TBSはなぜ今、新たな音楽番組に挑戦するのか? “生中継”にこだわる『CDTVライブ!ライブ!』総合演出インタビュー

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2020年03月30日 06:01  リアルサウンド

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『CDTVライブ!ライブ!』総合演出・竹永典弘

 音楽の魅力を広く伝えるメディアとして、大きな機能を果たすテレビの音楽番組。CD全盛期に比べて番組数が減少する中、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている。そんななかでも、注目すべき番組に焦点をあてていく連載「テレビが伝える音楽」。第10回では、3月30日からTBSで新たにスタートする音楽番組『CDTVライブ!ライブ!』総合演出の竹永典弘氏にインタビューを行った。元々はバラエティを中心に手がけていたという竹永氏だが、タイトル通り“ライブ”にこだわった音楽番組をこのタイミングでスタートしようと考えた理由や、番組を通じて伝えたいことなどを熱く語ってくれた。(編集部)


(関連:『CDTV』は、新番組でどう個性を出していくのか ポイントは“ライブの深掘り”?


■音楽番組を今、テレビでやる意義
ーー竹永さん自身がこれまで関わってきた番組を教えてください。


竹永典弘(以下、竹永):『金スマ(中居正広の金曜日のスマイルたちへ)』の総合演出を長くやっています。音楽番組畑ではなくて、バラエティ番組を中心に30代後半〜40代くらいまでやっていました。4、5年前に、TBSで年に1回放送している『音楽の日』の総合演出をやってほしいと突然言われて。「音楽番組やったことないんだけどな」と思いながら(笑)、でもすごく楽しくて。今まで他の番組で培ってきたのは、“どう振るか”ということだと思うんですよね。新曲をポンと出したところで分からないから、「どうやったらこの歌に最高に感情移入して聞いてもらえるか」という振りをちゃんと作っていこう、というのが『音楽の日』で僕が初めにやったことです。あとは、テーマをちゃんと持ちましょう、と。例えば“絆”や“未来への一歩”、“繋ぐ”など、ワンテーマでやりきるということを『音楽の日』ではやってきましたね。あとは『レコ大(輝く!日本レコード大賞)』の総合演出をやったり。でも、レギュラーの音楽番組は初めてで、自分が担当するとは全く思っていませんでした。


ーーレギュラーの音楽番組が全盛期と比べて減っている中、このタイミングで生中継の音楽番組を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょう?


竹永:音楽特番を担当していて、自分が楽しいというのも大きな理由としてあります。今は、スマホを通してすぐ音楽が手に入る時代なので、テレビでやる意義はないんじゃないか、スマホで見れば良い、という意見も当然あると思うんですけど、生中継でまさに今行われている、同じ時間軸でやっているものを流すというのを、この規模でできるのはテレビしかないな、と。それは生でやる大きな意義だと思うんですよね。


 あとは、テレビの音楽番組を見ていると熱がないというか。ライブに行くとみなさん楽しそうに歌っていて、ものすごい熱量がある。音楽番組で歌っている時も、もちろんそのライブと同じような熱量で歌っていると思うんですけど、それがどうも伝わらないな、と。だから、それをテレビで伝えるにはどうしたらいいのかを考えました。今までの音楽番組は、テレビ局がキャスティングして、曲を決めて、打ち合わせをして、リハーサルをして、本番、というちょっと段取り的なところもあったりして。だから、この番組では出演する方々にもライブだと思ってきてもらいたいな、と。ご自身のライブってやっぱり気合も入るし、テレビで歌っている時よりいい表情だなと思うことも多いんですよね。「やっぱりあの番組に出てる時のアーティスト、いい顔して歌っているね」と言われるような番組を作りたいなと思っています。


 久米宏さんの『久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった』という本があります。もちろん『ザ・ベストテン』も中継がありましたけど、寒さ暑さも含めて、色々な時世のニュースをオープニングトークでしていた、とその本の中でおっしゃっていて、その言葉がすごく印象に残っています。生ってニュースだよな、と。中継だと、そこで起こっていることや天候も含めて、その絵の中で見えるから、それも含めてニュースなんだと思います。それってスマホで見ている映像や、耳で聞いているだけの音楽とは違うんですよね。生ならではの熱や情報、ニュース性をテレビの向こう側で感じてもらえると嬉しいです。


