“ベタな王道恋愛”は需要あり? 今はめっきり減ってしまったジャンルの名作ドラマ

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2020年03月29日 08:11  リアルサウンド

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今はめっきり減ってしまったジャンルの名作ドラマ

 続編作品が多く、医療モノや刑事モノ、バディモノといった定型ジャンルが集結した感のある春ドラマ。これらの定型ジャンルドラマはある程度の数字が見込めて、安定感がある一方、「もう少し目新しさが欲しい」と思っている人も少なくないだろう。放送規制や予算の関係、さらには人口比率の関係で、若者を切り捨てて中高年層をターゲットにしたドラマが主流となっている今。そこで、今はめっきり減ってしまったジャンルの名作ドラマを振り返ってみたい。


【写真】学園ドラマ『Q10』時代の佐藤健


■“ベタな王道恋愛ドラマ”は需要あり?


 例えば、『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)のヒットによって再確認されたのが、ベタな恋愛ドラマの需要である。ドS男子のツンデレぶりや、みんなが無条件に大好きな「空港シーン」が共通することなどから、『花より男子』シリーズ(TBS系)と重ね合わせて盛り上がった視聴者も多数いたようだ。


 ベタな王道恋愛ドラマというと、いまだに「一番好きな恋愛ドラマ」として挙げる人が多いのが『やまとなでしこ』(2000年/フジテレビ系)だ。


 松嶋菜々子演じる桜子は、貧しい暮らしをしてきたために、玉の輿にのることを夢見て夜な夜な合コンを繰り返す。にもかかわらず、恋をしてしまったのは、自身を金持ちの医者と偽っていた魚屋さん(堤真一)であり、何よりも貧乏を嫌う彼女が最終的に言った「残念ながら、あなたといると私は幸せなんです」はいまだに名台詞として語り継がれているほどだ。ちなみに、この作品が放送された当時はとっくにバブルが崩壊しているのだが、それでも今観ると、衣装やセットなどの豪華さに「こんなに日本が豊かだった時代があったのか」と切なくもなってくる。


 また、男ばかりの家族の中に女性一人が転がり込む、いわゆる“逆ハーレム”モノとして忘れられない名作は『ランチの女王』(2002年/フジテレビ系)だ。


 堤真一、江口洋介、妻夫木聡、山下智久というタイプ違いのイケメン4兄弟の顔触れだけでもご馳走なのに、みんなに愛される「元不良グループ幹部でドロップキックが得意なワケアリヒロイン」を演じていたショートヘアの竹内結子が、眩しいほどに美しい。恋愛要素だけでなく、家族の絆モノや、レストランドラマとしての魅力もある。


■昔のホラードラマは本当に怖かった


 また、今では完全になくなってしまったと言えるのが、ホラーや怪奇ドラマだ。もちろん『世にも奇妙な物語』や『ほんとにあった怖い話』(共にフジテレビ系)など、子どもでも楽しめるライトな内容のものは時折放送される。


 しかし、昔のホラードラマは本当に怖かった。例えば、自分を含めた40代の場合、リアルタイムでなく再放送で観て忘れられない作品となったのが、円谷プロダクションが制作した『怪奇大作戦』(1968〜1969年、TBS系)だ。これは特撮ドラマのジャンルに入るが、ウルトラシリーズより大人向けで、「夜の町で次々と人間が溶ける怪事件」や「人体実験で冷凍人間になってしまった男」など、数々の猟奇的な事件が登場する。


 と言っても、暗闇から急に白い服の女の人が飛び出してくるような現代のこけおどし的ホラーとは全く別モノで、主に描かれているのは人間の情念だ。脚本、映像、役者、どれをとってもハイクオリティで、特に実相寺昭雄が監督を務めた23話「呪いの壺」と24話「京都買います」は、芸術的ですらある。


 この流れが引き継がれているのが、オムニバスホラーの『恐怖劇場アンバランス』(1973年、フジテレビ系)だ。日常や常識のバランスが崩れた不可解で理不尽な恐怖を描いた本作は、ビジュアル的・心理的恐怖の表現が実に洗練されていて、とにかく怖い。実は1970年に制作されたのに、その衝撃的内容からシリーズまるごと3年もお蔵入りしてしまった伝説的ドラマでもある。


 また、現代まで続く「刑事モノ」にも、かつてはホラー回がたくさんあった。その筆頭は『特捜最前線』(1977年〜、テレビ朝日系)だ。夏の風物詩「怪談特集」には「亡霊・見舞いに来る夜!」「亡霊・顔のない女!」「高層ビルに出る幽霊!」「水色の幽霊を見た婦警!」など様々な作品があった。中でも「水色の〜」は、幻想だと思っていた水色のヒラヒラ服の女性が終盤になって実際に襲いかかってくる。実は幽霊ではなく電波系だったというオチなのだが、後に水色の服が着られなくなる程度に恐ろしいものだった。


