『PSYCHO-PASS サイコパス 3』にみる押井守へのリスペクト 草薙素子と慎導灼は何が違う?

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2020年04月01日 08:01  リアルサウンド

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写真『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』(c)サイコパス製作委員会
『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』(c)サイコパス製作委員会

 全ての人が生きる指針を見つけ、潜在的に犯罪に手を染める者を、システムで判断することによって治安維持が果たされる社会。そんな中で正義のあり方や、人間の生き方を説いた『PSYCHO-PASS』シリーズの新作が公開された。近未来SFの世界を舞台としたポリティカルフィクションということで、押井守監督の“ゴースト”との比較を余儀なくされているシリーズでもある。今回は押井守との向き合い方という視点から『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』を考えていきたい。


参考:『ガルパン』『サイコパス』『スパイダーバース』も 音響監督・岩浪美和に聞く、映画の音の作り方


 『PSYCHO-PASS』は2012年に第1期が放送され、劇場作品やTVシリーズも3期まで制作されている、フジテレビのノイタミナ枠を代表する作品だ。東京アニメアワードフェスティバルが開催した歴代ノイタミナ作品のファン投票では、2010年度から2014年度に放送された作品の中でも、第1位を獲得するほどの人気を誇っている。第1期、及び『劇場版 PSYCHO-PASS』では『踊る大捜査線』などの本広克行が総監督して関わっており、SF描写とともに本格的な刑事ドラマが高く評価されている。


 『PSYCHO-PASS 3』のTVシリーズは、ビフロストと呼ばれる謎の組織の暗躍を追う公安局刑事課1係の活躍がメインの物語となっている。SF作品ではあるものの、移民問題をテーマの中心におき、現代の日本でも関心の高い問題を描いている。それらの描写からはヘイトスピーチをはじめとして入管施設の問題、不法在留外国人の問題などを連想させ、フィクションのエンターテインメント作品でありながらも、社会派作品としての側面を強調した。


 その中で印象に残るのは、灼とイグナトフのバディだろう。ロシア系移民の二世であり、帰化をしているため国籍上は日本人でありながらも、差別的な対応をされてしまうイグナトフと、日本人である灼の関係性には、ルーツがどこであろうが個人の関係に影響を与えることはないというメッセージを感じた。また、小宮カリナ都知事が所属する党の方針により、最も信頼する秘書のアン・オワニーを解雇せざるをえなくなったものの、立場や大人の事情を超えた友情を描いて見せたことで、移民問題の融和的解決という希望を描いた作品としても評価できる。


 Prodaction.I.Gは、Netflixとの業務提携を結ぶなど、積極的に海外展開を狙うアニメスタジオの1つだが、この差別や移民問題などの社会的な問題を取り入れる視点は、海外展開を狙う上で欠かせないものだろう。『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』は劇場公開日の12時からAmazonプライムにて全世界に配信を開始するという、異例の対応を行っている。それだけ世界市場に目を向けている作品であるからこそ、日本国内の差別問題を取り入れ、その上で希望を描くことによって、単なるエンタメ作品の枠組みを超えて社会的な視線に考えさせられる作品となっている。


 本広克行は『PSYCHO-PASS』の企画を立ち上げた当初から、現代版『機動警察パトレイバー』を作ろうとしていたことを、各種インタビューで明かしている。そこに脚本として参加した虚淵玄などと共に構想を練った結果、『ブレードランナー』をコンセプトとした、基本的な世界観が出来上がっている。


 Prodaction.I.Gが制作したSF作品といえば、多くの方が連想するのは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』や『イノセンス』などの押井守監督作品ではないだろうか。押井自身もリドリー・スコットの熱烈なファンであり『ブレードランナー』などの影響を、多く受けていることを公言している。そして『機動警察パトレイバー the Movie』なども監督していることを考えると、本作が結果的に押井守監督作品の延長線上にあることは疑いようがない。


 今回劇場にて公開された『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』には、明らかな押井守作品への模倣や言及が感じられた。オープニング後のイグナトフが家で妻と食事をするシーンなどの質感に『イノセンス』などの押井作品を連想するとともに、作中で登場するダンゴムシと呼ばれるドローンの戦闘シーンや、コミカルなAIであるコミッサの言動からは『攻殻機動隊』シリーズのタチコマを連想する。


 人の心理状態などを読み取り、犯罪の可能性がある人物をすぐさま判断できる、作品世界では絶対的な存在であるシビュラシステムが、AIであるマカリナに被選挙権を認めたことが大きな転換点となっている。これはシビュラシステムがAIであるマカリナを生命として認めた、とも受け取れるものであり、人の手による新たなる生命の誕生と解釈することもできる。このテーマは『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でも描かれており、新たなる生命体としてネットの海に飛び込んでいった草薙素子を連想させるものだ。本作は、『PSYCHO-PASS』シリーズに多大な影響を与えた押井守作品の要素を組み込むことで、世界へのアピールを行うと共に、原点に立ち戻ろうという意思を感じさせる。


 一方で、草薙素子と慎導灼は違う道を選んだ。新たな生命として生まれ変わることを選択した草薙素子と対照的に、シビュラシステムに左右されることなく、引き金を弾くことを選べる人間の意思を信じた慎導灼。この差こそが『攻殻機動隊』シリーズと『PSYCHO-PASS』の、最大の違いとなるのではないだろうか?


 今作において『PSYCHO-PASS』の物語の多くには決着がついたものの、一部の謎が明らかになっていない。謎を明かさずに次回作へと引っ張る手法が多いように感じられ、若干のモヤモヤとした疑問点こそ残るものの、ここでピリオドを打つことなく、今後も続編を制作する気概を感じさせられた。その際に、世界展開を見据えた『PSYCHO-PASS』シリーズがどのような変化を遂げるのか注目したい。


 最後になるが、『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』は、TVシリーズの完結編としての側面もありながらも、押井作品に言及することで“映画”であることを強調しているようにも感じられた。新型コロナウイルス感染症の影響で、なかなか劇場で鑑賞するのは難しいかもしれないが、劇場で観てこそ真価を発揮する作品だろう。落ち着いたタイミングで改めて上映の機会を設けていただきたいと切に願う。


■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。


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