「ラブフェチ」がTikTokで話題 HOWL BE QUIET 竹縄航太に聞く心境とこれからの曲づくり「恋愛は大きなファクター」

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2020年04月04日 12:01  リアルサウンド

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HOWL BE QUIET 竹縄航太(写真=林直幸)

 HOWL BE QUIETの楽曲「ラブフェチ」が、動画投稿アプリ・TikTokをきっかけに大きな注目を集めている。「ラブフェチ」はHOWL BE QUIETが2017年にリリースしたアルバム『Mr.HOLIC』の収録曲。恋人の元カレに対する複雑な感情をポップなサウンドに乗せたこの曲が、今年1月下旬からTikTok内で10〜20代のカップルを中心に支持を獲得。〈歴代の元カレたちよ〉という歌詞を使ったり、ダンサブルなリズムを活かした振り付け動画も増え続けており、TikTokでの総再生回数は500万回に迫る勢いだ。


 2月にYouTubeにアップされた「ラブフェチ」のOfficial Audioの再生数も50万回を突破。さらにLINE MUSICのランキングも急上昇するなど、その勢いはさらに増しているようだ。SNSを中心に注目を集める状況、そもそもの「ラブフェチ」という楽曲に対する思い、バンドの現状などについて、ボーカリスト/ソングライターの竹縄航太に今の声を聞く。(森朋之)


(関連:HOWL BE QUIET、コアラモード.、indigo la End……TikTokで再注目される楽曲の特徴は? “イメージの湧きやすさ”が鍵


■生きている限り、恋愛は切り離せないもの


ーー2017年にアルバム『Mr.HOLIC』の収録曲「ラブフェチ」がTiKTokで話題を集めています。


竹縄:1月の終わりくらいにマネージャーから「『ラブフェチ』を使った動画がTikTokで盛り上がっている」と聞いて。そのときは「そうなんだ。嬉しいですね」くらいだったんですが、その後Twitterのフォロワーもどんどん増えてきて。「これだけ聴いてくれる人がいるんだったら、こちらからも発信しよう」とOfficial Audioという形でYouTubeに楽曲をアップしたところ、再生数が一気に伸びたんです。本当にたくさんの人に届いているんだなという実感があります。


ーー3年前の楽曲がTikTokをきっかけに聴かれるなんて、予想外ですよね。


竹縄:ホントに。今回嬉しいと思うことが3つあって。まず一つはシンプルに、リリースから少し時間が経った曲が注目を集めたこと。いい曲かどうかの判断は、結局、リスナーに委ねるしかないと思っていて。もちろん自分たちは自信を持って届けているし、反応が薄かったとしても、間違ってないはずだと言い聞かせ、自問自答しながら曲を書き続けてきて。リリースから3年経ってこういう反応があったことは、やっぱりいい曲なんだなという自信になったし、勇気をもらえましたね。2つめは「ラブフェチ」が広まったことで、自分自身の思いを肯定された感覚があって。


ーーというと?


竹縄:「ラブフェチ」を書いた時点では、極論、“誰かにわかってほしい”よりも“自分を肯定したい”という気持ちが強かったんです。僕自身、誰かと付き合いはじめると、その人の過去の恋愛遍歴が気になってしまったり、過去の彼氏に対するネガティブな感情がどうしても生まれてしまって。それを口にしたら引かれるのはわかってるんだけど、自分はそういうタイプなんですよ。そういう思いをできるだけポップに、軽やかに歌い上げようと思ったのが、「ラブフェチ」だったんです。もともとは偏った愛情表現というか、「こういう思いを持っているのは、自分だけかもな」と思っていたけれど、TikTokにたくさんの人が投稿してくれたことで「同じだよ」と言ってもらえた気がして。「一人じゃなかった」というと大げさですが(笑)、背中を押してもらえました。


ーー曲を書いたときの思いをリスナーと共有できたと。


竹縄:はい。3つめは、自分たちの楽曲を視覚的に楽しめる形にしてもらえたことですね。カップルが楽しみながら踊ったり、口ずさんだりしてくれて。まさにそういうシーンを思い描きながら曲を作ってたんですよ。楽しそうなカップルの裏側にある感情というか。


ーー共通しているのは、「ラブフェチ」の歌詞をしっかり理解したうえで、動画を投稿しているということですよね。〈歴代の元カレたちよ〉の部分を女性のTikTokerが「歴代の元カノたちよ」と替えていたり。


竹縄:そうなんですよね。しかも〈歴代の元カレたちよ〉は2番のAメロの歌詞だから、みなさん、ちゃんと聴いてくれているんだなということも伝わってきて。ただリズムに乗っているだけではなくて、歌詞に沿った動画を投稿してくれているのが、すごくありがたいです。


ーーちなみにアルバム『Mr.HOLIC』を制作したときは、どういうモードだったんですか?


