origami PRODUCTIONS 対馬芳昭氏が音楽シーンに起こしたアクション 楽曲無償提供、ドネーションを通じた思いを聞く

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2020年04月04日 21:11  リアルサウンド

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#origamiHomeSessions ロゴ

 新型コロナウイルス感染拡大防止のための自粛要請を受けたイベントの中止や延期が相次ぎ、いまだ収束の見通しが立たない状況で模索し続けるエンタメ業界。無観客で行ったライブ映像の配信を中心に様々な動きが生まれている。


 各所で試行錯誤の取り組みが広がる中、Ovall(Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴ)やKan Sano、Michael Kanekoらを擁するレーベル/マネジメント・origami PRODUCTIONSは3月30日、ライブができず収益が当面見込めないアーティストに楽曲を無償提供する「origami Home Sessions」を立ち上げた。


 その企画の内容は、origami PRODUCTIONS所属アーティストたちが提供するインストトラックやアカペラのデータを使って自由にコラボソングを制作することができるというもの。完成した楽曲はインターネットやSNSにアップしたり、リリースすることも可能。そして、楽曲の収益は全てリリースしたアーティストに提供するのだという。「origami Home Sessions」の発表後、プレイヤーやシンガー、ラッパー、またインディーズで活動するアーティストから高野寛といったベテランのアーティストまで数多くの音楽関係者が反応し、1週間ですでに多くのコラボソングが生み出されている。


 都内で週末の外出自粛要請が発表された3月末から4月にかけ、これまでより一層家で過ごす時間が増えた人は多いだろう。ずっと家にいると気が滅入ってしまいそうになってしまうが、筆者はこの企画の広がりをSNSで見ながら、目の前で新しい音楽が生まれていく楽しさ、音楽の可能性を感じさせてもらった。


 今回、origami PRODUCTIONSのCEOである対馬芳昭氏に電話で話を聞くことができ、「origami Home Sessions」への思いなどを話してもらった。その中でも「絶対に音楽は必要なものです」と力強く語るその言葉がとても印象的だった。(編集部)


「僕にとっての音楽や商売は、アーティストがいないと成立しない」
ーー「origami Home Sessions」での無料楽曲提供という試みが生まれた経緯を教えてください。


対馬芳昭(以下、対馬):(コロナウイルスが流行し始めた)最初は、ライブができない状態に対しても「何でダメなの?」と疑問に思っていましたが、ライブハウスが「3密」という場所にあたることや色んな状況が見えていく中で「今ライブハウスでライブはできないんだ」と強く認識するようになり、今となっては音楽業界も「家にいて、一刻も早い収束を待つことが最善だ」という共通項を持つようになりました。その中で僕たちも「家で何ができるか?」を模索し始めました。origami PRODUCTIONSのアーティストたちは、楽曲制作やプロデュース作業、ライブ出演の準備で自宅での作業をすることも多く、言ってしまえば“テレワーク”的な動きが元々多かったんです。事態がいつどうなるか分からない中でもっとも深刻な状況なのは楽曲制作サイドよりもライブを主体に活動している人たち。(ライブの)サポートミュージシャンやPA、照明などのスタッフは今どうしようもなくなってきていて、origami PRODUCTIONSもいずれお仕事がどうなっていくかはわかりませんが、「今すぐに補償が必要かどうか」を現時点で考えると僕たちは急務ではないな、と。じゃあ、僕たちから何か手助けになることができないかとアイデアを考えた中の一つが「origami Home Sessions」でした。


ーー自粛要請を受けて以降、無観客ライブやライブ映像の配信など音楽リスナーに向けた様々なコンテンツが生まれている中、今回の試みにはどのような思いが?


対馬:origami PRODUCTIONSのアーティストも、ライブが当然中止や延期になったのですが、そうなると会場の費用やサポートミュージシャンに対する補償をどうするのか、各所色んな調整が必要でした。たとえば、origami所属のアーティストがライブをするときにもサポートしてくれるプレイヤーたちがいる。僕らとしては本当に今すぐお金が必要で家賃が払えなくなったりするミュージシャンがいるのを放っておけないですし、全額ではないですが一人ずつに対して補填をしたんです。ミュージシャンは楽器を商売道具として何よりも大事にしていると思いますが、プレイヤーではない僕にとっての“商売道具”はアーティストであり、彼らがいないと成り立たないんですよね。今回のことがあって、強くそのことを再認識したんです。なので、origamiのアーティストが無償で楽曲提供することによって、誰かの商売が成り立つのであれば、楽曲を手放せるかどうかが一つの試練というか、今試されていることなんじゃないかなと思ったんです。


ーー企画発表後、反応したアーティストやリスナーによってすごい勢いで拡散されていましたが、反響を受けていかがですか?


