魔法少女まどか☆マギカ』に魅せられた筆者が、新たな外伝を読み解く。


参考:『映像研』はアニメーションで放送するに相応しい作品だった 夜明けの街に見た明るい未来


 本作の原作は、f4samuraiによって2017年に開発された同名のAndroid/iOS版アプリゲーム(2019年にはDMM GAMESよりPC版がリリース)。このタイトルは、単なるアニメのオンラインゲーム化という範疇を超え、OPや変身シーンはアニメを製作していたシャフトが担当。さらに新キャラクターの原案、監修、ドラマパートの脚本で、『まど☆マギ』の魔女や異空間を手掛けて一躍名を上げた劇団イヌカレーの泥犬が参加しており、まさに『外伝』の名を冠するに相応しいタイトルであった。


 そしてそのリリースから3年、ヒットを続けてきたオンラインゲームの万を持してのTVアニメ化が、今回の『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』ということになる。


 今回のアニメ版、制作は『まど☆マギ』と同じくシャフト。新房昭之監督がスーパーバイザーとなり、劇団イヌカレーの泥犬が総監督/シリーズ構成を務め、『劇劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』でキャラクターデザインを務めた谷口淳一郎氏が引き続きキャラクターデザインを手掛ける。これにより、ゲーム版を遊んでいない『まど☆マギ』ファンも違和感なく並列世界として受け入れられる『外伝』となった。


 止め絵1枚からでもそれとわかる「シャフト演出」と呼称されることもあるシャフトだが、その演出の特徴を簡単に言い表すとすれば、アニメの演出のお約束を脱構築し続けること。それによって、キャラクターを自らの代弁者として、画面に自らの心象風景を表出させていると言い換えることもできる。


 ギャグを原作にした『さよなら絶望先生』シリーズはわかりやすいが、いわゆる“萌えアニメ”然とした『ひだまりスケッチ』でさえもそうである。そしてその『ひだまりスケッチ』のイメージを逆手にとったダークな展開で視聴者の度胆を抜くことに成功したのが、同じ蒼樹うめをキャラクター原案に起用した『魔法少女まどか☆マギカ』であった。『まど☆マギ』は、“萌えアニメ”の脱構築だったとも言えるのだ。


 画面と違和感のある素材の突然のインサートは、シャフトで多用された手法であったが、その究極系が『まど☆マギ』における「劇団イヌカレー」という製作集団の投入だった。蒼樹うめによるキャラクターと全く相容れない魔女達の異様なデザイン、狂気を感じさせるシュールな空間が、キャラクター・巴マミの突然の、かつ残忍な退場によりインパクトを与えたことは論を待たない。そしてその後続く魔法少女たちの魔女堕ちと退場があったからこそ、ラストシーン、鹿目まどかによる救済を感動的なものとした。


 『まど☆マギ』からの9年間、「萌え絵」の浸透と拡散は著しい。だからこそ、今また『外伝』を製作するにあたって、主人公・環いろはは、最後の最後まで魔法少女とならなかった鹿目まどかと違い、最初から変身をしてみせる。だが逆に、自分がキュゥべえと契約した内容を忘れてしまった……という事実が序盤の謎として提示される。その後、みかづき荘という生活共同体に魔法少女が集い、第3話で巴マミが登場するのも含め、今度は「まど☆マギの脱構築」を行っているのが『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』である。


 また、本作では、スマートフォンが魔法少女達の日常に溶け込んだ当たり前のツールとして登場する。『まど☆マギ』の2011年はiPhoneは4だった時代で、未だケータイは圧倒的に電話、メールのツールだった。


 しかし、情報端末が1人1台となった世界で、主人公の環いろは他の魔法少女たちは逆に孤独を深めている様にみえる。そしてその要因として、劇団イヌカレーテイストの異空間が、街を浸食し、拡散浸透している様子が描かれている。


 かつて魔女は、ワルプルギスの夜でさえも、普通の人間には認識されなかった。しかし9年後、空間の浸食と共に、ウワサはどんどん人間を蝕んでいるのだ。その息苦しさの中、何でもできる、世界中と繋がっているスマホを手に、孤独に責めさいなまれる少女たちが生活共同体に集まらざるをえないという皮肉は痛烈だ。泥犬はそうして、魔法少女たちを退場させることのない外伝で、虚淵玄的『まど☆マギ』のイメージを脱構築しつつある様にも見える。


 そして物語は、謎の集団「マギウスの翼」による「魔法少女の救済」が何なのか、という核心部分がいよいよ明かされるクライマックスへ向け疾走している。まどかが変身と引き換えに願った自己犠牲により、過去から未来総ての魔法少女は救済された。続く劇場版『新編 叛逆の物語』では、その救済を暁美ほむらの独善的愛が綻ばせた。そして今、泥犬は、まどかによる救済と、それに対してのほむらによる叛逆を、今また、脱構築させるのか。


 豪華人気声優陣による群像劇としての側面も持ち合わせる『外伝』の結末や如何に。『まど☆マギ』ファンならずとも、その日を震えて待つことになろう。


■こもとめいこ♂
1969年会津若松生まれ。リングサイドで撮影中にカメラを壊され、椅子を背中に落とされた経験を持つコンバットフォトグラファーでライター。得意ジャンルはアニメ・声優・漫画・プロレス・格闘技・サバゲー等おたく趣味全般。web媒体では週刊ファイト・歌ネットアニメ他で活動中。


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  • 原作のアプリゲームをやってないから知らんけど、後1話でどうなっちゃうんでしょうね。
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