 また、「恐怖の診察台!」では、歯医者が奥歯に青酸カリを詰めるという、よくもこんな惨いことを思いつくものだと思う内容が描かれ、おかげでただでさえ怖い歯医者が完全にトラウマになってしまった。


 意外な怖さといえば、アイドルドラマに思われがちな『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)も堂本剛主演の一作目では、首無し死体やめった刺しの死体、血しぶきや目つぶしなどなど、生々しくグロいシーンがたくさんあった。今もトラウマになっている人がたくさんいるらしい。


■SFジュブナイルモノにはキムタクの名作も


 それから、一定層のファンが確実にいるのに、今はなかなか作られなくなっているのが、SFジュブナイルモノだ。


 1970年代にNHK「少年ドラマシリーズ」で多数の名作が生まれた。その代表作の一つで眉村卓原作の『なぞの転校生』は、2014年に岩井俊二の企画プロデュース・脚本によって生まれ変わっている(テレビ東京系)。不思議なパラレルワールドが岩井俊二ならではの映像美と音楽センスで作り出された本作は、評判となった。確実に需要はあることがわかっているのだが、その後、NHKの『アシガール』を除いて、なかなかSFジュブナイルの名作が生まれてこないのは、残念である。


 それから、冬ドラマでは珍しく『テセウスの船』(TBS系)、『10の秘密』(カンテレ・フジテレビ系)と、1話完結ではない連続モノのミステリーが登場したが、かつては脚本も非常に緻密に練り上げられたミステリーがあったものだ。


 その筆頭として挙げたいのは、野沢尚脚本の『眠れる森』(1998年、フジテレビ系)だ。『グランメゾン東京』(TBS系)、『教場』(フジテレビ系)で役者としての評価を高めている木村拓哉主演ドラマというと、『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』(共にフジテレビ系)など恋愛モノの印象が強い。しかし、実はドラマファンの間では本作をナンバーワンとする声も少なくない。ラストまで犯人がわからない展開や、オープニングに仕掛けられた様々な伏線の回収の見事さ、ミステリーホラーというジャンルを広げた功績も大きいだろう。


■佐藤健にハマった人に是非観てほしい「学園ドラマ」


 また、一時は絶滅しかけていたのが「学園ドラマ」というジャンルだ。近年、『今日から俺は!!』『3年A組―今から皆さんは、人質ですー』『俺のスカート、どこいった』などで日本テレビが積極的に復活を試みているが、過去には忘れられない名作がたくさんある。


 例えば、『白線流し』(1996年/フジテレビ系)。経済格差や現実の厳しさ、夢や挫折が切なく美しく描かれたスピッツの「空も飛べるはず」とのハマり具合も見事だった。


 また、典型的ないじめられっ子・信子、通称『野ブタ』を人気者にプロデュースしていく『野ブタ。をプロデュース』(2005年、日本テレビ系)や、ロボットの目を通して当たり前の日々の素晴らしさや人生の普遍性を描いた『Q10』(2010年、日本テレビ系)などの木皿泉脚本ドラマには、今も名作として語り継がれているものが多い。


 ちなみに、同作は『恋つづ』で佐藤健にハマった人に是非観てほしいドラマでもある。佐藤健が演じたのは平凡な高校生役で、当時、人気絶頂にあった前田敦子がロボット役を演じていたことも話題になった。さらに年月を経て、佐藤健が女性たちを夢中にさせた『恋つづ』と同じ冬ドラマにおいて、前田は『伝説のお母さん』(NHK総合)で子育て中の伝説の魔法使いを演じたという偶然も見逃せない。高畑充希や賀来賢人、池松壮亮、柄本時生、細田善彦、福田麻由子など、今観ると驚くほど豪華な顔ぶれが揃っているのも注目ポイントだ。


■復活してほしいドラマ枠(番外編)


 最後に、ジャンルではないが、ぜひ復活してほしいのが、NHKの「銀河テレビ小説」である。


 今では朝ドラがドラマ界において最も高値安定コンテンツとなっているが、かつては朝ドラに並ぶべく、夜の連続ドラマが『銀河ドラマ』(1969年)から時間帯を変えつつ、35年間も同じような形式で放送されていた。


 『たけしくん、ハイ!』『続・たけしくん、ハイ!』や藤子不二雄A原作の『まんが道』、つかこうへいの『かけおち‘83』など、バラエティに富んだ質の高いドラマが多かったが、仲でも忘れられないのは、テレビ発の朗読ドラマとなった向田邦子原作の『思い出トランプ / 男どき 女どき』(1984年)である。


 5人の女優が朗読、ドラマ部分にも出演するかたちだったが、日常生活の断片を切り取る朗読には、想像力を大いに掻き立てられた。当時小学生だった自分にとっては、なんとも背伸びで知的好奇心をくすぐられるドラマ体験だった。


 とまあ、昔好きだったドラマを思い出すと、ついつい話が止まらなくなる。新型コロナの影響で在宅時間が増えているいま、近年減っているジャンルのドラマの魅力などを改めて観直してみては?


(田幸和歌子)


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