竹縄:今回「ラブフェチ」が話題になったことで、僕もそのことを改めて考えてみたんです。アルバムの前に「サネカズラ」という曲をシングルとしてリリースして、友達やバンドの仲間が「いい曲だね」と言ってくれて。そのときに改めて「恋愛って共通言語だな」と思ったんですよ。学生のときは自然と同じ話題で楽しめるけれど、大人になって、それぞれ環境が違ってくると、会話がかみ合わなかったりするじゃないですか。でも恋愛の話は、何歳になっても一瞬で盛り上がれるんですよね。誰かを好きになったり、悩んだり、心乱されたり。そういうことって、とめどなく溢れ続けているんだなと。そのことに気づいたときに、「だったら恋愛をモチーフにしたアルバムを作ってみよう」と思って制作に入ったのが、『Mr.HOLIC』だったんです。自分の経験や友達の話を含めて、恋愛に基づく喜怒哀楽を表現した作品でした。


ーーサウンドメイクにおいては、かなりポップに振り切ってますよね。


竹縄:サウンドプロデューサーにJeff Miyaharaさんに入っていただいたんです。「サネカズラ」の制作で初めてご一緒して、すごくいい感じだったから、アルバム全曲お願いしようということになって。サウンドのアプローチとしては洋楽ライクなイメージで、MIKAなどのアメリカンポップスを咀嚼して自分たちなりのスタンダードを確立させたいと考えていました。当時、日本のバンドでそういうサウンドメイクのアプローチをしている人たちがあまりいなかったので、実験的に自分たちの音楽に新しいものをどんどん反映させていました。


ーーバンド、J-POP、ダンスミュージックなどが融合したサウンドも、いまの若いリスナーと親和性があるのかも。


竹縄:そうだと思います。デジタル要素の強い曲、リズミカルで、キメがはっきりしている曲がよく使われている印象です。「ラブフェチ」とも共通項があると思います。King Gnuの「白日」、Official髭男dismの「Pretender」も正にそうですが、TikTokで盛り上がっているサウンド感が流行りものとしての一過性ではなく、若者の間で常識、当たり前になっていると実感しています。今回のことで改めてTikTokを掘り下げてみたんですが、めちゃくちゃ面白いんですよね。


ーーコミュニケーションツールとして、ということですか?


竹縄:はい。僕らが中学生のときは携帯電話はガラケーで「前略プロフ」というサービスが流行っていて、高校ではmixiが出てきて、その後もいろんなサービスが出てきています。この前、テレビ番組で「若者のLINE離れが始まっている」と言っていてビックリしたんですけど、時代に合ったサービスが次々と登場して、新たなコミュニケーションが生まれていますよね。そのなかでTikTokの面白さは、個人で完結できて、それを発信できることじゃないかなと。自分という人間を、音楽を使って表現できるというのかな。自由な解釈で歌詞をピックアップしたり、踊ったりして、すごく面白い動画がたくさんあって。最近だと、iriさんの「会いたいわ」という曲で、カップルのキスシーンを影で表現している動画がバズってたんです。付き合ってる二人が、「この曲でどう表現しようか」と考えて、あの動画を作ったわけだから、立派な作品だと思うんですよね。MVのアイデアになりそうな動画もたくさんあるし、すごく影響を受けています。


ーー「ラブフェチ」がヒットしたことは、HOWL BE QUIETの今後の活動にも影響がありそうですか?


竹縄:まさにそのことをメンバーやスタッフと話しているところですね。これまでの音楽人生のなかで、「自分たちの曲が届いてくれた」と初めて実感できた曲でもあって。もちろん今までも、曲をリリースするたびにリスナーが反応してくれて、いい感じでキャッチボールできていたと思うけど、想像を超えた広がり方という意味では、「ラブフェチ」が初めて。さっきも言いましたけど、「自分たちがやってきたことは間違ってなかった」という自信ももらえたし、だからこそ、次に何をするかが試されていると思っていて。どんなことを歌うのか、どんなメロディを綴るのかがますます大事というか。いろいろと考えてはいるんですが、やっぱり恋愛は大きなファクターになると思います。いまは一人で何でも楽しめるし、完結できる時代だし、LINEで告白するのも当たり前じゃないですか。でも、その一方で寂しさも感じているんですよね。人と人とのつながりが薄れてるんじゃないかなって。


ーーコミュニケーションにおいて、“恋愛はコスパが良くない”みたいな言い方もされますからね。


竹縄:そうですよね。でも、毎日新しい命が生まれてきて、こうやって世界が形成されているのは、たくさんの人たちが恋愛しているからだと思っていて。そう考えると、ちょっと安心するんですよ(笑)。生きている限り、恋愛は切り離せないと思うし、自分自身もそういう気持ちが強い。だからこそ、これからも恋愛を歌っていきたい。これだけは確信をもって言えますね。


ーー恋愛のなかで、いま興味を持っているテーマは?