対馬:まさに僕たちが思っていたことが起きているなと思いました。面白かったのは、スピード感を大事にしてデモ状態でもSNSに上げるアーティストもたくさんいたというのがインターネットらしいなと思いました。アーティストの中には新人もいれば、高野寛さんのような大先輩も反応してくれたりして。


 そういう意味でいうと、アーティストによってじっくり曲を作ったり、作ったらすぐにアップするスピード重視の人もいて、どうやってリスナーを楽しませるかということだったり、自分の制作スタイルを世の中に発表できるような場にもなったんじゃないかと思います。「この人はこういう風に作っていくんだ」という普段の動きも見えてくるし、おそらく1カ月じっくり寝かせて曲を作る人も今後いるだろうから、ファンの人たちも長期間で楽しんでくれるといいなと思います。音楽ってこういう風に出来上がっていくんだと楽しんでもらえるので、クリエイターもアーティストもリスナーも皆家にいて、アットホームな楽しみ方が長期にわたってできるこの企画は、今の状況の中で全ての条件をクリアしている“遊び”だし、それがお金にも結びついてくれるといいなと思います。


■「音楽は絶対に必要なもの」
ーーまた、対馬さんは4月3日に音楽関係者に向けたドネーション(寄付)「White Teeth Donation」を立ち上げ、自己資金2,000万円を全て音楽シーンに寄付されたんですよね。これはコロナウイルスの影響に関係なく、2年以上前から計画していたとのことですが、何かきっかけになる出来事があったんでしょうか。


対馬:日本の音楽シーンに対する危機感ですね。素晴らしいアーティストがいてもバックアップが少ないことで埋もれてしまうことが多いんです。それは色々な問題が積み重なっているので時間とお金をかけてしっかり考えていかないといけない。また、世界の音楽シーンと日本は残念ながらかけ離れているのが現状です。そこを変えていくためには技術とセンスを持ったアーティストを見捨てずに一緒に戦い続ける必要があります。White Teethはそのために立ち上げました。


ーー今回の一連の活動で、対馬さんの音楽関係者に対する強い思いが伝わってきました。改めて“アーティストを守る”という思いについて聞かせてください。


対馬:今回のコロナのような状況はとにかく金銭的な補助をすることに尽きます。ただ、通常時に関してはとにかく土壌を作ることだと思います。たとえばサッカーチームがあってもJリーグやワールドカップのような大会がないと切磋琢磨できませんよね。敷居もクオリティも高いリーグ、大会があってそこを目指して頑張る。そういった仕組みが必要です。音楽は世界を相手にお金を稼がないとアーティストがやっていけない日が必ず訪れます。たとえば同じアジアでも韓国やフィリピン、シンガポールはもうそこに向かっています。日本でも、今後はさらにアーティストが世界へ発信してパフォーマンスで戦えるように、同時にそういったアーティストのサポートがしっかりできるスキルを持ったスタッフを育て、流通網や仕組みも日本の音楽関係者全員で作っていくことが大事だと思います。それが結果、アーティスを守ることにつながります。


ーー現状のコロナの影響によってエンタメ業界が揺れるなかで、origamiはどんな思いを第一にアクションしようとしていますか?


対馬:origami PRODUCTIONSが発足して10年になるのですが、2011年の東日本大震災の時に「僕らがやっていることって必要なのかな……」と自らを問うような状況になりました。今回も、その時と同じ感覚に陥りそうになったんです。震災の時には「(音楽なんて)不謹慎だ」という言葉も飛び交っていたし、少し時間が経ってからあの時のことを思い返したりもするんですが、僕たちの世代でいうと今回のライブ自粛は音楽業界にとって二度目の“壁”に当たっている時なのかなと感じます。だけど僕が今思っているのは、音楽や僕たちのしていることは絶対に必要なことなんです。震災の時は、「人から必要とされていないんじゃないか」、「今音楽をやったら嫌われちゃうかな」と悩んだこともありましたが、今はまったくもってそんなことは思わなくて、完全に僕らは必要なことを仕事にしているんだという自負を持っています。


 音楽ではお腹を一杯にすることも病気を治すこともできないけど、なぜボブ・マーリーは「One Love」と歌っていたのか。それを伝えることのできる僕たちがまず一つになる、協力していこうというマインドを音楽を通して届けたいし、音楽は心を豊かにできるということを示していければいいなと思っています。僕は演奏はしないので、その「One Love」をリスナーの皆さんに伝えていくということが、僕に課せられた使命だと思っています。


ーー事態は想像以上に長引きそうですが、長期的に考えていることや見据えているものはありますか?


対馬:この事態がいつ終わるのか、今本当に誰もわからないですもんね……。origami PRODUCTIONSはレーベル機能としてはインディーズですごく小規模なスタイルなので、小回りが利くというのがまずあります。アーティストもスタッフも常に休まず動いてきたことが結果として筋力になっている会社です。それが今回みたいな事態の時に、アーティストに電話したらその日のうちに皆がパラデータを用意してくれたりして、日々の積み重ねが繋がっているのかなと。


 また、弊社所属のアーティストの音楽スタイルとして、日本ではJ-POPのようにフロントラインに立ってお茶の間まで届くという音楽をやっているわけではないですが、逆にそれが僕たちの強みだと思っています。今はとにかく「この事態が1カ月続くならこうしなきゃ」、「3年続くならこう考えなきゃ」と臨機応変に動くことを考えています。先を見据えすぎて日々状況が変わる世の中の動きについていけなくなってしまうのではなく、目の前のことをどんどん解決し続けていくことが元々の僕たちのスタイルだし、今後もそれは変わらずに、音楽で心を豊かにできる方法を模索していきたいと思っています。(神人未稀)


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