ゲーム実況者・テラゾーインタビュー「ゲーム実況は“人間観察”好きがハマるコンテンツ」

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2020年03月28日 18:51  リアルサウンド

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撮影=伊藤惇

 人気ゲーム実況者の原点を探る、インタビュー連載「ゲーム実況のふるさと」。今回は、声真似からイラスト制作まで多芸でありながら、そうした“飛び道具”に頼らず、ゲーム選びや企画力で多くのファンを魅了し続けるゲーム実況者・テラゾーのインタビューをお届けする。動画投稿を始めた経緯から、現在注力しているTRPGの面白さ、自身が考えるゲーム実況の本質的な魅力に、拠点としているniconico(ニコニコ動画)の活用法まで、じっくり語ってもらった。(編集部)


(参考:ゲーム実況者・加藤純一×もこう対談 「ゲーム実況中なら死んでもいい」


「やりたいことをやって、それを観てもらえるのが一番」
ーーまずはテラゾーさんがゲーム実況を始めた経緯から聞かせてください。


テラゾー:これまではあまり言ってこなかったんですけど、もともと僕は映像を作る側の人間になろうと思っていて、アニメーターの仕事をしていたんです。大学ではアニメーションを自主製作していて、自分ひとりで作品を作り上げる、というのが楽しかったんですよね。ただ、仕事になると映像作品はひとりでは作れませんから、働くうちに“作りたい欲”が高まっていって。よりクリエイティブな活動をしたいけれど、なかなかできない、というジレンマがありました。


ーーそのなかで、ゲーム実況に出会ったと。


テラゾー:そうなんです。絵を描く人って、ラジオを聴く人が多いんですけど、僕はその代わりにゲーム実況を観始めたんですよね。そこで、これだったら自分でも作れそうだと思って、“作りたい欲”を発散できる趣味として始めてみた、という感じです。ゲームという媒体を借りて、ひとつの表現ができるというのは面白いなって。


ーー2009年11月、ニコニコ動画に『グーの惑星』の実況動画を上げたのが初投稿でした。テラゾーさんは知られざる名作を広める実況者だというイメージがありますが、どんな観点でプレイするタイトルを選んでいったのでしょうか?


テラゾー:基本的には自分がやりたいことをやっているだけなんですけど、「このゲームだったら数字が取れる!」というのはあまり考えず、映像にしたときに面白くなりそうなアイデアが浮かぶタイトルを選ぶことが多いですね。ただ、ゲーム実況を始める前は、やっぱりランキングに入って人気者になりたいとも思っていたので、『メタルギアソリッド』を人気キャラクターのグレイフォックスに扮して実況する声真似の動画(卍グレイフォックスが実況する【メタルギアソリッドPW】)は、どこかでやろうと思っていました。


ーー2010年5月に投稿され、爆発的なヒット作になりました。


テラゾー:始める前から「絶対にウケるやろ!」と思っていて。このシリーズがヒットしたからこそ、他の動画も観てもらえるようになったし、もし思ったように伸びなかったら、もっと人気が取れそうなゲームに走ったかもしれないですね(笑)。


ーーそこからも、ノベルゲームあり、アクションゲームの縛りプレイあり、プレイスタイルや動画の方向性も幅広く展開していきました。


テラゾー:いろいろやりすぎだな、と思うんですけど、「このゲームの動画は当たったけど、他のジャンルに挑戦したら再生数が落ちちゃった」というのは嫌なんですよね。どんなジャンルを選んでも観てもらえる実況者になりたい、と思ってやってきました。


ーーなるほど。声真似実況を続ければ確実に再生数は取れるけれど、それはしたくなかったと。


テラゾー:最初は苦悩しましたね(笑)。でも、特定のジャンルばかりやっていると仕事や義務のようになってしまうし、やりたいことをやって、それを観てもらえるのが一番いいなと。だから結局、自分の好きなものを選んでいるんです。


ーーそのなかで、やはりテラゾーさんの声が好きだというファンも多く、ノベルゲームが鉄板の人気ジャンルになっています。どんなことを意識して動画にしているのでしょうか。


テラゾー:文章が長いゲームの実況って、テキストを読む人と、あまり読まずに飛ばす人に分かれますよね。僕は読むほうなんですけど、冗長にならないように、というのは意識しています。ひとつポイントを言うと、「ゲームの画面を止めてしゃべり続ける」というのは、絶対にNGなんです。ゲームの画面が動いていれば、ダラダラしゃべっていてもストレスにならないんですけど、映像が止まっているなかでしゃべっていると、観る側にとっては実はすごいストレスなんですよね。


