介護福祉士・モデルの上条百里奈さん「高齢者になるのも悪くない、と思ってほしい」

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2020年04月02日 11:30  AERA dot.

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写真かみじょう・ゆりな/1989年生まれ。介護福祉士・モデル。白梅学園大学非常勤講師。東京大学政策ビジョン研究センター研究協力者(撮影/写真部・小黒冴夏)
かみじょう・ゆりな/1989年生まれ。介護福祉士・モデル。白梅学園大学非常勤講師。東京大学政策ビジョン研究センター研究協力者(撮影/写真部・小黒冴夏)
 高齢化にともない、介護を求める高齢者とその家族は増えています。その一方で、供給側である介護職の高齢化も進み、訪問介護では平均年齢が55.5歳という調査もあります(全国労働組合総連合『介護労働実態調査 報告書』)。そのようななか、インスタグラムなどを利用して若い世代に向けて介護職の魅力を発信する介護福祉士の上条百里奈さん。

【写真】介護福祉士でモデルの上条さんの別カットはこちら
 
 介護施設で働きつつ、モデル活動も行っています。伝えたいのは、意外にも「介護職を増やしたい」ということではないそうです。

*  *  *
 私は介護福祉士として、小規模多機能型居宅介護事業所と特別養護老人ホームで合わせて週3日働きながら、週1日のペースでモデルの仕事もしています。また東京大学の政策ビジョン研究センターで、介護の労働環境、とくに労働者の健康について研究をしています。

 介護に触れたきっかけは中学時代の職場体験です。もともと医療関係の仕事に就きたいと思っていました。医療を希望しましたが、介護も医療と近い世界なので、施設での介護体験を選びました。

 介護の現場はとても居心地のいいものでした。介護を受けている高齢者の方は人を条件付きで判断せず、私がただ存在していることがうれしいのだと伝えてくれるからです。ただそばにいるだけで「偉いね」「疲れたでしょ、お茶飲んでね」と自然と仲間に入れてもらえる。役に立ったという感覚がないのに感謝さえしてくれるのです。初めて家族以外に、自分の存在そのものを認めてもらえた気がしました。

 あるおばあちゃんの食事介助をしたときのことです。施設の職員の方からは「これが最後の晩餐(ばんさん)かもしれないんだよ」と言われました。「この方たちは皆さんご高齢なので、明日死んでもおかしくない。だから大事に」と。その責任の重さに動揺してしまいました。自分のような子どもの勉強のためにやらせてもらっていい仕事なのだろうかと。

 実際にやってみると、口に食べ物を持っていくタイミングがおばあちゃんとまったく合わないんです。結局、食べ物の半分以上を床に落としてしまいました。しかし、おばあちゃんは満面の笑みで「おいしかったよ、ありがとうね」と言ってくれました。その対応がとてもかっこよく見えて、「大人ってこういう人のことなのか」と思ったのを覚えています。

 20歳で短大を卒業し、介護の仕事を始めました。仕事でつらいことはいっぱいありますよ。とくに初めてお看取りをしたときは「やめたい」とさえ思いました。朝、一緒にご飯を食べた人が、10時半ごろにお昼を誘いに行ったら、もう亡くなられていました。

 突然のショックで、その場を飛び出し、別の部屋にいる寝たきりのおばあちゃんに飛びついて、泣いてしまいました。おばあちゃんは突然の私の訪問に驚いていましたが、死を身近に感じている人に、今の出来事を話していいのかわからず、理由は言えませんでした。……私はただ泣くだけです。

 にもかかわらず、そのおばあちゃんは私の頭を優しくなでてくれました。唯一動く左手で、2時間も泣きやむまで。人が亡くなる現場にいることがこんなにもつらく苦しいのなら、私には介護の仕事は向いていないのかもしれないと思いました。しかしこの2時間がとても大きかった。この経験がなければ、介護をやめていたかもしれません。あのとき私を支えてくれたのは、手足が動く誰よりも、寝たきりのおばあちゃんだったのです。

 どうしてこんなに優しくできるのでしょう? あるおじいちゃんからは、「介護を受けるようになってからずっと死にたいと思っていた。でも、あなたに出会って、また生きたいと思えるようになったんだよ。ありがとう」と言われたことがありました。決して私の介護技術が特別高かったわけでもなく、もちろんモデルをしていたからでもありません。ただ一つ確かなことは、私自身がその人と会えることが楽しみでしょうがなかったということです。

 高齢になり要介護状態になると、友達や家族など、自分の存在を心から喜んでくれる人との接点は自然と減っていきます。体が不自由になったり配偶者が先に亡くなったりして、孤独感や喪失感などと葛藤する中で、自分の存在を心からうれしいと感じてくれる人がいる。それを感じてくれたことが、生きる意欲につながったと考えています。専門職として専門性の高いパフォーマンスをすることも大切ですが、存在が価値になるのが介護職だとも思います。

 高齢者に幸せになってほしいという気持ちは医師や理学療法士など、どの専門職も同じだと思います。しかし介護職が一番、感謝の言葉を言われるチャンスが多いと感じています。

 22歳の時にスカウトを受け、公共の電波を使って情報発信ができると思いモデルの仕事を始めました。介護は多くの人にとっては自分ごとではないですし、かなり遠いところにあるものです。モデルという切り口なら見てくれる人も増えるかもしれない。私のインスタグラムは介護の内容がほとんどですが、フォロワーの半分は介護職ではない人です。介護に興味のない層が少しでも興味を持ってもらえるといいなと思って活動しています。

 ただ、介護職を増やしたいというメッセージはありません。それよりも、介護のある人生のほうが豊かだ、ということを知ってほしい。

 100歳のおばあちゃんに、「100年生きた中でいまが一番幸せだよ」と言われたことがありました。不自由な生活を見ていた私は「どうして?」と聞いてしまったのですが、おばあちゃんはこう言って笑いました。

「この100年たくさんつらいこともあったけどね、つらかった思い出は全部いい思い出になるんだよ。今までの良かった思い出は、もっともっといい思い出になるんだよ。あなたも100歳になったらきっとわかるわ」

 今どんなにつらく苦しいことがあっても、100歳まで生きればそれがいい思い出に変わるときがくる。そしてそれを証明してくれるおばあちゃんたちがいる。だからこそ、高齢者が生き生きとしている姿は若い人の生きる希望になるのではないかと思い、発信を続けています。

【プロフィール】
かみじょう・ゆりな/1989年生まれ。介護福祉士・モデル。白梅学園大学非常勤講師。東京大学政策ビジョン研究センター研究協力者。

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  • 失礼だけどモデルとの片手間介護労働と常勤は違うと思いますけどさ
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