元ロッテ渡辺俊介が語る「野球と暴力」。鉄拳に頼らないベストな指導とは

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2020年03月30日 06:41  webスポルティーバ

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 野球界ではかつて、多くの選手がどこかで暴力の洗礼を受けてきた。それに耐えた者だけが、次のステージに上がることができると考えられてきた。残念ながら、令和になっても、その空気は残っている。

 暴力的な指導、上級生から苛烈ないじめを受けても、選手たちは野球を続けるために耐え忍ぶ……高校、大学、社会人野球などで厳しい戦いをくぐり抜けたプロ野球選手は、野球界に残る暴力をどう考えているのだろうか? 現在、日本製鉄かずさマジック監督を務める渡辺俊介に聞いた。

* * *

 千葉ロッテマリーンズで通算 87 勝を挙げ、日本代表としてオリンピックやWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でも活躍した渡辺俊介も、暴力の洗礼を受けたひとりだ。1976年8月生まれの渡辺は、國學院栃木(栃木)から國學院大學、社会人野球の新日本製鐵君津を経てプロ野球選手になった。その渡辺が書籍『野球と暴力 殴らないで強豪校になるために』(元永知宏・著/イースト・プレス刊)のなかで率直に語っている。

「野球指導の場で暴力がダメだというのは、いまに始まったわけではない。昔からそうだったはずです。でも、厳しい環境で耐えた人間を社会が求めたという部分はあったでしょう。『愛のムチ』に対して理解もあった。だから、しつけとしての暴力、教育としての暴力が容認されたんじゃないでしょうか」

 高校時代に父親が野球部のコーチをつとめていたこともあって、渡辺は厳しく鍛えられた。昔気質(むかしかたぎ)の父親は、ほかのチームメイト以上に息子に厳しく当たった。

「期待する選手に特に厳しくする。当時は、そこに愛があればいいと考えられていましたよね。うちの父親もムチャクチャ厳しくて……よく殴られましたが、当時の指導方法としては間違っていなかったと思います。確かに愛情を感じていましたし。ただ、受ける側がそう感じられなければ、やっぱり暴力なんですよね」

 渡辺は高校時代、小関竜也(元・西武ライオンズなど)の控え投手だった。大学でもエースではなかった。

「大学2年の春から、東北高校や仙台育英(ともに宮城)の監督だった竹田利秋さんの指導を受けました。『竹田さんは厳しい』という噂を聞いた部員のなかにはやめようとした人もいて、部内がざわつきました。でも実際は、ほとんど殴られることはありませんでした。基本的には、言葉での指導でした」

 竹田は東北、仙台育英を率いて甲子園で通算 30 勝を挙げた名将。教え子には、佐々木主浩(元・シアトル・マリナーズなど)、斎藤隆(元・ロサンゼルス・ドジャースなど)、大越基(元・福岡ダイエーホークスなど)らがいる。

 この30年で、選手たちの気質は明らかに変わった。額に剃り込みを入れたり、眉毛を剃り上げたりする球児はもういない。

「昔はテレビドラマの『スクール☆ウォーズ』のような世界もあったでしょう。野球界だけでなく、ラグビーでも相撲でも。悪いことをしたらダメだということを、体で覚え込ませる必要があったのかもしれません」

 暴力を含む厳しい指導には、メリットもないわけではない。

「僕の場合、よかったところを挙げるとすれば、暴力に対して耐性がついたこと。以前は、野球を続けるうちに暴力的な指導者に当たる可能性が高かった。免疫がついていましたから、そういう方に対しても臆さず、正面から渡り合えた。それは、父から厳しくされたおかげだったと思います。大学時代の竹田監督も、社会人時代の應武篤良監督も、厳しい指導者でしたから」

 では、デメリットは何か? 渡辺は”メリット”と表裏一体となる事柄を挙げた。

「殴られるという恐怖を感じたことですね。父の場合、『これをやれ!』と言う人ではありませんでした。面と向かって考えさせられる時間が長くて、反射的に『はい』と答えると『はい、しか言えないのか』と怒られる。殴られる恐怖を感じながら指導者と向かい合う時間は、実際以上に長く感じました。特に礼儀やあいさつに関しては厳しかった。あのやり方はいま、絶対に通用しないですね」

 もし暴力的な指導が有効なのであれば、例えば、陸上競技100メートルを走る選手をスタート前に叩けばいい。指導者が選手を怒鳴りつけてタイムを縮めることが可能なら、みんなそうするはずだ。競泳でも同じことが言える。当たり前だが、指導者がビンタをして気合を入れても、恐ろしい言葉で叱りつけても、いつもより速く走れるはずも泳げるはずもない。

 だが、野球のグラウンドでは罵声が飛び、ミスをした選手を張り倒す監督やコーチがいる。それはなぜなのか。暴力的な指導が入り込むのは、野球という競技の特性が影響しているのではないかと渡辺は言う。

「対戦型の競技は、あいまいな部分がものすごくたくさんある。『うまい選手は?』『強い選手は?』と問われても、答えはいろいろ。足が速いのと状況判断がいいのとではまた違う。『勝負強さとは?』と聞かれても、答えはひとつじゃない。暴力への耐性があるというのも、ひとつの才能と言えますよね。個性とも考えられる。高校野球もそうでしょうが、トーナメントで戦う社会人野球は一発勝負に強い選手が欲しい。強い選手をつくるためには、厳しくするのが手っ取り早いんです」