 それに気づいてからは、映像が止まりそうだったら、読まなくていいところをさらっと流したり、すごく意識しています。文章だと伝わりづらいかもしれませんが(笑)。


ーーそしてテラゾーさんは、アナログゲームも度々動画や生配信でプレイしていて、人狼やTRPG(テーブルトークRPG。サイコロなどを使い、プレイヤー同士の対話で進行する)という分野でも存在感があります。そのなかで、13人のプレイヤーが1年をかけてオリジナルシナリオを遊ぶ『ほしむすび』という企画がスタートし、こちらも大きな話題になっています。


テラゾー:下敷きになったのは、「役者が全力で演じる人狼ゲーム」(役者人狼)という企画と、アナログゲームを中心とした企画で人気の卓ゲCHANNELさんとコラボした「ロールプレイタッグディプロマシー」という企画です。『人狼』はお馴染みだと思いますが、『ディプロマシー』というのもアナログゲームで、大戦前のヨーロッパを舞台に、プレイヤーが話し合い、議論しながら覇権を争うというものです。「ロールプレイタッグディプロマシー」では、個々のプレイヤーにオリジナルのキャラクターを用意して、役柄として演じながらプレイしたんですが、放送後、ファンの方たちが二次創作でめちゃくちゃ盛り上がってくれたんですよね。ゲームが終わったあと、各キャラクターがどんなふうに絡んだら面白いか、ということをみんなで考えてくれて、1年後にはオフイベントにまで発展して。そのなかで、プレイヤーたちとの飲み会で「次の作品を作ろう」という話になって、TRPGでキャラクターをたくさん立てて、最初から関係性も用意して、世界観としてドンと出したら、もっと二次創作もしやすいし、盛り上がるんじゃないかと。


ーーもともとニコニコ動画でも、イラストやアニメーションをつけたTRPGのリプレイ動画が人気で、二次創作が盛んですね。


テラゾー:そうなんですよね。もともとわかりやすいコンテンツではなく、深くハマるとめちゃくちゃおもしろい、というものなので、そのニッチ感がニコニコ動画と相性がいいのかな。TRPGは自分でキャラクターを設定して、その魅力がアドリブ的にできていくのが面白くて。ストーリーの枠組みはあっても筋書きはなく、プレイングやサイコロの運で状況はどんどん変化していくので、“小さな奇跡”みたいなシーンが生まれるんですよ。それが動画化されて、大人気になるキャラクターもいるんですけど、だいたい1回のセッションで使い切られてしまうのがもったいないなと思っていて。それだったら、長く継続する“キャンペーンシナリオ”を用意して、世界観ごと作ってしまおうと。


ーー『ほしむすび』はキャラクター設定やイラスト、ストーリーも非常に作り込まれていて、しかしプレイヤーの選択やそのときの運によって、退場してしまうキャラクターが出てくる可能性が常にあるという、シビアな部分があります。大掛かりな企画だけに、緊張感がありますね。


テラゾー:緊張感はとても大事で、シナリオ制作にはかかわらないプレイヤーも「あまり手加減しすぎて、絶対にキャラクターをロストしない、みたいなことはやめてね」という話もしていて。緊張感を持って本気で立ち回らないと、“小さな奇跡”的なドラマも生まれないですから。キャラクターが死んでしまうという状況になっても、そこでエモいロールプレイができれば成功だと思いますし……なんて言いつつ、僕は企画を立ち上げたあとはプレイヤーとして参加しているので、シナリオには携わっていませんし、ただ真剣に楽しくロールプレイをするだけですが(笑)。


ーー自作ゲームのマーダーミステリーシリーズ「マダミスカ」も話題ですが、テラゾーさんのチャンネルは“ゲーム”というものの捉え方がとても広いですね。自分でルールを作って面白くする、というクリエイターでもあり、『モノポリー』が強そう、みたいなイメージがあります。


テラゾー:確かに、学生時代から友だちの家に集まってアナログゲームをやったりしていましたね。TRPGも大学時代に友人に誘われて、そんなにどハマりはしなかったんですけど、自分で絵も描けるし、キャラクターを作るのは楽しかった覚えがあります。人狼に出会ったのはアニメーターになるかならないかくらいのタイミングで、ハマりすぎて仕事が手につかなくなったり。BBSを利用して、本当に1週間かけてやってみたりもしましたね。朝起きて、「俺死んでるやん!」って(笑)。


「楽しく活動するためにニコニコを拠点にしている」
ーーさて、この10年間で「ゲーム実況」というシーンをめぐる環境は大きく変わってきたと思います。テラゾーさんはその変化をどう捉えていますか?