竹縄:これまで書いてきていない女性目線の曲も面白いと思いますが、興味があるのは“浮気”ですね。浮気をするほうなのか、されるほうなのかはわからないけど、一度書いてみたい。恋愛と同じように、浮気も絶対になくならないじゃないですか。浮気に対する世間の興味も尽きないし、これからもあるんだろうなって。個人的にはなんでするんだろう、と思いますけどね。


ーーやめとけばいいのに、って?


竹縄:そう。僕は「(浮気は)めんどくさい」という考え方なんですよ。付き合っている女性がいたとして、他の人にまったく目が向かないかといえば、そんなわけはなくて。でも、そのことによって失われる日常や相手を傷つけてしまうリスクを考えると、あまりにもバカすぎるなって。でも、ぜんぜんなくならないのはどうしてだろう? っていう。


ーーなるほど(笑)。サウンドメイクの面ではどうでしょう?


竹縄:まずメロディがあって、そのなかで何を歌うか、という根幹は変わっていないですね。歌が中心にあって、「そこにどんな音を重ねるか」ということを枠にとらわれることなくやっていく。それは「ラブフェチ」でもやっていたことだし、改めて自分たちがやるべきことを確認できた感覚もあります。


■路上ライブにあるイレギュラーな楽しさ


ーーここ数年、竹縄さんは路上での弾き語りライブを行っていますが、それも「歌を届けたい」という思いの表れなんでしょうか?


竹縄:そうですね。はじめて路上ライブをやったのは、それこそ『Mr.HOLIC』をリリースした頃ですけど、その前からツイキャスでときどき生配信をしていて。弾き語りは自分にとっても特別なんですよ。裸一貫の表現だし、曲を作るときも、ギターかピアノを弾きながら歌うことが多くて。歌が生まれる瞬間を生で届けてみたいと思って、路上でも歌うようになったんです。厚みのあるトラックだと、コード感がわかりづらいこともあるじゃないですか。弾き語りで歌うことで、「こんなにきれいなコード進行に、こういうメロディが乗っているんだよ」ということもわかりやすく伝えられるかなと。音楽的な面をしっかり届けて、自分たちの楽曲をより深く知ってほしいという気持ちもありますね。


ーー路上ライブならではの楽しさもある?


竹縄:すごくありますね。初めてやったとき、たくさんの人が来てくれて。道行く人も巻き込みながら音楽を共有できるって、すごくいいなと思ったんですよね。ライブハウスは確かに非日常だけど、ライブをやるための場所だし、みんなもそのつもりで会場に来てくれる。そういう意味で路上は(ライブを行う場所として)イレギュラーなんですよね。お客さんにより近いところで歌えるのはとても貴重だし、ちょっといけないことをしている感覚もあって(笑)。できれば定期的に続けたいですね。


ーー竹縄さんの核にあるのは、やっぱり歌なんですね。トラックありきではなく、コード進行、メロディ、歌詞が基本になっている。


竹縄:そうですね。さっきも言いましたけど、まず歌があって、そこにどんな音を重ねられるかという順番なので。『BIRDCAGE.EP』(2014年)に「千年孤独の賜物」という曲が入っていて。もともとはピアノのリフと歌で聞かせる曲なんですけど、その後のライブで当時聴いていたアヴィーチーのテイストを取り入れたアレンジで披露したことがあります。EDMは基本的にコードが少ないけど、それとJ-POP的なコード進行の曲を組み合わせたら面白いよね、っていう発想で。しっかりとした歌があれば、そういったアレンジ面でのチャレンジもできるんです。僕自身、幼少期にSMAPを聴いたことが音楽の原点にあるので、遊び心のあるサウンドに興味があるし、やっぱり歌が好きなんですよね。


ーーそういえば、竹縄さんは2018年に、Sexy Zoneに「名脇役」を提供していますね。


竹縄:そうなんです。ジャニーズのアーティストと仕事ができることは、個人的にもめちゃくちゃ嬉しくて。「名脇役」も、ちょうど『Mr.HOLIC』の頃に制作した曲で、テンション感はつながっているかもしれないですね。自然と冒頭の〈どこにいても 何をしていたとしても〉というフレーズが出てきて、一筆書きのように出来た曲です。ファンの方にも受け入れてもらえて、すごくいい経験になりました。


ーーHOWL BE QUIETの今後の展開はどうなりそうですか?


竹縄:新型コロナウイルスの影響で大変な状況ですが、自分にも何か出来ることがあると思い鋭意制作中です。「ラブフェチ」の反響は僕自身大きな自信にもなったし、絶対に変えてはいけない部分、変えていかないといけない部分、次はしっかり焦点を合わせていきたいと思います。「ラブフェチ」が代表曲ではダメなんです。次に出す新曲が代表曲になると思うので、それまで楽しみにしていてください。


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