『魔進戦隊キラメイジャー』の“安定感”と“懐かしさ” いまを明るく照らす戦士たちの輝き

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2020年04月05日 08:01  リアルサウンド

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(c)2020 テレビ朝日・東映AG・東映

 スーパー戦隊シリーズの魅力は、大いなる「型」にある。色鮮やかなスーツを身にまとったヒーローチームが、雄々しく名乗り、協力して悪の怪人を倒し、ロボットに乗り込んで再度迎撃する。誰もが見慣れたこの「型」こそが、何世代にもわたって愛される安定感を生むのだ。現在放送中のシリーズ第44作『魔進戦隊キラメイジャー』(テレビ朝日系)は、そんな安定感が凄まじい、盤石のクオリティを誇っている。


 闇の帝国・ヨドンヘイムの侵略を受けた、宝石の国・クリスタリア。難を逃れて地球に辿り着いた王女・マブシーナは、ヨドンヘイムに対抗するための戦士、キラメイジャーを探すことに。eスポーツ界No.1プレイヤー、女子陸上界のスーパースター、イケメンアクション俳優、美しすぎるスーパー女医……。各界で活躍する有名人をスカウトするも、肝心のキラメイレッドが見つからない。そんな最後のひとり、類まれない創造力を有する戦士に選ばれたのは、何も持たない普通の高校生・熱田充瑠(小宮璃央)だった。果たして、彼らはキラメイジャーとしてチームを結成することができるのか。


 本作における「安定感」は、そっくりそのまま、ある種の「懐かしさ」と表現することができる。


 近年のスーパー戦隊シリーズは、従来の「安定感」からいくらか距離を取った作品が続いていた。初期メンバーが9人というイレギュラーチーム『宇宙戦隊キュウレンジャー』や、ふたつの戦隊が常に対立する『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』、王道路線の中に変化球や意外性を秘めた『騎士竜戦隊リュウソウジャー』。だからこそ、定番の「型」にキャラクターのインパクトやエンタメ性をまぶした『キラメイジャー』は、どこか懐かしい、お馴染みの作風に感じられる。緻密に組み上げられたプロットと、力強いメッセージが、「楽しく」「明るく」「派手に」暴れまわる。特に、20〜30代の視聴者に刺さるのではないだろうか。


 それもそのはず、プロデューサーを務める塚田英明が過去に手掛けた作品は、2004年の『特捜戦隊デカレンジャー』や、2005年の『魔法戦隊マジレンジャー』など。楽しくて、明るくて、派手。観ていると、とにかくシンプルに元気をもらえる。そんな、日曜の朝に相応しいテンションが特徴的だ。今やシリーズ恒例となり、『キラメイジャー』でも採用されたエンディングテーマのダンスも、『デカレンジャー』や『マジレンジャー』の時代に確立された要素である。


 また、その他のスタッフも実力派ぞろいだ。脚本には『仮面ライダークウガ』『海賊戦隊ゴーカイジャー』の荒川稔久、アクション監督に元スーツアクターの福沢博文、特撮監督の佛田洋と、シリーズファンにはお馴染みの面々が名を連ねる。この座組みを見ただけで一定のクオリティを予感させる、贅沢な布陣だ。


 また、パイロットでメガホンを取るのは、2018年の『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』を大ヒットに導いた山口恭平監督。近年、平成仮面ライダーシリーズからスーパー戦隊シリーズに軸足を移す若手監督が多いが、山口監督もまた、その一角である。明朗かつアイデアに満ちた画作りは、実に手堅い。


 こうしてスタッフ陣を改めておさらいすると、ともすれば2000年代を懐古する作品を予感させる。もちろん、前述のようにその頃の「懐かしさ」が印象深い仕上がりではあるが、『キラメイジャー』が面白いのは、その「懐かしさ」に全く胡坐をかいていない点だ。


 老舗の定食屋に趣き、お馴染みの店内を見渡すも、出てきた料理は未知の新メニューだった。そんな意外なバランスを持つ『キラメイジャー』は、各々の個性や嗜好を尊重する「イマドキ」の物語を展開する。「実は、もっと、周りの目は気にせずに」「好きなことを信じるチカラ」。オープニングテーマの歌詞が象徴するように、メンバーそれぞれの「好き」なことや「信じたい」ことを分かち合い、そこから生まれる前向きで明るい「きらめき」を力に変える。前時代的な価値観が急速に見直される近年こその、トレンドを押さえた作りと言えるだろう。


 また、作品を彩るフレッシュなキャスト陣も必見だ。中でも、キラメイレッド・熱田充瑠役の小宮璃央は、その天真爛漫な笑顔が作品の温度と見事に合致している。何かに閃いた際に「ひらめキーング!」と大声を上げ、わき目もふらずスケッチブックに噛りつく。あまりにクセの強いキャラクターだが、その「濃さ」が「爽やか」にも感じられるから素晴らしい。


 他にも、嫌味のないチャラさが魅力的な木原瑠生、健康的な可愛さが目を引く新條由芽、定番のクール系ブルーをしっかりと演じる水石亜飛夢に、母性あふれる笑顔が素敵な工藤美桜と、そろいもそろって眩しい面々である。彼らの屈託のない笑顔には、自然と頬が緩む。


 だからこそ、『キラメイジャー』を観ていると、なんとも不思議な感覚に襲われるのだ。2010年代のスーパー戦隊シリーズを思わせる「懐かしさ」と、「イマドキ」の価値観が飛び交う2020年の物語。そして、王道の「型」を彩るフレッシュなキャスト陣。つい先日放送が開始されたばかりなのに、もう半年ほど観続けているような錯覚。知っているテンションなのに、観たことのないストーリー。相反する要素や、そこに生まれるギャップを見事にまとめあげる、間違いのないプロの技である。気づけば、その伝統芸に身をゆだねてしまう。


 「ひとりひとりが輝くために、支え合うから5人必要なんです」。第2話にて、「自分のやりたいこと」と「キラメイジャー」の両立に悩むメンバーに、充瑠はこう語りかけた。常に全員が集合して現地で力を合わせることだけが、正解ではないのだ。たとえ離れていても、別々のことをやっていても、各々が輝いていることがチームとして大切なのだ、と。


 誰しも、自らの役割と嗜好のバランスに悩むことがあるだろう。役のために自分を殺す時もあれば、嗜好にこそ救われる時もある。好きなことを信じることが、周囲と生きる助けにもなる。『キラメイジャー』は、そんな「イマドキ」の価値観を、実にピュアに教えてくれるのだ。


 何かと暗く陰鬱なニュースが続く昨今。そんな今だからこそ、懸命に輝く戦士たちの眩しさに、元気を貰ってはどうだろうか。楽しい時でも、ピンチでも。頑張る時でも、ヘコんでも。「好き」を信じて輝くことは、心を健康に導くのだから。(結騎了)


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