テラゾー:個人的にめちゃくちゃ大きいのは、新作ゲームを実況できるようになったことですね。僕はどちらかというと、もともと好きだったゲームに“縛り”を入れて面白い動画を作る、みたいなタイプなので、過去作がちょっとやりづらくなっているな、と思ってしまう部分もあって。ニコニコ動画でゲーム実況が出てきたころは、例えば『FF4』や『クロノ・トリガー』のような名作の実況動画が人気で、ゲーム自体を懐かしみながら、その人ならではの実況、トークの面白さを楽しんでいたというか。


 いまはそういうゲームはすべてやり尽くされていて、新しいゲームだったり、“eスポーツ”という文脈でプレイングがうまい人の動画が注目を集めたり、本当に変わってきていると思います。工夫して、ネタ的に面白い動画を作っても評価されづらくなってきたというか、自分がやりたいことと、注目されることをすり合わせるのが難しい時代になってきたという感覚はありますが、もともとあまり数字を気にするタイプではないので、時代に合わせて新作もプレイしつつ、昔のクソゲーなんかもプレイしていきたいと思っています(笑)。


ーーこの動画は数字が取れる、というのは経験的に見えていると思いますし、たまには多くの視聴者を集めよう、と思うことも……?


テラゾー:もちろんありますよ(笑)。ただ、理想は好きなことをやって、それを観て楽しんでもらえる、ということですし、ついてきてくれている視聴者の皆さんには本当に感謝ですね。最近だと、『Detroit Become Human』や『SEKIRO』など、新作ゲームもプレイしていますが、これも自分がハマれると思った作品ですし、“好きな新作待ち”というところもあるかもしれません。『ARMORED CORE』の新作はまだか!みたいな(笑)。ちなみに、僕は自分でも実況動画をわりとよく観る方で、ニコニコ動画で「ニッチだけど、自分だけ楽しめる」みたいなコアな動画を発掘するのが、やっぱり好きです。


ーー多くのプラットフォームでゲーム実況が親しまれるようになったなかで、テラゾーさんはいまもニコニコ動画を拠点に活動していますね。


テラゾー:YouTubeでの伸び方がわからない、というのもあるんですけど(笑)、僕はかなりニコニコ動画のコメント機能を活用している方だと思うんですよね。初見実況を毎日収録&投稿しながら、コメントを見てすぐ反映する、というプレイングをしているし、NG共有機能でネタバレも防げるので、本当にありがたいんですよ。いろいろと課題はあると思いますけど、やっぱりニコニコならではの面白さはあるので、楽しく活動するためにニコニコを拠点にしている、という感覚ですね。僕がやっているゲームは割と大人向きだったりもするので、若い視聴者が多いプラットフォームに力を入れる、というのもなかなか考えづらくて。


ーーあらためて、テラゾーさんにとってゲーム実況の魅力とは?


テラゾー:ゲーム実況って、ハマると1本30分くらいある動画をパート40まで観たりしますよね。そうすると、トークもそうですし、プレイもそうですし、編集の仕方も含めて、その人の人間性がものすごくよくわかるんです。初めてのゲームをプレイして、何十時間も作ったリアクションをするなんて無理だと思いますし、打算的なところは視聴者に看破されて、どうしても素の人間性が出る。だから、ゲームが好きな人はもちろんですけど、それ以上に人間観察が好きな人がハマるコンテンツなのかなと。そのうちに、単純接触効果のようなもので、ずっと動画を観ているうちにその人のことが好きになって、興味がなかったゲームの動画も楽しく観られるようになるんです。


 僕自身、ゲーム実況動画を観るときは「この人、どんな人なのかな」と思ってみますし、それで「人狼に誘ってみようかな」なんて思ったりもするので、“自己紹介動画”のように捉えている面もあって。だから、僕のことを知りたいと思ってくれた人は、動画を観てくれればわかります、という感じです。ダメなところもたくさん出ていますから(笑)。


(橋川良寛)


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