ーーアーティスト側から、ゴールデンプライム帯で音楽番組をやってほしいという声はあったんでしょうか。


竹永:そうですね、みんなが思っていたところじゃないですかね。TBSで言うと『うたばん』(1996年10月〜2010年3月)があって、『ザ・ミュージックアワー』(2010年4月〜9月)、『火曜曲!』(2012年4月〜2013年9月)になって。その後ずっとやっていませんでした。音楽番組の黄金時代はやっぱり、『HEY!HEY!HEY!』(1994年10月〜2012年12月/フジテレビ系)と『うたばん』があって、その前で言うと『ザ・ベストテン』(1978年1月〜1989年9月)、『トップテン』シリーズ(1969年〜1990年/日本テレビ系)じゃないですか。『Mステ(ミュージックステーション)』(テレビ朝日系)はずっと続いてますけど、それ以外の音楽番組ってあんまりなくて。特番だと、アーカイブを使ったり、メドレーをやったり、という派手さなど、数字の面でも様々な演出を取り入れることができるため視聴率が良い。レギュラーの音楽番組は、まだ世の中に出ていない新曲をどんどん見せるので、視聴率という意味では非常にシビアな戦いになると思うんです。ずっとブレずにやっていくことが長く愛してもらえる秘訣になるかもしれません。


ーーライブパフォーマンスに加え、打ち合わせやリハーサルといった裏側もオンエアするということですが。


竹永:歌う前に打ち合わせの様子を放送して、そこでアーティストの思いや、普段ステージ上では見えない素顔を見せて、こういうキャラクターの人なんだ、というのも含めて見てもらって。そこからパフォーマンスに行くと、その曲のこともより理解して聴けるからいいんじゃないかな、というのが裏側を見せる意味だと思いますね。ライブの打ち合わせって、どういうライブにするか、5分、10分の持ち時間の中でその人の歌を一番伝えるためにはどうすればいいか、アーティストが自分でアイデアを出すじゃないですか。この番組では、一緒に作りましょうというのが大きなコンセプトで。アーティストがどんな風に考えていて、どういう思いで作った曲なのかは僕らも知りたい。それを伝えてもらった上で、こういう演出がしたいという希望にできる限り我々も応えて、最高のステージを作りましょう、という思いです。


ーーアーティストからの演出への要望などはどこまで聞き入れていくんでしょう。


竹永:ケースバイケースですが、基本的には一緒に作りましょう、とにかくこのライブを盛り上げるにはどうしようか、と相談しています。だからみなさん、アイデアをあげてくれますよ。ヒゲダン(Official髭男dism)さんは、ライブならではの編成で、ツアーに先駆けてこの番組で披露してくださいます。ライブバージョンで「宿命」と「I LOVE…」をやってくれるんですが、曲順もすごく一生懸命考えてくれました。あと、『CDTVスペシャル!卒業ソング音楽祭2020』(3月16日放送)では、乃木坂46の白石(麻衣)さんから、今まで撮りためた写真がどこにも出ていないから、メンバーとの写真を出したい、とリクエストがあって、その希望を叶えました。コブクロさんは「卒業」という新曲でしたが、無観客だったから、テレビの前でまさにライブを見ているように見て欲しい、ということで相談して、ワンカットでオンエアしました。だから会場の客席からコブクロさんを見ている目線でカメラを固定して、フルサイズ丸ごとやったんですけど、視聴者もスタッフからも反応がよかったですね。


■目先の視聴率ではなく、10年先にこの番組が愛されているかどうか
ーーレギュラーとなると特番とは違って、新曲をリリースするたびにアーティストが出演すると思いますが、それ以外の企画なども考えていますか?


竹永:どのアーティストが出たとしても、見てもらえる番組にしたい。そのためにはキャスティング次第で見る番組になったらダメだと思うんですよね。だから、頭はもちろんライブから始まるんですけど、途中で必ず日本全国どこかの街から中継を入れます。それは「出張ライブ!ライブ!」というコーナーで、例えば今だったら夜桜が綺麗、とか、夏には夏を感じられる場所だったり、時制に合わせてできればと思います。また、情報番組だとエンタメニュースはあるんですけど、1週間の音楽ニュースをまとめているところって意外とない。音楽でも1週間、こんなアーティストが実はこんなところでバズった、とか面白いことがたくさんあるんですよね。意外と知らないと思うので、そういう音楽ニュースを毎週入れて行こうと思っています。そして、毎週番組の最後に「名曲ライブ!ライブ!」というコーナーも予定しています。日本を代表するアーティストが、日本を代表する名曲を最後にカバーして、良い曲を聞いて毎週番組が終わっていく。


 この番組はもともとライブハウスという設定なので、“終わらない番組”を作りたいなと思っていて。生放送で普通だったら、何時から何時までなのでここで終わりです、と終わっちゃうんですけど。この番組は“生中継”で、ライブハウスで起きていることを中継しているんです。理想としては、最後にきっちり終わるのではなくて、「名曲ライブ!ライブ!」が終わったら、今夜来てくれた観客だけのために今日出演してくれたアーティストの中から誰かが1曲歌ってくれる。その途中で終わるんです。スポーツ中継で、延長戦になって最後まで放送できないことがあるじゃないですか。あの感じで毎週終わりたいんですよね。放送できなかった様子は深夜の『CDTVサタデー』や、YouTube、Instagramも含めてウェブで発信しているのでそちらで見られるようにしたり、というのをこれからやっていきたいですね。


ーー新たなアーティストを発掘していく予定は?