 理不尽なことを経験させることで、短期間での成長が見込める。しかし現在、日本製鉄かずさマジックで監督として選手を指導する渡辺は、そのやり方に否定的だ。

「少し前までの社会人野球では、選手にそういうことをさせるところが多かった。でも、僕はやりたくない。じゃあどうすればいいのか、その方法をずっと探しているんです」

 渡辺は、日本代表として2000年シドニーオリンピックに出場、その秋のドラフト会議で4位指名を受け、マリーンズに入団した。2004年からは、メジャーリーグで経験を積んだアメリカ人監督、ボビー・バレンタインのもとでプレーした。

「暴力をふるうことが厳しさではありません。ボビーは選手とコミュニケーションを取る監督でしたし、暴力的なことはまったくなかった。でも、とても厳しい指導者でした。彼は絶対に許さないということがはっきりしていて、その線を越えたらアウト。暴力的なことでしか厳しさを出せないとしたら、その人は指導者とは言えないんじゃないでしょうか」

 暴力的な指導は許されない。ならば、どうすればいいのか?

「指導者が勉強するしかない。自分の経験だけでは選手の指導ができないのなら、なおのことです。僕には平岩時雄さんというトレーニングやコーチングの師匠がいます。陸上競技の110メートルハードルの日本記録を持っていた方です。僕は大学時代、教わったことができないタイプだったので、平岩さんにお願いして、どうすれば思い通りに体を動かせるかを教わりました」

 その平岩が、渡辺には誰よりも怖かったと言う。

「平岩さんの練習はものすごく厳しくて、手が抜けないんですよ。殴られたことも怒鳴られたことも一度もありません。それでも、怖いコーチなんです。『このへんでサボりたいな』と思った瞬間、すぐに気づかれる。何かを言われるわけではないけど、甘えた気持ちがバレたことがわかる。すべて見抜かれているという怖さがありました。平岩さんとトレーニングをして、殴らなくても、怒鳴らなくても、厳しい指導ができるということを知りました」

 日本の野球界には、指導者のためのライセンスがない。

「だから、どのコーチも、自分で学んできたことを選手に教えています。何が評価されるかと言えば、結局はチームや選手の成績ということになってしまうんですね。そういう評価の方法では、コーチはなかなか育ちにくいのではないでしょうか」

 渡辺には、プロやオリンピックでの経験がある。アメリカ、ベネズエラで学んだことも多い。それらをベースに、最新の野球理論やトレーニング方法をミックスしながら、指導を行なっている。

「初めのうちは、選手がわかるまで何度でも言い聞かせるのがいいと思っていたんですが、それはそれで非効率的かなと思うようになりました。選手が自分で発想して、考えて行動した時が一番覚えがいいし、成果も出る。だから、そういう環境をつくろうと心がけています」

 社会人野球では、高校卒業後に入社する18歳の選手もいれば、大学を経由して入ってくる選手もいる。体の成長度合いも、野球選手としての成熟度もさまざまだ。

「それまでの鍛えられ方もいろいろです。もちろん性格はみんな違う。コーチの仕事は、その選手に合った練習法を選ばせることではないかと考えるようになりました。その先の段階では、自分なりの方法を生み出してほしい。だけど、現段階では『AとBとCがあるけど、自分には何が必要だと思う?』と提示しています。目の前に選択肢を出して、『うまくなるためにはどうすればいいのか?』を考えさせようと」

 プロ野球で十数年もプレーしているベテランなら別だが、普通の選手は、練習メニューは与えられるもので、選ぶものだとは考えていない。だから当然、初めは戸惑う。

「選手ははっきりと言いますよ、『これをやれ!』と言われるほうが楽ですと(笑)。エクセルで練習メニューを共有しておいて、ある程度の時期になったら、それがうまくいっているかどうかを選手と話します。

 たとえば、体重移動がうまくできないピッチャーがいるとします。それを直すためのトレーニングを僕も考えますが、『どんな練習でもいいから、自分で考えてこい』と言います。その選手の考えたものが間違っていてもいいんです。技術をつかむための練習だったら、ケガさえしなければマイナスではないので。いまは自分でつくりだすということを選手たちにやらせているところです。ストレッチもそうですが、自分の体と相談しながらでないと、絶対に効果は出ません」

 自分にとって必要な練習は何か。暴力や暴言なしで成長するために、最短で効果が出る方法をなるべく早く見つけなければならない。選手にとっても、指導者にとっても、大きな課題だ。

「いまは、指導者が急激に伸びている時期なんじゃないでしょうか。昔のように朝から夜まで練習できるわけじゃない。選手の気質も変わっている。もちろん、暴力的な指導もそうですが、指導自体を考え直さないといけない時期なので、逆に工夫しがいがあります。

 ピッチングを覚えるためには、ある程度の回数は必要なんですよ。投げなければうまくならないというのは、もちろんある。だから、特に投げることに関しては、しっかりと見守ることと、見極めることがコーチには必要なんだと思います。投げる感覚をつかむには投球数が必要で、多く投げることが全部間違いだとは思わない。その選手に合った技術、練習方法を提供するのがコーチの仕事。そのスキルが求められているんじゃないかなと思います」

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