『ハケンの品格』大前春子は今の日本をどう生き抜く? リーマンショック、東日本大震災後の生き方

0

2020年04月04日 11:01  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

『ハケンの品格』(c)日本テレビ

 春ドラマの目玉の一つ、篠原涼子主演『ハケンの品格』(日本テレビ系)が4月15日よりスタートする。2007年に放送されて平均視聴率20.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した大ヒットドラマの13年ぶりの続編ということになる。


 昨秋には阿部寛主演の『結婚できない男』(2006年/カンテレ・フジテレビ系)の13年ぶりの続編『まだ結婚できない男』が放送され、今夏には同じく阿部寛主演の『ドラゴン桜』(2005年/TBS系)の15年ぶりの続編『ドラゴン桜2(仮)』が放送予定だ。いずれもリメイクではなく、続編ということがミソ。では、なぜ今、2000年代に話題を呼んだヒット作の続編が制作されるのだろうか?


【写真】13年前の篠原涼子


 もっとも大きな理由は、「視聴率が見込まれる」からだろう。ドラマ評論家の成馬零一氏も「過去のヒット作の続編しか企画が通らなくなっている厳しい台所事情」を指摘している(参考:4月期ドラマ、なぜ続編モノばかりに?)。同じく春ドラマの目玉であり、大ヒットした前作から7年ぶりの続編となる『半沢直樹』(TBS系)は、放送終了直後から続編が噂されていた。放送局側としてはすぐさま続編を作りたかっただろうが、さまざまな事情があって今シーズンにずれ込んだと見られている。


 もう一つの理由は、「キャラクターの魅力」だ。『ハケンの品格』の主人公・大前春子(篠原涼子)は、抜群の事務処理能力のみならず、スペイン語とロシア語が堪能で、クレーンの資格やふぐ調理師、さらには核燃料取扱(!)などの資格を持つスーパー派遣社員。無口で無表情、絶対に残業はしない主義で、ナレーション曰く「彼女の辞書に不可能と残業の文字はない」。それでいて、後輩の派遣社員や同じ会社で働く同僚たちのトラブルを見過ごせない人情家の部分も持ち合わせている。


 大前春子のキャラクターは、その後の『家政婦のミタ』(2011年/日本テレビ系)の三田灯(松嶋菜々子)、『家売るオンナ』シリーズ(2016年、2019年/日本テレビ系)の三軒家万智(北川景子)などに受け継がれている。脚本の中園ミホが後に手がけた『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』シリーズ(2012年〜/テレビ朝日系)の大門未知子も、大前春子と同じく「一匹狼」と呼ばれるスーパーウーマンだ。


 むろん、「主演俳優が長く第一線で活躍している」のも理由の一つである。『ハケンの品格』の13年前のポスターと新作のポスターを比べると、篠原涼子の変わらなさにあらためて驚かされる。『結婚できない男』、『ドラゴン桜』の阿部寛も同じように10数年以上、見た目も活躍の度合いも変わっていない。


 最後の理由が、「主人公と社会のかかわり」だ。魅力的なキャラクターが10数年後の現在、どのような行動をとるのか、社会の変化にどのように対応するのかが視聴者の興味を惹き、ドラマの骨格になる。恋愛ドラマよりも社会性が強いテーマを持つドラマのほうが、10数年後の続編は作りやすいだろう。


 『ハケンの品格』が放送された2007年は、リーマンショック直前で日本経済は好況に湧いていたが、2004年には労働者派遣法が改正されるなど規制緩和が続いており、非正規雇用の派遣社員は増加の一途をたどっていた(第1話の冒頭には「2005 派遣市場規模、4兆円突破」という字幕が出る)。格差社会が出来上がりつつある中、尊大な男性の正社員を女性のスーパー派遣社員の大前春子がやりこめるという展開に視聴者は喝采を送った。一方で、女性の貧困問題などはクローズアップされておらず、年収150万円足らずの派遣社員・森美雪(加藤あい)の生活描写にはリアリティがなかった。


 その後、リーマンショック、東日本大震災を経て、日本社会は大きく変化している。「派遣切り」が話題になったのは『ハケンの品格』放送後の2008〜09年だったが、格差社会は広がり、貧困問題、ジェンダーギャップの問題などもクローズアップされるようになった。若い非正規労働者はさらに厳しい立場に追い込まれている。1973年生まれの大前春子と同世代の非正規労働者を取り巻く問題もある。


 『ハケンの品格』新シリーズの第1話は、女性派遣社員(吉谷彩子)が社員からセクハラを受け、それを告発しようとした新人派遣社員(山本舞香)が軟禁されてしまう……というハードなものだ。「生きていく技術とスキルさえあれば、自分の生きたいように生きていける」という信念を持つ、ある意味、新自由主義の申し子のようなスーパー派遣社員の大前春子が、現実を取り巻く諸問題にどう立ち向かい、社会が抱える矛盾とどう折り合いをつけていくのだろうか。


 今、続編が観てみたい2000年代のドラマを挙げるならば、木村拓哉主演の『HERO』(2001年/フジテレビ系)を挙げる。すでに14年に続編が制作されているが、検察に対する不信感が蔓延する昨今、久利生公平が再び巨悪に挑む姿を見てみたい(2007年に公開された劇場版ではタモリ演じる悪徳国会議員と対決している)。


 天海祐希主演『女王の教室』(2006年/日本テレビ系)も続編を観てみたいドラマだ。「悪魔のような鬼教師」・阿久津真矢が現代の子どもたちとどう取り組むのだろうか。『池袋ウエストゲートパーク』(2000年/TBS系)は石田衣良の原作が今でも続いているので、宮藤官九郎脚本で再びキャストが結集した続編を観てみたいところ。脚本家・古沢良太の『ゴンゾウ 伝説の刑事』(2008年/テレビ朝日系)も続編を観てみたいドラマの一つだ。


 時代の変遷によって社会が大きく変わっていく中、かつて活躍していたヒーロー・ヒロインはどう立ち向かうのか――。今後も2000年代の人気ドラマの続編に注目していきたい。


(大山くまお)


    ニュース設定