竹永:まさに、注目のアーティスト紹介「ゲキ押し!」というコーナーも毎週やる予定です。『卒業ソング音楽祭』(3月16日放送)では秋山黄色さんに出てもらいましたが、彼のようにまだ広く世に出ていないけれど、次に売れそうだというアーティストを、専門家の人たちにピックアップしてもらって。そこから生まれるスターが必ずや出るはずだと思っています。このコーナーは、僕もすごく新鮮なんですね。僕はそんなに音楽通ではないので、むしろフラットでいようと思っていて。僕自身が「へぇ」と思うことを皆さんにも伝えたいなというのが一番です。


 テレビだと、その人の代表曲を歌ってもらおうとなりがちですが、この番組では新しい曲を聞いてもらう。その曲がすごくいい曲というのを伝えるためには、僕らがどれだけフリを作れるかが勝負だと思っています。あと、ライブ感を大事にしたいので、ほぼ全ての曲をフルサイズにします。今まで“テレビサイズ”がありましたが、なんでライブでしか全部聞けないのか疑問だったんですね。曲の盛り上がりや詞の世界観って、全部聞かないとわからない部分も結構あって。『卒業ソング音楽祭』でも一部でやりましたが、やっぱりフルサイズで聞くのはとてもいいなと思いましたし、なかなかテレビでフルサイズのパフォーマンスができる機会がないということで、アーティストにも喜んでもらえたので、これからも続けていきたいです。


ーー視聴者のターゲット層はどの辺りを想定されていますか?


竹永:10代から20代、30代など、若い方に見てもらいたいですね。僕はずっとスタッフに、目先の視聴率ではないよ、と言っていて。目先の視聴率を求めるなら、VTRを入れて、名曲のアーカイブを繋ぐ、ということもできるんですけど。そうではなくて、10年先、今10代の人が20代になった時にこの番組が愛されているかどうかでやっていこう、というのが大きなテーマなんですよね。まずは僕は10年先に後輩に渡す番組を作るというのが今回の使命だと思っていますし。そういう意味では、アーティストに出たいと思ってもらえる番組になることが1番大事かなと思うんですよね。だから、アーティストに愛を持って接しようとか、そういう雰囲気作りもしていこう、とにかく熱を伝えよう、とずっと言い続けていますね。


ーー各種SNSを開設するなど、ウェブ展開に力を入れている印象ですが。


竹永:毎日映像を作って公開して、頑張ってますよ。何人かに、音楽番組の未来になるかもしれないから新しいものを作っていこう、と声をかけて。あとはやりたいスタッフだけ集合してと言ったら、若いスタッフたちがみんなやりたいって、一生懸命やっていますよ。深夜も含めてうまく連動していきたいなと思っています。


ーー番組を通じて一番伝えたいことは?


竹永:難しいですね。もちろん音楽ではあるんですけど、その向こう側にはアーティストの思いや熱があるので、それをぜひ感じてもらえるといいな、と。そのために我々はどんなことでもしようと思っています。あと、月曜日の夜って「また明日からあるな」と憂鬱じゃないですか。だから、この番組を観て、良い曲を聴いて楽しい気分になってもらいたいですね。そして、この番組で良いと思った音楽を火曜日から通勤や通学の電車で聴いてもらえたらいいなと。音楽情報もたくさん紹介していきますし。


ーー最後に、この番組の一番の強みや魅力はどんなところにあると思いますか?


竹永:余分な要素がないことですかね。何よりアーティストが頑張らないと成立しない番組なので、それが他の番組とはだいぶ違うと思います。僕たちは、おそらくテレビで初めて「ノーカットフルサイズでいいですよ」とアーティストのみなさんにお伝えしています。視聴率という意味では、それが果たしていいことなのか悪いことなのかはわかりませんが、歌を大事にしていることを視聴者の皆さんに知ってもらいたい。この曲って後半はこんな風に盛り上がっていくんだとか、この番組でこそ楽しめる部分をぜひ楽しんで見ていただきたいです。(村上夏菜)


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